疎外される資格
そこへ『マティーズ』の3人が
食堂へやってきた。
「おー、いるいる!
おーい、おっさんたち!」
『マティーズ』のテゾーロが話しかけてくる。
「まさか、『森のくまちゃん』に
昨日の護衛役の傭兵が仲間に加わるとはなぁ。
・・・って、そこの人が、昨日の傭兵だよな?」
『マティーズ』のイヴハールが、
少し戸惑いながら、シホを見ている。
そりゃ、戸惑うよな。
素顔を知らなければ、誰もが驚くだろう。
「昨日は世話になった。
おかげで、馬車の護衛依頼を達成できた。
ありがとう。」
シホは立ち上がって『マティーズ』にお礼を言った。
『マティーズ』たちは、シホの素顔を知らなかったようだし、
その様子からすると、シホとは
知り合いというわけではなさそうだが、
シホが女性だということは分かっていたようだ。
・・・そうか、みんな、
シホを見て『女』と気づいていたのか。
気づけなかったオレは・・・なんなんだろうか。
注意力散漫? 警戒心ゼロ? 洞察力の問題か?
決して『胸』の大きさで
男女を判別していたわけではないのだが・・・。
もしかして・・・オレ自身が『男』として
女性を意識する能力が低下しているのだろうか?
しかし、この歳になって、
『女性を意識する能力』なんて・・・必要性を感じない。
「礼なら、昨日聞いたから、もういいって。
それより、よく『森のくまちゃん』に
入ろうと思ったなぁ。なにかワケありなのか?」
『マティーズ』のイヴハールが
遠慮もなしに、そう聞いてきた。
シホにとっては、聞かれたくない事情もあるが
「あぁ、よくぞ聞いてくれた!
まぁ、立ち話もなんだから、座ってくれ!
いいよな? おっさん? ユンムさん?」
どうやら、シホのほうは
深刻に考えていないらしく、
逆に、話を聞いてほしいようだった。
昨日は、『マティーズ』の3人と
オレと木下で、同じテーブルで食事したが、
さすがに、シホを加えた6人で食事するには
テーブルが狭い気がした。
木下、オレ、シホの順番に座っており、
対面には、『マティーズ』の3人、
テゾーロ、イヴハール、カトリーノが座っている。
というか、オレが端っこのほうがよかったかな。
なんか・・・こいつらを両側に座らせているのは、
周りから見て、どうなんだろうか?
「おっさん、両手に華だなぁ、おい。」
テゾーロが、そんなことを言ってきたから、
やはり、周りからはそう見えてしまうのだろう。
急に、自分の顔が熱くなった気がする。
もしかしたら、顔が赤くなってしまったかもしれない。
「あっはっは!
おっさん、かわいいとこあるじゃん!」
オレの顔が赤くなったのを見て、
カトリーノが指をさして笑いだす。
ますます恥ずかしさがこみ上げる。
「おいおい、おっさん、今の今まで
俺のことを『男』だと勘違いしてたくせに、
『女』だと分かった途端に恥ずかしがるとか、
どんだけウブなんだよ!」
シホが、言ってはいけないことを言い出した!
「ちょっ、それは、もう済んだ話で!」
オレが止めようと思った時には、すでに遅し・・・。
「なになに!? その面白そうな話!」
目の前の『マティーズ』たちが
目を輝かせて、話にくらいついてきた・・・。
それから、しばらく、
オレの顔は、ずーーーっと熱いままだった・・・。
『マティーズ』を含め、周りの客たちにも聞こえるように、
シホや木下が、オレの勘違いしてたことを話したため、
食堂にいるみんなに大笑いされ続けたのであった・・・。
そのあとは、シホが
午前中に行った『スヴィシェの洞窟』攻略の様子を
武勇伝のように語りだし、やたらとオレを持ち上げすぎるから、
また、オレは顔を熱くするしかないのであった・・・。
「竜騎士の技???」
シホから聞いたオレの武勇伝で
ひっかかる言葉だったのだろう。
『マティーズ』のテゾーロが、そう聞いてきた。
「あ、あぁ、竜騎士の技のひとつで、
『水竜殺し・飛び刺突』という技で、
今回は、危機を切り抜けたわけだ。」
シホが説明できない部分を、オレが説明する。
竜騎士であることを、あまり知られたくなかったのに、
こうなってしまっては仕方ないが・・・
それでも、自分から
自分の技をアピールするみたいで、
なんだか恥ずかしい思いだ。
ざわざわざわざわ・・・
「聞いたことあるか?」
「ないな。」
「初めて聞くぞ。」
『マティーズ』を始め、周りで聞いていた客たちも
首をひねっている・・・。
あまり知られていないのか?
「おっさんのことを疑うわけじゃないが・・・
俺たちは『イネルティア王国』出身で、
あの国には、世界中の猛者が集まっているんだが・・・。」
イヴハールが、とても言いづらそうに
「竜騎士という資格があるのは知っているが、
竜騎士の技なんて
使っている者を見たことがない・・・。
そもそも竜騎士の資格なんて名前だけで、
体術系の大学を卒業すれば、ついでに取れてしまうぐらいだ。
はっきり言って、資格だけ持っていても意味がないから
わざわざ資格を取っているやつが珍しい・・・。」
そう告げた。
「え・・・?」
オレは、一瞬、何を言われているのか
分からなかったが、
「あー、あれは、おじ様だけの
オリジナルの技なので、聞いたことも
見たこともないのは、当然ですよ。」
すぐに木下が、そういうウソをついたことで、
オレも気づいた。
・・・竜騎士の技も、また
『ソール王国』だけの常識だったことに。
木下は知っていたのだろうか。
「なぁんだ! そうなら、そうと言ってくれよ!」
「そりゃ聞いたこともないはずだな!」
「すごいな~! あの『ギガントベア』を
仕留めるほどの技を編み出すなんて!」
みんなが、すぐに
木下の言い訳に納得して、盛り上がったが、
オレは・・・落ち込んでしまった。
まだ慣れないものだな・・・。
信じ切っていた『ソール王国』の王族に、
他国とは違う常識を信じ込まされていたことを
知らされるたびに、ショックを受けてしまう。
他国の者より強いことは、得しているようだが、
それが周りに知られることにより
疎外されることもある。
今は、それをなんとか隠せているが・・・
いつ、その対象になってしまうか分からない。
・・・いつの間にか
『リストラ』の対象になっていたように・・・。
「竜騎士の資格を持ってること自体が珍しかったから、
てっきり、竜騎士はみんな、あんなすげぇ技が使えるのかと
勘違いしちゃったよ!」
「見たことないから、
どんなにすごい技か知らないが、そんなわけないだろ!
俺の知り合いに資格持っているやつがいたけど、
戦闘では、ぜんぜん役に立たなかったからなぁ。」
気付けば、みんながシホの話で盛り上がる中、
オレは、一人だけ
みんなの空気についていけなくなっていた。
「おじ様?」
木下だけは気づいたようだ。
こいつは、よく周りを見ているな。
自分がどんな顔をしているか分からないが、
きっと、いい表情をしていなかったのだろう。
「いや、少し食べすぎたかな。はっはっは!」
こんなことでショックを受けている自分を
知られないように、オレは少し笑ってみせた。




