追跡者
装備は、剣とランプ、
腰の布袋には、地図とランプ用の油、回復用の薬が3本ほど。
鎧は、不要だった。
対人戦の時にこそ役立つが、魔獣相手には無意味だ。
殴られても、噛まれても、大ケガをする。
むしろ鎧が無いほうが軽くて動きやすく、
暑くならないのがいい。
ついでに、女2人もいない。
なんとも身軽で、仕事がしやすい。
・・・はずなのだが。
町を出て、ずーーーっと、
小さな気配が後ろからついてきている・・・。
小さな気配・・・。
思い当たるのは、あの子しかいない。
小さな気配を感じた時点で、
あの子が無事と分かり、ホッとしたのも束の間・・・。
このまま、ついてこられては、
あの子を危険な目に遭わせてしまう・・・。
それでは、木下やシホに黙って出てきた意味がない。
誰も巻き込まずに、済ませてしまうはずだったのに。
そう考えている間に、すでに山の中。
小さな気配が帰る様子はない。
いくら魔獣たちが夜行性じゃないにしても、
少女だけでは帰ることも危険か・・・。
「・・・はぁ。」
オレは、立ち止まって溜め息をついた。
小さな気配も立ち止まった。
「ニュシェ、そこにいるんだろ?」
オレは、少し大きめの声で後ろに呼びかけた。
すると小さな気配が近づいてきた。
「・・・ん。」
オレが持っているランプの明かりが
ぎりぎり当たる所に、ニュシェが現れた。
「・・・オレは、1人で『洞窟』へ向かって
魔獣を討伐してくるつもりだ。
このままついてこられると、
お前を危険な目に遭わせてしまうんだが?」
「・・・。」
こちらの事情が分かっていないと思ったから、
そう説明してみたのだが、ニュシェからは返事がない。
ただ、うつむいて、そこに立っている。
立ち去る感じもない。
・・・遠回しに「お前は邪魔だ」と告げたようなものだ。
遠回し過ぎたか?
しかし、これ以上、はっきり言ってしまうと、
それは『違う意味』に受け取られてしまう気がした。
オレの本心は、説明した通りだ。
危険な目に遭わせたくないだけなのだ。
「・・・と、言うわけで、
そこにいるあんたがニュシェを
町まで送ってくれると助かるんだが!?」
ビクッ!
オレは、ニュシェの後ろに向かって
また少し大きな声で、そう言った。
オレが、急に大きな声を出したために、
ニュシェがビックリして、獣の耳がビクっと震えた。
ザッ ザッ
オレが持っているランプの明かりが当たる所へ
ゆっくり現れたのは・・・やっぱり宿屋の店主だった。
ニュシェがビクビクして、オレの後ろへ移動してきた。
まだ店主には慣れてないのか。
「人が悪いな。ずっと分かってたのか?」
店主がそう言ってきた。
「人が悪いのは、どっちだ。
あんたの気配はさっきまで全然分からなかったよ。」
オレは、素直にそう答える。
ニュシェの気配は分かっていたが、
店主の気配はまるで分っていなかった。
ニュシェに呼び掛けた時、わずかに別の気配を感じたから、
もしかしてと思っただけだ。いわゆるカンというやつだ。
「それにしても意外だったぜ、おっさん。
あんたが、こういう行動に出るとは思わなかった。」
店主が、やんわりとそう言う。
「まぁ、自分でも驚きだよ。
オレは、こういうメンドクサイことは
なるべくしたくない主義なんでな。」
「だよな。あんたはそんな感じだと思ってたよ。
一応、聞くが・・・宿の主である俺に一言もなく
窓から出てきたのは、宿代を踏み倒すためではない、よな?」
そう質問されて、
店主がここまで跡をついてきた理由が分かった。
「いや、断じて違う。
だいたい、夜逃げするにしても、
1人でこんな山奥には逃げないだろ。
大きな荷物も部屋に置いてきてるし。」
「それもそうだ。」
オレも店主も静かに言葉をかわしている。
なぜなら、ランプに照らされた店主の姿が
いつもと違うからだ。
腰に、短剣?のようなものを2本差している。
店主からは、殺気も怒気も感じられないが・・・
強い言葉で刺激を与えてしまうと、
今にも、襲い掛かってくるような・・・
そんな危ない空気を感じる。
ニュシェがオレの後ろに隠れたのは、
いつもの店主とは違う空気を感じ取ったからかもしれない。
「さっき、そのお嬢ちゃんに説明した理由が、
あんたが窓から抜け出した理由か?」
「そういうことだ。
まったく性に合わないことをしていると自覚しているが、
どうにもこうにも『ウソ』を突き通すことのほうが
オレの性分には合わないらしい。」
オレがそう答えると、店主が、やっと笑った。
「はははっ! どう考えても
『ウソ』を突き通すほうがラクなのに、
おっさん、あんたバカ正直すぎるぞ!
突き通す『ウソ』を無くすために、
あの『洞窟』へ行くなんて!ははっ!」
店主の笑い声が、山に響く。
周りに気配はないが、
魔獣たちが起きださないか、
ちょっとドキドキする。
ひとしきり笑ったあと、
店主はオレの目を見て、言った。
「じゃぁ、仕方がねぇな。
こんな老いぼれを1人で行かせたとなれば
おちおち寝ていられない。
そこの嬢ちゃんを守りながらとなれば、
なおさら、1人では無理があるだろ。
あんたに付き合ってやるよ。」
「いや、だから、あんたが
ニュシェを町まで・・・。」
「こんなとこで話してる時間はないぜ?
なんせ、あの『洞窟』は、全長5kmあるらしいからな。
夜は短い。さっさと行くぞ!」
店主は、オレの制止も聞かず、
山道を登り始めた。
「おいおい!
・・・人のことは言えないが、
あんたも相当な世話焼きだな!」
オレがそう言いながら、
店主に続いて、歩き出した。
ニュシェも、オレの後ろに続く。
「・・・ニュシェ。」
「ん?」
「無事でよかった。」
オレは振り向きもせず、
ニュシェにそう伝えた。
ニュシェの表情は見ていないが、
どんな気持ちでオレの言葉を受け取っただろうか。
とにかく、オレたち3人で
『スヴィシェの洞窟』を目指すことになってしまった。




