表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
175/501

老兵の判断




・・・17匹の討伐が無事完了した。


「はぁ、はぁ・・・ふぅぅぅぅ・・・・。」


オレは、深く息を吐いた。

シホが2回目にかけてくれた魔法の効果も、

ちょうど切れたようだ。


1回目の魔法の効果が切れた直後に、体重の重みを感じ、

それまで感じていなかった疲れを一気に感じた。

それでも、魔獣たちが次々に押し寄せてきたので、

シホにもう一度、スピードアップの魔法をかけてもらったのだった。

正直、魔法のおかげで、スムーズに討伐できたと思う。

やはり補助系の魔法は使い方によって

戦い方がだいぶ違うのだなと実感できた。


木下たちが待機していた道幅の狭い

岩だらけの地点から、分かれ道までの十数mの距離・・・

その場所に、5m越えの魔獣たちの死体が17匹・・・

ところ狭しに転がっている。

積み重なっている死体から、大量のドス黒い血が滴っていて、

水たまりのような血の池があちこちに出来上がっている。


「おぇぇ・・・お、えぇぇぇ・・・。」


ニオイに敏感なシホが吐き気をもよおしている。

オレも気持ちが悪くなってくる。


ちなみに、シホの姉のカタキは現れなかった。


オレは剣についた血を、腰の布袋から取り出した布で

拭きとりながら、ため息まじりに言った。


「はぁ・・・さて、もうここでは迎撃できないな。」


『洞窟』内は、迷路だ。

できれば、この入り口付近から分かれ道までの

この道へ『洞窟』内の魔獣たちをおびき寄せて、

道に迷うことなく、戦いやすい場所で討伐していたかったが・・・

攻略2日目にして、もうこの区間の道は、

魔獣たちの死体で溢れかえり、足の踏み場も無くなってきている。

おびき寄せることはできても戦いづらい。


「いっそ、一度、すべての死体を燃やしてしまうか。

そうすれば、骨は残っても、とりあえずは

戦う場所を確保できそうだが・・・。」


「・・・そうですね・・・・。」


そう返事した木下は、どこか元気がない。

まだ、オレに全ての魔獣討伐をさせていることに

自己嫌悪を抱いているのだろうか?


「そ、それよりも・・・

どうしましょうか・・・この奥の人間は・・・。」


「あ」


そう言えば、そうだったな!

さきほどの木下の『サーチ』にひっかかったという

人間の反応・・・。

木下は、そっちのほうを気にしていたようだ。

まったく身動きしなかったという話だったが、

オレたちが魔獣討伐している間に、

動きはあったのだろうか?

動けないとしても、生きていることが有り得ないのだが・・・。


「なぁ、今日はもう退くのか?」


シホがそう聞いてきた。

たしかに、この魔獣たちの死体を燃やすにしても

今日のところは、もうこれ以上の戦闘は

よくない気がする。


「そうだな。帰り道で、また魔獣たちに出くわす可能性も有るし、

体力が残っているうちに、今日は撤退するか。

しかし、この奥の人間は・・・。」


オレが考え込むように、そう答えたら


「もし、もう一度、『サーチリング』するなら、

今度は、俺がやっていいか?

ユンムさんほどの範囲はないんだけど、

俺も確かめてみたい。」


シホが、そう言った。

気持ちはわかる。

オレも『サーチ』が使えるなら確認してみたい。

本当に、この奥に生きている人間がいるのか、どうか・・・。


「うーん、距離としては、一番奥に感じたので、

私と同じくらいの魔法の範囲じゃないと

反応を感じられないかもしれません。」


木下がそう答えていた。


「うー、そうか・・・。」


シホは残念そうな目になっていた。


もう一度、『サーチ』するなら

木下にやってもらうとして・・・どうするか?

もし、まだ生きているなら助けるべきだろう。

『サーチ』にひっかかっても動きがなかったのなら、

なんらかの原因で動けない体になっているかもしれない。

しかし、この奥へ3人だけで進むのは

かなり危険な気がする・・・。


「いや、今日は、このまま撤退する。

この『洞窟』に詳しいのなら、人探しや人助けもできるが、

オレたちでは逆に遭難したり、魔獣たちに囲まれて

全滅する可能性のほうが高い。

この奥にいるやつは、気の毒だが・・・

助けるにしても、宿屋の店主と相談して決めよう。」


オレに、もっと若さと体力があれば、

すぐにでも助けに行ったかもしれないが・・・

いや、この2人の命を危険にさらすわけにはいかない。

この『洞窟』に詳しい、あの店主に

相談した方が助けられる確率が上がるだろう。


「ぅ、おぇ・・・わ、分かった。」


「はい・・・。」


オレたちは、そう決めて、

早く町へと戻ることにした。


町の方も、魔獣の襲撃があったはず。

おそらく無事だとは思うが、

ニュシェたちの安否も心配だ。


魔獣の死体は、すぐにでも燃やしてしまいたいが、

大量過ぎるため、一度火をつけたら、

燃え尽きるまで見張っていないと、山火事になっても困る。

時間がかかるようだから、明日、燃やすことにした。


『鉄の槍』は、残り6本。

また『洞窟』前に置いていくことにした。

はっきり言って、最初の作戦は使えなくなっているから

もう購入する必要性が感じられない。

しかし、あの武器屋の店主は、

また仕入れてくれている気がするなぁ・・・。




「ふぅ・・・ふぅ・・・。」


木下が息切れしながら、ついてきている。

山道は登りも下りも、体力を使う。

若いくせに、オレより体力がないとは情けない。


「今日もおっさんのカッコいいとこ、

ばっちり見ちゃったなぁ~。

そして、俺の風の補助魔法もばっちり決まってたし!

すべて瞬殺! 風のごとし!

また、みんなに教えてやらなきゃ~!」


シホは、軽く息を弾ませながら

上機嫌で、そんなことを言う。

シホは、木下よりは年上のはずだが

傭兵稼業が長いせいだろう。

木下より細い体のくせに体力があるようだ。


「おいおい、もう宣伝はしないでくれよ。

聞かれたことに答える分にはいいかもしれないが。

宿屋の店主に食堂に来るなと言われただろ?」


シホのおかげで、嬉しくない悲鳴をあげていると

今朝、宿屋の店主が言っていたことを思い出す。


「えー? 清春さんが言ってたのって、

『振り』じゃないの?

もっと宣伝しろよ!って!」


「あれが『振り』なわけあるか!

困ってるって言ってただろ!」


オレは、それなりに疲れているが、

昨日よりは、3人とも体力に余裕がある。

シホは、まだまだ戦えそうなぐらいだ。


このまま町へ戻っても、

なにも起こっていなければいいのだが・・・。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オッサンとシホタンの技のマリアージュ。 無敵ですね! 翌日のブローバックがちょっと怖い気もしますが(笑) マジ、「本物の騎士」連中にも勝てそう… あとキノシタンも何気に凄い魔法! 徐々に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ