最悪の警鐘
ニュシェに、また留守番を頼み、
オレ、木下、シホの3人は、
昨日、立ち寄った武器屋『パッロコ』へ向かった。
「へい、いらっしゃ・・・い!?」
武器屋の店主が、驚いた顔をした。
その表情からして、
おそらくオレたちの『間違ったウワサ』を
傭兵たちから聞いてしまったようだ。
『投げ槍』用の『鉄の槍』を買おうとしたら、
昨日より多く置かれていた。
20本ぐらいあるだろうか。
そうか・・・昨日、大量に買ってから
また用意しておけと
オレが言ってしまったからだな。
ただし、今日買うのは、
昨日のような大量の槍ではなく、
昨日、投げて消費した分の5本だけだ。
「え、あれ? これだけ?」
レジに『鉄の槍』を5本だけ持って行くと、
店主が、意外そうに言った。
なんだか、申し訳なくなって
「す、すまん。
思ったより必要なかったみたいでな・・・。
一応、明日も買いに来るつもりだが、
確定ではないし・・・すまんな。」
オレは、謝っておいた。
武器屋の店主は、ものすごく暗い顔をしていた。
「なんだか、悪いことをしたな。」
オレは5本の『鉄の槍』を担ぎ、
武器屋を出てから、そう言った。
「そう思う必要はありません。
お店の経営者にとっては、在庫は資産になりますから、
あれぐらいの在庫があっても問題ないですよ。」
木下が、そう言い放つ。
頭のいい木下が言うことだから、そうなのだろう。
「それよりも、深刻なのは
私たちの所持金ですから・・・。」
やはり、『投げ槍』用であっても『鉄の槍』・・・
10本じゃなく、5本だけでも
それなりの値段になってしまう。
昨日、教会で報酬金をもらったから
飲食代や宿代は、しばらく大丈夫だが、
このままでは旅が続けられない。
「そうだったな・・・。
今日で、終わらせ・・・られたら、いいのだが。」
オレは、そう願いながら言った。
今回、オレは自分の荷物からランプを持ってきていた。
武器屋のすぐそばの道具屋で、ランプの油を購入。
作戦では、『洞窟』内へ入るつもりはないが、
昨日のように仕方なく入ることもある。
その時に、シホや木下の魔法で明かりを作っていては
魔力で魔獣たちに勘付かれてしまうし、
戦闘になった場合、
誰かが明かり役になったままになる。
魔法は、なるべく戦闘以外で使わないほうがいい。
町を出て、北側にある『プロペティー山』を目指す。
麓の山道は、まだ緩い坂道だ。
町を出て30分は経っただろうか。
昨日より『鉄の槍』が少ないから、
今日は、まだ疲れていない。体力がある。
これなら、『洞窟』での戦闘に体力を使える。
カーン カーン カーン・・・
「!!」
「え!?」
町の方角から、鐘の音が聞こえてきた。
時を知らせる静かなものじゃない。
『敵襲』を知らせる鐘の音だ!
しかし、オレたちは、
もう、ここまで登ってきてしまっている。
町まで距離がある・・・。
「町に魔獣が現れたんじゃないか!?
ど、どうしよう・・・おっさん?」
シホが不安そうに聞いてきた。
町の傭兵たちには守りを任せてある。
強いというウワサの聖騎士もいる。
たぶん、大丈夫だろう・・・。
しかし、宿屋にはニュシェがいる・・・。
いや、あの宿屋には、タダ者じゃない
店主がいるから大丈夫か?
「おじ様・・・。」
木下も、オレの判断を待っているようだ。
このまま進むか・・・
今すぐに戻るか・・・
「っ!!」
気配を感じる!
「えっ!?」
オレが急に怖い顔になったので、
オレの顔を覗いていた木下が驚いた。
「しっ!」
オレは、すぐに静止を促した。
木下もシホも、すぐ静かになった。
2人は、まだ気配に気づいていないのだろう。
この山道の30m先に・・・なにかいる!




