報告会の終わり
「そうだ。
『洞窟』の中にいても、まったく襲われていない・・・
もしくは、襲われても
負けることがないほどの強さを持つ・・・
そんな存在ならば、魔獣の巣窟となった
あの『洞窟』の中でも、
たった一人で生き続けることが可能だろう、な。
『魔物化』した人間・・・
つまり、本物の『バンパイア』だ。」
店主が、とんでもない可能性を言い出す。
『魔物化』の話は、たしか
国境の村で、聖騎士デーアに説明を受けたが、
はっきりとした原因は分からないと言っていたはず。
「そ、そんなことが有り得るのか?」
あまりピンとこない話だ。
魔獣の巣窟の中に、『魔物化』した人間がいるなんて。
「うーむ・・・どうだろうな。
これは、あくまでも可能性の話だ。
実際、『魔物化』する条件はいまだに解明されていない。
そして、ここ何十年か、本物の『バンパイア』が
出没したという話は聞いていない。
そもそも、大昔に存在していたって話も、
本当に『バンパイア』だったかどうか怪しいもんだ。」
店主が、眉間にシワを寄せて、目を閉じて、
考えながら話している。
たしかに、『獣人族』を『バンパイア』と同じ分類に
制約として決めてしまうような国だから、
大昔に、本物の『バンパイア』がいたかどうかも
怪しいのはうなづける。
「・・・だとしたら『洞窟』内にいる
人間が『魔物化』しているという可能性は
低いってことになりますよね・・・。」
木下も、考え込むように話す。
「そうだ、可能性は低い。
しかし、現時点の情報で推測すると、
可能性として、有り得る・・・という話だ。」
店主は、そう言った。
「・・・。」
シホは、分かっているのか分かっていないのか、
どこか遠い目をして、黙って聞いている。
あくまでも可能性の話・・・。
ならば、ここで話し合っていても
結論は出ないわけだな。
オレは、『魔物化』した人間の話とは
別の話をすることにした。
「ところで、
『洞窟』内の魔獣が全滅したかどうかは、
どうやって証明するんだ?」
オレは、気になっていることを
木下に聞いてみた。
「え? そうですね・・・
今回の場合は、『洞窟』がとんでもなく広範囲ですし、
私たちが討伐完了の報告を『ヒトカリ』にしたら、
その『ヒトカリ』の係の方が『洞窟』内へ
確認しに行くのだと思いますが・・・。」
木下の回答も、少しあやふやな感じがした。
おそらく『契約書』に詳しく書かれていないのだろう。
それだけ、今回の依頼が異例であり、特殊過ぎるということか。
「よし。この町の『ヒトカリ』へ行って
明日はその係の人について来てもらおう。
その際、『洞窟』内に人の反応があったことも話してしまおう。
オレたちの依頼内容は、魔獣討伐だから、
『洞窟』内の人助けは依頼に含まれていないからな。」
「ほ、本気かよ、おっさん!?
まだ全て討伐したかどうか分からないうちに、
『ヒトカリ』の係に言ったって、
ついて来てくれないと思うぜ!?」
シホが、当然のことを言う。
それはオレもそう思うが・・・
「討伐完了してから、報告して、
それから確認してもらって・・・って、
そんなチンタラやっていたら、時間がかかってしまう。
聖騎士たちが、この町に集まってしまう・・・。
ニュシェを早く助けたい。」
オレは、自分の考えを伝えた。
冷静さに欠けた作戦かもしれないが、
慎重になっている場合でもない。
事は一刻を争う。
「そうですね・・・。
今回の討伐完了の報告は、ここではなく
依頼を受けた『サセルドッテ』の町の『ヒトカリ』でないと
報酬金が受け取れないことになっているので、
町へ往復するだけでも時間がかかってしまいますね。
全滅しているかどうかの確認をするだけなら、
この町の『ヒトカリ』でも大丈夫だと思うので、
明日、掛け合ってみましょう。」
木下は、そう答えてくれた。
我ながら、少々強引な策のような気がするが、
木下がそう答えてくれて、少し安心した。
「はぁ~、すごいな、2人とも。
俺は『ヒトカリ』から仕事をもらっているって
気持ちがあるから、そんな無茶なことは
言い出せないっていうか・・・
こっちから何かをお願いするなんて、
思ったこともないというか・・・。」
シホが、感心しているのか、呆れているのか、
よく分からない口調で言う。
たしかに、『ヒトカリ』に雇われていると考えれば、
普通は、こんな無茶を『ヒトカリ』に対して言わないものだが。
「シホの、その考え方が普通なんだと思う。
それが間違っているわけではないが、
今回は・・・ニュシェのためと思って、
オレの策を通させてもらう。」
ちょっと強引な方法だが、
とにかく、今は時間が惜しい。
「分かってるよ。
もう俺もパーティーの一員だからな。
ニュシェを早く助けたい。」
シホも同意してくれた。
「・・・あんたら、いいパーティーだな。」
店主が、少しうらやましそうに、そう言った。
と、そこで
ドアの外で気配が近づいてドアがノックされた。
コンコン
「清春さん、騎士たちが
店の前に転がってる『ラスール』を燃やすそうですが、
許可をもらえるかって、聞いてますが?」
どうやら店員の男のようだ。
ドアごしに、店主へそう伝えてきた。
「あぁ、今、行く!」
店主が、そう答えて立ち上がった。
「そういうわけで、報告会と作戦会議は、ここまでだな。
今夜の泊まる部屋は、夜までに別室を用意しておくから、
それまで荷物はこの部屋に置いておくといい。」
「満室御礼じゃないのか?」
「『ラスール』の攻撃のせいで、
連泊するやつがいなくなったからな。」
そう言って、店主は部屋から出て行った。




