夜襲の開始
最初の分かれ道は、右へ左へと分かれている。
オレたちは、店主の指示で左へ進んだ。
地図によれば、この先にも分かれ道があるらしい。
先頭を歩くオレだが、
まったく今まで歩いたことがない道を歩くため、
すこしドキドキしていた。
50mほど歩いただろうか。
店主の言う通り、また分かれ道が見えてきた。
「!」
そして、そこまで歩いて、
ようやく気配を感じた。
左手を挙げて、後続の2人に知らせる。
別に、それまで喋りながら歩いてきたわけではないが、
押し黙る2人。なるべく気配を消しているようだ。
分かれ道は、また左右に分かれているが、
その左側に気配を感じる。
「・・・ゥゥゥ・・・。」
小さなうなり声のような声も聞こえてくる。
そちらのほうへと、息を殺して進むと・・・
「!!」
青黒い体毛の魔獣が、横たわっているのが見えてきた。
『クマタイプ』の魔獣。
5m越えの巨体が、うなり声ではなく
小さな寝息を立てて寝ている。
店主が持っているランプの明かりが、
魔獣にギリギリ当たる距離で、店主たちは立ち止まる。
オレは1人、そっと剣を抜き、
なるべく音を立てないように、
なるべく気配を消して、近づき・・・
ガスンッ!!
「・・・!!」
魔獣の眉間に、いきなり剣を突き立てた!
魔獣は、ビクンと全身が動いたが、
起き上がることなく、暴れることもなく、
声を出すことなく、そのまま絶命した・・・。
剣を引き抜くと、魔獣の頭部から
黒い血が流れ始める。
周りに気配は感じない。
「・・・本当に、一撃、なんだな。
自分の目で見るまで信じれなかったが、
実際に見ても、まだ信じがたいものがある、な。」
周りに気配がないことを察してから、
店主が、小さな声でつぶやいた。
「・・・。」
オレは、それに答えることなく
魔獣の死体を横切って、前へと進む。
店主たちも、黙ってついてくる。
こっちの道へ進んでから、
空気の流れを感じなくなった気がしていた。
広すぎて分からないが、
もしかしたら、この先は行き止まりか?
ランプの明かりだけを頼りに、
真っ暗な道を、ひたすら進んでいった。
何百m、歩いただろうか?
気配を感じないまま、進んだ道の先は
やはり行き止まりになっていた。
以前は、『魔鉱石』の採掘場だった、この『洞窟』。
行き止まりには、ツルハシか何かで掘った後のように、
土や岩に、いびつな小さな穴がいくつもできていた。
「ふぅぅぅぅぅ・・・。」
暗闇の中を気配を探りながら歩くため、気を張っているから、
行き止まりを見た瞬間に、深い溜め息が出た。
それは、後ろからついてきていた店主も同じようで、
後ろから深い溜め息が聞こえてきた。
「はぁぁぁ・・・これで、ひとつの道は確認できた、な。
さて、戻るときは、ちょっと急いで戻ろう。
確認できていない道は、ちまちま歩かなきゃいけないが、
確認が終わっている道を引き返すときは、走らなきゃ、
夜明けまでに終わらねぇぞ。」
「そうだな・・・戻ろう。」
「ん・・・。」
オレたちは、分岐点まで軽い駆け足で戻ることにした。
タッ タッ タッ タッ タッ
戻りながらも、店主は地図を確認しているようだった。
しかし、走っているからランプが揺れて、
とても見づらそうだ。
「今の道は、地図に記されていたのか?」
オレは走りながら店主に聞く。
「いや、この道は初めてだった。
短くてラッキーだったな。」
店主は、そう答えた。
軽く1kmほど歩いた気がしていたが、
どうやら500mほどしか歩いてなかったようだ。
今ので、短いか・・・先は長いな。
さきほど討伐した魔獣の死体を横切り、
分岐点まで戻った、オレたち。
「はぁ、はぁ・・・ふぅぅぅぅ。」
オレと店主は、息を切らしていたので、
少しそこで息を整える。
カツン コツ カツン
店主が、今戻ってきた道の中央に、
そこらへんに落ちていた少し大きめの石を3つ並べて置いた。
「確認済み」という意味か、
「行き止まり」だったという意味か。
たぶん、迷わないための印なのだろう。
「よし、今度は右へ行く。
こっちの道は、1km先で行き止まりになっているはずだ。」
店主が、そう言った。
分岐点から右の道は、
店主が以前、通ったことがあるようだ。
1kmかぁ・・・疲れるなぁ。
「うむ。」
オレはうなづいてから、また慎重に
気配を探りつつ、進みだした。
ちらりとニュシェを見たが、
疲れている様子ではなく、ただ・・・
「・・・ぅぅ。」
少し眠そうな感じだ。
・・・そうだよな、昼間からずっと
町中を逃げ回っていただろうから、
こんな夜中にまだ動き回るというのは、
若くても体力的にキツいだろう。
・・・背負ってやろうかな?
しかし、それはそれで、
また店主に過保護すぎると非難されるような気がしたので
やめておいた。




