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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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昨夜はお楽しみでしたか?




4人でいっしょに寝る・・・


要は、2台のベッドの上で雑魚寝するような

提案だったわけだが、それが決まってからも、

オレの隣りに誰が寝るのか?という話で、

ずーーーっと揉めた・・・。


結局・・・


シホ、木下、オレ、ニュシェの順に並んで

寝ることになった。

まぁ、オレの頭の中では、つねに女房の顔が思い浮かび、

とてもじゃないが『ハーレム状態』を

楽しめるような気分にはならなかった。


・・・こんな状態、見られたら殺される・・・。


・・・いや、どうだろうな。

実際のところ、もうオレのことに無関心だろうし、

こんな状態だと知っても、嫉妬すらしてくれないか。

それとも、オレの小心者である性格を知り尽くしていて、

「かわいそうに」と放っておかれるだろうか。


それはそれで、寂しいな・・・。


木下やニュシェがすぐに寝てしまい、

両側から、静かな寝息が聞こえ始めた。

オレは、それを確認してから

2人を起こさないようにベッドから出た。

木下が、オレをぬいぐるみ代わりにして、

オレの左腕に絡みついていたので、それを

そっと引きはがすのに苦労したが・・・。

シホのやつも、戦闘や登山で疲れたらしく、

寝息を立てていた。


オレは、思いのほか緊張していたのか、

それとも、2人に挟まれて

2人の体温で温められすぎたのか、体が熱かった。

それゆえに、床は、とても冷たくて、気持ちよく・・・

ゴツゴツした感触を気にすることなく、

オレも、すぐに寝ることができた。


・・・こんなことが毎晩続いては、かなわん。

明日は、ちゃんとすぐに眠れるように話し合って

今後のことも決めておかねば・・・。


オレは、そう思いながら眠った。




今朝もよく晴れた朝だった。

カーテンの隙間から明るい光が差し込み、

その光でオレは起きた。

窓を開けて、空気を入れ替える。


しかし、やはり外からは

新鮮な空気だけでなく、『お香』のニオイが入ってきた。


部屋に置いてある『お香』は、

この国の『十戒の制約』により、

勝手に消してはならないので

どんなにイヤでも消すことはできないが、

うちのパーティーには煙やニオイに敏感な者が2名いるので、

部屋にいる時や寝る時などは、

『お香』を脱衣所に入れてドアを閉めている。

完璧に煙やニオイを防げるわけではないが、

部屋で焚いているよりはマシだ。


おかげで、部屋にいる間は

むせかえることがない。


「なんてこった・・・。

結局、おっさんを床で寝かせてしまった。」


朝起きて、シホは落ち込んだ表情で、そう言った。


「あ、いや、寝ぼけていて、

いつの間にか、床で眠ってしまったようだ。

まぁ、気にするな。」


オレは、ふとウソをつく。

しかし、やはり下手だな。


「・・・おっさんは、誰にでも優しいって、

ユンムさんが言ってたけど、その通りだな。」


「ん?」


シホが何か言ったみたいだが、小声過ぎて聞こえなかった。


ツンツン・・・


「んん?」


そこへニュシェが、オレのそばへ来て、

オレの腕をつついてきた。


「・・・私と寝るの、イヤだった?」


「!?」


昨夜と同じく、上目遣いで

ニュシェがそんなことを言ってきた。

その表情が、なんとも寂しげで・・・

悪いことをしていないはずなのに、

なにか悪いことをしたみたいで、

根拠のない罪悪感がオレを襲う・・・。


「イ、イヤだったわけではない。

ただ、オレは寝相が悪いし、体が大きすぎてな。

小さいニュシェを潰してしまいそうだったから、

避けただけだ。」


そう言って、ニュシェの頭を撫でてやった。


「ん・・・ん・・・。」


なぜか、つい自然に、少女の頭を撫でてしまっている。

オレとしては珍しい行為だし、

もしかしたら、女性に対して失礼な行為だと思うが・・・

ニュシェの獣の耳を見ていると、

それが当たり前のように、撫でてしまうのだ。

しかし、ニュシェ自身も、嫌がる素振りもなく、

なんだか嬉しそうに目を細めて、

オレの手を受け入れてくれていた。


それをあざとく見ていた木下が

すかさず、オレの横に来て


「おじ様、私と寝るの、イヤでしたか?」


ニュシェと同じ質問を、

上目遣いでしてきた。

・・・まぁ、美人にこう言われて

悪い気はしないが、こいつの場合は

ニュシェと同じ扱いをされたいという魂胆が

思い切り分かってしまったため、


「まぁ、お前の場合は

オレをクマのぬいぐるみ代わりにするから、

わりとイヤだぞ。」


そう言ってみた。


「・・・おじ様、マイナス100点。」


シラけてしまったのか、

スネてしまったのか、

頭を撫でてもらえなかった木下は、

暗い表情で、オレの評価をさげてきた。




オレたちが起きて、

木下が脱衣所で寝間着から普段着に着替えたところで、

オレたちの部屋に、店主が朝食を持って、訪れた。


ドアを開けた瞬間に、

美味しそうな料理の匂いが部屋に入ってきた。


「昨夜は、お楽しみだったか?」


「んなっ!?」


店主が、いやらしい笑顔で聞いてきたので、

オレは急に恥ずかしくなって

顔が熱くなってしまった。


「あっはっは! 冗談だ!

いつか、この冗談を言ってみたかったんだ。

すまなかったな。」


店主が意地悪く笑う。まったく、悪いジジィだ。


「悪いが、しばらく、あんたたちは

食堂じゃなく、ここで食べてくれ。

昨日から、あんたたちのウワサを聞いて、

多くの傭兵たちが食堂に入り浸っていてな。

満員御礼はありがたいんだが、

この『断食』の間は、食材の仕入れ量が少ないんで、

昨日のように追加の調達が必要になる。

それが毎日続くと、ちょっと困るんだ。

あんたたちが、食堂にいなければ、

食堂に入り浸る客も、少しは減ると思うんでな。」


店主は、そう言いながら、

テーブルに食事を並べていく。

パンにスープ、握り飯に、卵料理、

山盛りの野菜、山菜の煮物や揚げ物。

どれも量が多いので、みんなで分けて食べるには

ちょうどいい。


「うわぁ、うまそー!」


「んー!」


シホとニュシェが、テーブルに群がって

今にも食べ始めそうな勢いだ。


「・・・ご配慮、ありがとうございます。」


木下が、店主にお礼を言った。

その言葉で、オレも店主の配慮に気づいた。

そうか・・・部屋でニュシェが寂しく一人で食べるのを

不憫に思って、配慮してくれたのかもしれない。


「すまんな、店主。

昨夜もニュシェのために料理を運んでもらって助かった。」


オレも、すぐに頭を下げる。


「いや、礼には及ばん。こっちこそ悪いな。

こんな、おもてなしになっちまって。

『断食』の期間じゃなければ、満員なのは嬉しい悲鳴なんだが、

この時期に満員になると、本当の悲鳴が出ちまう。

そういうことで、食器はあとで下げに来るから、ごゆっくり。」


そう言って、早々に店主は部屋から出ていった。

ニュシェのための配慮だと思うが、

本当に、食堂が大盛況すぎて

忙しいのかもしれない。


オレたちは、店主に感謝して、

朝食を食べ始めた。

パーティーだけで食事をするのは、これが初めてだろう。

ニュシェやシホが加わっただけなのに、

賑やかな食事に感じる。


・・・思えば、こんなふうに

集まって食事をすることは、ここ数年なかったことだ。

いつも家族バラバラで食事していたから・・・。

子供たちが小さいころは、かろうじて

家族そろって、いっしょに食べていた気がする。

それでも、オレの城門警備が夜間勤務の時は、

いっしょに食べられなかった。


今さらながら、オレは

家庭を大切にしていなかったことを

実感し、後悔していた。


『人は失ってから初めて気付く』・・・


昔、格言好きの先輩が

そう言っていたことを思い返していた・・・。





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