完璧な作り笑顔
どこからそんな自信が出てくるのか、
木下は、胸を張って提言した。
「私がついていくことで、
ドラゴン存在の有無、そして討伐を確認できます。
いわば、私自身が証人となります。
証拠品も、一人より多く持ち帰ることが可能になります。
幻のドラゴンの身体、研究価値も高いですから
多ければ多いほど良いかと。」
「・・・。」
オレを含めた、この場にいる全員が
開いた口をふさげずにいる間に、
木下は淡々と発言してゆく。
「もちろん討伐は佐藤隊長にやっていただきます。
しかし、ドラゴンは強大な魔物と聞いております。
戦闘状況によっては、私も加勢します。
私は、補助系の魔法に長けておりますが、
攻撃系の魔法は得意ではないので、補佐役として。
これは佐藤隊長を助けるというよりは、
私自身の身を守るためでもありますし、
『特命』の最大の目的は『討伐』であり、
その方法は問わないと、さきほど言われましたので、
何人で討伐しようと、問題ではありませんよね?」
「・・・。」
もはや、村上も反論の意思が見られない。
呆気にとられるとは、まさにこのことだろう。
「次に、討伐期間やその期間中の支度金について。
期間が長引けば長引くほど、支度金の送金が発生し、
私と佐藤隊長の2人分となると、さらに厳しいものとなります、が!
私の故郷は・・・王様だけはご存知でしょうが、
『未開の大地』から近いとされている『ハージェス公国』。
この『ソール王国』よりは、わずかながら『未開の大地』の情報があり、
情報提供や滞在費用などを『ハージェス公』に協力をお願いすることで
『ソール王国』と『ハージェス公国』の友好関係が築けます!
その橋渡し役が、『ハージェス公国』出身の私ならば
スムーズに事が運ぶことでしょう!」
「・・・。」
どこからどこまでが本気なのか・・・
いや、こいつはすべて本気なのだ。
「情報も人員もお金も、最低限のコストで
『特命』を達成できる!
討伐期間も、佐藤隊長一人では、5年~10年は余裕でかかるところ、
私の提案ならば、1年・・・は無理でも、
2年か3年以内には達成できる見込みです!」
「・・・。」
おそらく、完璧な提案だ。
ただし・・・木下の提案にも穴がある。
「ちょっと待て、木下!」
口を挟まずにはいられない。
みんなが口を挟まないなら、オレが挟まなければ。
「その提案にも、穴があるぞ!」
木下の作り笑顔が、すこしこわばった。
眉が、すこしピクピクしている。
穴があるとは思っていなかったのだろう。
「どんな穴ですか?」
「それは、オレは男で、お前は女ということだ!」
「・・・それが何か?」
「何か、じゃない!
お前の言う通り、この『特命』を果たすには長い年月がかかる!
最速でも、1年だ!
ちょっと近場に出張して3日後に帰るとか、
そういうノリじゃないんだよ!
お前の提案が通れば、1年~3年ぐらい
オレとの2人旅になるんだぞ!」
王室にいるみんながうなづいている。
美女と野獣をいっしょに数年も旅させるなんて、
たとえ『特命』であっても、おかしいだろう。
「・・・失礼ですが、佐藤隊長は独身ですか?」
「いいや、ちゃんと女房がいる。」
「では、問題ないですね。
お互いに独身ならば、旅とは違う意味で、
身の危険もあったかもしれませんが、
妻帯者であれば、私を襲うことはしないでしょう?」
こいつは・・・頭がいいのか?悪いのか?
分からなくなってきた。
それとも、この会話も、ヤツの手の内なのだろうか?
「いや、仮にオレたちがそれで良かったとしても、
周りのやつらは、そう見ないだろう!
間違いなく、怪しい関係だと疑われる!」
なにか言わないと、この木下に
王室のみんなごと丸め込まれる感覚だ。
「村上人事室長、私と佐藤隊長が
2人で『特命』の旅に出ることについて、
なにか怪しい点はありますか?」
「・・・いえ、別に。」
ダメだ!
村上は完全に戦意喪失している。
頭のいいヤツなら、
いくらでもツッコミどころがあるはずなのに。
「どうやら、気にしすぎているのは
佐藤隊長だけのようですよ。」
木下の顔が、完璧な作り笑顔に戻った。
木下の無茶な提案が、通ってしまった瞬間だった。
「だいたい、佐藤隊長は
さきほど通路で話していた時に、
『どうぞご自由に』と申されましたよね?」
「はぁ!?
いつオレが・・・あー!」
思い出した!
たしかに言った!
木下が「ついていく」と言っていた!
あれは、こういう意味だったのか!
「オレはてっきり
王室までついてくるという話だと思って!」
「そういえば、私としたことが
目的語が抜けていたかもしれません。
申し訳ありません。しかし、たった今、
みなさんの承諾も得られたということで。
改めて、佐藤隊長についていくことが決定したようです。
佐藤隊長、よろしくお願いいたします。」
完璧な作り笑顔のまま、木下がお辞儀する。
オレは、突然のことで冷静さを欠いていたのもあり、
その場のみんなと同じく、
木下に反論することができなかった。




