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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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『ヒトカリ』へ要請



善は急げ、というわけでもないが、

居ても立っても居られなかった。

オレたちは、店主との話し合いの後、翌日を待たずして

この町『プロペティア』の『ヒトカリ』へ行くことにした。

明日、いきなりお願いして、

確認する者が同行してくれないとなれば困るからだ。


『ヒトカリ』へは、シホが案内してくれた。

大通りは、まだまだ魔獣たちの後始末や

被害に遭った家屋の跡片付けなどで、騒然としていた。

その大通りを、東へ向かい、

例の『教会』を少し過ぎてから南の方角へ曲がる。

裏通りみたいな細道を通った先に

この町の『ヒトカリ』はあった。


この町の『ヒトカリ』も、なかなか大きな建物だが、

ここへ来るまでに、案内板みたいなものは無かった。

やはり、この国で『ヒトカリ』は、

他力として見なされていて、国民のほとんどが

『ヒトカリ』へ頼ることを嫌っているようだ。


『サセルドッテ』の町でもそうだったが、

『ヒトカリ』内の『依頼掲示板』の前は、

ちょっとした広場になっていて、

傭兵たちの溜まり場になっているようだ。

そこで他の傭兵たちと交流したり、情報交換をするのだろう。


ざわざわざわざわ・・・


「も、『森のくまちゃん』!?」


「アレがそうなのか? ただのジジィにしか見えないが・・・。」


オレたちが『ヒトカリ』へ入ると、その溜まり場にいた

数人の傭兵たちがざわざわと騒ぎ出した。

オレたちも、すっかり有名になってしまったものだ・・・。


2つある窓口。

その一方の窓口にいた女性に話しかけた。


「ひぃ!『森のくまちゃん』!!」


話しかけただけで、ものすごくビビられてしまった。

これは、『間違ったウワサ』のせいだろうな。


オレたちは、用件を伝えた。

『サセルドッテ』で引き受けた依頼を

完了させたので、明日、いっしょに

『洞窟』へ行って確認してほしいと伝えた。

また、『洞窟』の奥には、人間の反応があり、

救出するなら、救出するための人員が必要であると伝えた。


「ちょ、ちょっとお待ちを!」


予想通り、窓口の女性だけでは対処できず、

女性は後ろにあるドアへ入っていった。

ここの上司に報告するのだろう。

・・・『サセルドッテ』の時のように、

ここの上司が曲者じゃなければいいのだが・・・。


そういうイヤな予感というのは当たるものだが、

今回に限ってはハズれてくれたようだった。


ドアを開けて戻ってきた窓口の女性が


「では、明日の午前中、一度こちらへ来てください。

確認の係りの者が『洞窟』へ同行しますので。」


と告げてきた。


「分かった。では、明日。」


オレは、そう返事した。

これで、明日、『洞窟』内の魔獣たちの

全滅確認がとれれば、依頼達成ということになる。

・・・早くニュシェを、この国から逃がしてやらねば。




ただ・・・あの『洞窟』には、まだ魔獣たちが

残っている可能性がじゅうぶんにある。

『洞窟』内のすべてを探し回ったわけではないからだ。

入り口から続く坑道に転がっている

魔獣たちの死体を見ただけで「全て討伐した」と

判断するかもしれないが・・・。

いや、全国に支店があるほど大きな会社『ヒトカリ』が

そんな怠慢な仕事をしているとは思えない。


「・・・。」


「おじ様、さっきから何を考えているんですか?」


オレが難しい顔をして歩いていたのを

木下はしっかり見ていたようだ。


「いや、明日になれば、あの『洞窟』を

確認されるわけだが、当然、あの『洞窟』には

まだ魔獣が生き残っている可能性がある・・・。

どうやって、確認するつもりなのかは知らんが、

手っ取り早く『サーチ』で確認するにしても、

いちいち肉眼で確認するにしても、

あの中で魔獣が一匹でも残っているのが分かれば、

その時点で、オレたちの依頼達成は・・・。」


「そうですね。

すぐに達成していないことがバレるでしょうね。」


以外にも、木下は平然と、そう答えた。

すでに予想していたということか。


「なんだよ、おっさん。

分かってて、こんな強引な策に出たのかと思ってたぜ。」


シホがオレを責めるようにそう言う。


「すまん。予想はしていたことだが、

そのことについての対策もなしに

先に行動してしまった。」


オレは、素直に謝った。


「私もてっきり分かっていて

行動しているのだとばかり思っていましたが・・・

そんなわけ、なかったですね。」


木下もオレを責めるような言い方だが、

木下のほうは、すでに諦めも入っているようだ。

・・・何も言い返せない。


「まぁ、この言い訳が通じるかどうかは分かりませんが、

明日、『洞窟』内で、生き残っている魔獣に遭ったら、

その係りの者の、目の前で討伐してやればいいだけのことです。

そして、昨日はいなかったと言い張る。」


木下が、さらりとそう言った。

さすが策士だな。

たしかに、ちょっと強引な気もするが

ちゃんとした言い訳に聞こえる。


「それで、納得してくれるかな?」


シホは、少し心配のようだ。


「みなさんのお話によれば、

ここの魔獣たちは夜行性ではないため、

昼間は『洞窟』から出てしまっていて、

陽が落ちる頃に『洞窟』へ戻っている魔獣もいるようです。

そのことも話せば、かなり説得力に繋がると思います。」


「おぉ・・・。」


木下の話を聞いて、シホも納得した様子だ。

さすが木下・・・悪賢い。


「・・・。」


木下の言い訳で、完璧なのだが・・・。


「おじ様?」


オレは、また難しい顔をしているのだろうな。

そして、本当に・・・

無い頭で、難しいことを考えてしまっている。




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