破壊の余波
30m先の気配は、ひとつ・・・。
ゆっくり山道を下ってきている感じだ。
もしかして、人間か?
カーン カーン カーン・・・
背後の、町の方角からは、
まだ敵襲を知らせる鐘の音が響いてきていた。
バキッ バキバキバキバキッ
「!!」
ドシーン!
気配がする方角から、
大きな木を倒すような音が聞こえてきた!
・・・人間じゃない。魔獣だ。
どうやら、
町へ戻る状況ではなくなったようだ。
木下たちの顔を見たら、
2人も今の音で、前方に魔獣がいると
認識したらしい。緊張した表情になっている。
そして、ゆっくり気配が近づいてきた!
「!!」
2人も魔獣の気配を感じとれる距離。
山道はちょうど曲がり道になっている。
その山道をゆっくり下ってきている・・・。
森林の向こう側に、影が見え始めた!
大きな人間みたいなシルエット・・・
『ゴリラタイプ』の魔獣だ!
体長は、やはり5m以上ありそうだ。
どうやら、1匹で行動しているようで、
まだ、こちらに気づいていない。
「ふぅぅぅぅぅ・・・すぅぅぅぅぅ・・・。」
オレは、そのままの姿勢で、
深呼吸を始めた。
体内の『氣』を集中させる。
そして、担いでいた『鉄の槍』を
その場に、そっと置いて、1本だけ右手に持つ。
バキッ バキバキッ
魔獣の影は、そのまま山道の曲がり道を下らず、
こちらへ直進するようにして、
森林の木々を倒しながら、進んできた!
そして、とうとう
「ウォッホォォォォォォー!!
ギャギャギャギャッ!!」
森林をかきわけて、魔獣の顔が見えた瞬間、
オレたちと、目が合い、
魔獣が雄たけびを上げた!
黒い毛並みの『ゴリラタイプ』!
距離20mというところか。
「・・・朝から元気だな。」
オレは、そうつぶやきながら
右手で槍をかまえて・・・
「ゴッホォーーー!」
バキバキバキバキ!
魔獣がこちらへ向かって突進しはじめた時に
「ぬりゃぁぁぁぁ!!」
ドキュッン
『鉄の槍』を投げつけた!
ドンッ
「・・・!」
『鉄の槍』は赤い光を放ち、
魔獣の顔面を貫いて・・・
ドッゴォォォォン!!
「あ・・・!!」
魔獣の背後にあった木々を、
山の斜面ごと破壊した!
土煙が舞い・・・
ドシンッ
顔を吹っ飛ばされた魔獣の体が倒れた。
「・・・ふうぅぅぅぅ。」
オレは深く息を吐いた。
右腕に痛みはない。肩もじゅうぶん動く。
少し熱くなった気がするが、昨日ほどではない。
ようやく体が慣れ始めたか。
「お、おいおい、おっさん・・・
山がえぐれたぞ!!」
シホが驚いて、声を上げる。
「いや、えぐれたって言っても、
直径3mぐらいだろ。大した範囲じゃない。」
オレは、そう言ったが
「でも、おじ様・・・
昨日、『洞窟』の奥に向かって
今の『槍』を3本投げ込んだんじゃないですか?」
「あ・・・。」
木下に、そう言われて気づいた。
そうだ・・・たしかに、昨日、今の技を3回・・・
『洞窟』の奥へ向かって使った!
高さも幅も10mほど広い『洞窟』の道だが・・・
もしも、3回とも『洞窟』の奥の壁を
破壊してしまったとしたら・・・
「もしかして、今、
『洞窟』は、塞がっているのか・・・?」
「その可能性は高いですね。
今の破壊力を見る限りでは・・・。」
木下が、真剣な表情で言う。
「それは、困るな・・・ん!?」
バキバキバキバキ・・・パキッ、ガサガサガサ・・・
「ウォッホホォォォーーー!」
バキバキ・・・バキバキ・・・
オレが、そう返事をしたとき、
前方から、魔獣の雄たけびと、
木々が倒される音が聞こえてきた!
しかも、前方のあっちこっちから聞こえてくる!
「ま、まさか、今の『ラスール』の
雄たけびは、仲間を呼んでいたんじゃ・・・。」
シホが怯えながら、そう言った。
そうか、『ゴリラタイプ』は、
群れをなして襲ってくるんだったな!
バキバキバキッ バキバキッ
「ギャッギャッギャッホーーー!」
気配が、ひとつ、ふたつ、いや・・・
バキバキ・・・バキバキ・・・
5匹!? 6匹!?
「ギャッホッホッホーーー!」
まずい!
『鉄の槍』は、あと4本!
しかも、やつらはバラバラに向かってきている!
「き、ユンム! シホ!
それぞれ2人で攻撃を防げる魔法を使え!
決して、自分たちで攻撃しようなどと考えるな!」
そう指示しておいて、オレは
足元に置いていた『鉄の槍』から1本拾う。
「おじ様は!?」
オレは、右手で『鉄の槍』を構えてから
「すぅぅぅぅ、ふぅぅぅぅ・・・。」
深呼吸して、体内の『氣』を集中させる。
「適当に、暴れる!」
オレは、木下に、そう言い放った。




