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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
171/501

作戦変更




オレたちは、また山道を登り始めた。


『鉄の槍』は、4本使ってしまい、

今、手元には1本しか残っていない。

地面をえぐった槍は、もはや壊れていた。

形状すら残っていないものや、

地中深くに入っていて掘り起こせないものもあった。

分かっていたことだが、『投げ槍』用の『鉄の槍』だから

もともと耐久性が低く、竜騎士の技にも耐えきれないようだ。

再利用はできない。使い捨てだ。

剣でもじゅうぶん戦えるが、

超接近戦になってしまうため、木下たちが

魔獣に囲まれて危険な状態になってしまう。

もう少し『鉄の槍』を買っておくべきだったか。


「町は、大丈夫かな・・・。」


シホがつぶやいた。

町の方から聞こえていた鐘の音は

オレたちが戦っている間に、聞こえなくなっていた。


「はぁ、はぁ、ここまで来たら、

町のやつらを信じるしかないな。」


オレも不安ではあったが、

もう引き返すには遅すぎる。

町にいる強い聖騎士が守ってくれたと思いたい。


「ぜぇぜぇ・・・。」


山道の勾配がきつくなってきた。

オレは『鉄の槍』1本しか持っていないため、

昨日よりは、ラクに登れている。

シホのやつも、元々、体力はあるらしく、

まだ余裕に見える。

ただ、木下だけは昨日と同じく余裕がない。

今、また戦闘になったら、

すぐには対処できないだろう。


「それにしても、さっきの

2人の魔法の重ね掛けは見事だったな。

素晴らしい判断だった。はぁ、はぁ・・・。」


オレは、素直に2人を褒めた。


「ユンムさんのアイディアだ。はぁ、はぁ、

俺は、自分を守ることしか頭になかったな。」


シホがそう言ったが


「ぜぇ、ぜぇ・・・いえ・・・はぁ、はぁ、

シホさんの、魔力が・・・はぁ・・・

強くって・・・助かり、ました・・・はぁ、はぁ。」


木下が、息切れしながら

シホを褒めていた。


「・・・。」


何か話しかけるごとに、木下が

つらそうに返事をするため、

オレたちは、そのあと無言で『洞窟』を目指した。




あれから1時間後ぐらいか。

オレたちは、『洞窟』にたどり着いた。

それまで、他の魔獣に出会わなかったのは、

昨日に続いて運がよかった。


オレが置いておいた『鉄の槍』5本は、

昨日の状態のまま、置いてあった。


ザスッ


オレは、持ってきた1本の『鉄の槍』を

その近くの地面に突き刺した。


「・・・風がないな。」


昨日までは、『洞窟』から風の通り抜ける音や

かすかな空気の流れを感じていたが、

今日は、それらを感じない。

『洞窟』の入り口から見る限りでは、

昨日と全然変わらないように見えるが、

本当に、『洞窟』の奥が塞がってしまったのかもしれない。


『洞窟』からは、獣のニオイと、

血生臭いニオイがしている。

魔獣の死体が、昨日のまま『洞窟』の中に残っているからだ。




オレたちは、一息つく間もなく、

注意深く、『洞窟』の周辺を

少し探って歩いてみた。

気配は感じないが、

木下の『サーチ』の範囲を警戒して探る。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・ぜぇ、ぜぇ・・・。」


木下が早く休みたいような顔をしているが、

安全が確認できるまでは、一息つけない。




結果、周辺に魔獣の気配はなかった。

そうは言っても、範囲が広いから

こうしている間に、範囲内に魔獣が入ってきてしまう

可能性はあるわけだが。


ひとまず、『洞窟』の入り口で、一息いれる。

おのおの持参していた水筒で水分を補給する。


「ふぅ・・・。」


「もし、『洞窟』が

塞がっていたら、どうするんだ?」


シホが聞いてきた。

昨日の竜騎士の技で、『洞窟』の奥は、

岩や土で塞がっている可能性がある。


「そうだな・・・岩を斬る技もあるが・・・

威力が大きすぎて、『洞窟』が崩れる恐れもあるしなぁ。」


竜騎士の技を使えば、

岩は簡単に排除できるかもしれないが、

『洞窟』内で技を使うと

生き埋めになってしまう可能性がある。


「はぁ、はぁ・・・んー・・・

土の魔法で、岩をどかしてみるのは、どうでしょう?」


木下が、息を整えながら、そう提案してきた。


「そういう魔法があるのか?」


「はい・・・はぁ、はぁ、

本来、防御に使う魔法ですが、

うまく利用できれば、岩を動かせると思います。」


頭のいい木下ならではのアイディアだな。


「よし、それでやってみよう。

シホはランプを持っていてくれ。

ランプの明かりが無くなったら魔法で明かりを。

もし、『洞窟』が岩で塞がっていたら

木下はその魔法で排除してくれ。

そのあと、『洞窟』内の最初の分岐点で

『サーチ』を使い、この入り口まで戻ってくる。

出てくる魔獣たちを、ここで迎撃する。」


オレは作戦を伝える。


「ま、待てよ、おっさん、

ここへ戻ってきて、『洞窟』の魔獣に

槍を突っ込んだら、また『洞窟』の奥が塞がっちまうぞ?」


シホが大事なことを言ってくれた。


「そ、そうだったな。

そうか・・・じゃぁ、もう槍を使った

作戦は使えないってことか・・・うーん。」


塞がるだけじゃなく、

完全に『洞窟』が崩れてしまう恐れもあるな。

もう「魔獣をおびき寄せて一列に並ばせて貫く」という作戦は、

使えなくなってしまったか・・・。


「じゃぁ、仕方ないか・・・。

この剣でも、じゅうぶん魔獣を斬れることは

分かったから、わざわざここに戻らず、

魔獣を斬っていくことにするか。

乱戦になる可能性が高いから、魔獣が現れたら、

また2人は防御に徹してくれ。」


オレはそう結論づけた。

槍で一網打尽にできないならば、

ここへ戻ってくる必要はない。

直径10mぐらいの広い『洞窟』の道だ。

剣で迎撃するなら、べつに

『洞窟』の中でもいいわけだ。


「わ、分かった。

それにしても、その剣、すごいな・・・。

みんなは斬れなかった『ギガントベア』や『ラスール』の

体を斬っちゃうなんて・・・。

それとも、あれも、おっさんの技なのか?」


シホにそう聞かれて、少しドキドキした。

オレが『ソール王国』出身者だと気づかれては困る。

どうやって説明したものか・・・。


「じつは、オレもよく分からん。」


「え?」


しかし、オレは素直に言った。


「この剣で魔獣を斬る際には、

オレは、なにも技を使っていない。

ただただ、この剣で斬っているだけだ。

つまり、この剣がすごいんだと思うが・・・

この剣は、もともとオレの家にあった剣でな。

先祖代々、受け継がれてきたものなんだ。

あまりにも古すぎて、今では

この剣がどういう材質で、どういう剣なのか、

オレにも分からん。

あの魔獣たちを斬れるかどうかも、

昨日使ってみるまでは、分かってなかったからな。」


オレは、そう答えた。

ウソは言っていない。

ただ・・・この剣のチカラだけなのか、

オレの身体能力も関係しているのかは、

オレにも分かっていないし、

シホには、まだ伝えられない。


「へぇ~、昔から受け継がれてきた剣か。

ものすごい高価な剣だったりしてな。

なんか、かっこいいな!」


シホが、そう言った。

柄や鞘もすり減っていて、

どこから、どう見ても、古臭い剣なのだが、

先祖代々、受け継がれてきた剣を

褒められるのは、なんだか嬉しいものだ。


「それにしても・・・技を使わなくても

あんな魔獣を斬っちゃうおっさんは、やっぱり

ウワサどおり『殺戮グマ』って感じだな!」


シホが褒めているつもりらしいが、


「・・・そのあだ名、やめてくれ。」


そのあだ名を聞くたびに・・・

『レッサー王国』のバカ王子を思い出してしまう。

ふと木下の顔を見ると、

木下の眉間にシワが寄っているから、

オレと同じく、あのバカの顔が思い浮かんでいるのだろう。






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