孤独な傭兵
「だいたい、最初から
人使いが荒かったよな、おっさんは!」
さっきから、シホの攻撃がやまない。
謝り続けていても、許してもらえない。
怒りが収まっていないようだ。
言い訳のしようがないし、
女性2人に対して、分が悪いと思うが、
一応、オレなりの理由は述べさせてもらおうと思った。
「しかし、その、自分のことを「俺」って言ったり、
声も低くて、言葉使いも、その・・・。」
「俺は昔から、こういう喋り方で
こういう声なんだよ! 仕方ないだろ!」
「髪型が男みたいに短かったり・・・。」
「魔獣との戦闘で、髪が邪魔だったから、
だいぶ前に思いきって、切ったんだよ!」
「あと、顔が布で隠れてて分からなかったし・・・。」
「俺は、匂いに敏感でね!
この国では、至る所に『反邪香』があるから
むせないように布で対策してたんだよ!」
「あと、その・・・」
「・・・まだ言い訳があるのか!?」
「こ、これが最後だが・・・その・・・
体つきが~・・・
ユンムとは全然違うというか・・・。」
「おじ様!」
「むぐっ!」
木下が慌ててオレの口を
手で塞いだが、すでに遅かった。
ガタッ!
「・・・おっさん・・・歯ぁ食いしばれ!」
シホが立ち上がり、拳をパキパキ鳴らしながら、
強く握り拳を作っていた!
そして、明らかな殺気!
ビュッ!
シホの殺意がこもったパンチが向かってくる!
これは仕方ない・・・。
今のは、自分でも失言だったと悟った。
1発殴られるしか解決する方法がない。
オレは、目を閉じて覚悟した。
パシン!
「!!」
「おっとぉ!
お客様、ケンカするなら外でやってくれよ~?」
通りかかった店主が、シホのパンチを
手首をつかんで止めた。
さすが、店主だ・・・助かった・・・。
「は、離せよ! 清春さん!
こいつは、今、言っちゃいけないことを!」
なおも、暴れそうになっているシホの手首を
店主は離そうとしない。
片手でシホの手首を掴み、
もう片方の手には、飲み物を持っている。
飲み物をこぼさずに
暴れるシホを抑えつけているとは、さすがだ。
「本当に、すまん! 失言でした!」
ゴンッ!
オレは、テーブルに頭をこすりつけて謝った。
「おじ様は、昔から
男尊女卑みたいな古臭い悪習が身についてて!
私からも、謝ります。ごめんなさい、シホさん。」
完全にオレが悪いのは自覚しているが、
木下に悪者扱いされると、なんだかイラっとするな。
そして、今の発言に『男尊女卑』は関係ないだろ!
最初からオレの勘違いに気づいていたなら、
なんで早く言ってくれなかったんだ!?
・・・と感じてしまうのは、よくないか。
他人のせいにしてはいかんな・・・。
「んじゃ、パーティー加入は解消か?」
店主が、そう言った途端に
「うっ・・・!」
店主に掴まれた状態でも暴れていたシホの拳は、
急に動きを止め・・・
シホは脱力したように席へ座った。
さっきまでの殺気がウソのように消えていた。
「・・・今日は、
おっさんのおごりってことで、いいよな?」
シホが、普通の声で、そうつぶやいたので、
「お、おう、じゃんじゃん食べてくれ!」
そう言って、オレの分の料理を
シホの前に運んだ。
「はぁ・・・まぁ、俺も
あえて女性らしい格好はしないようにして、
女だと見られないようにしていたのも事実だし、
おっさんが勘違いしたのは、
俺にも原因があったってことか・・・。」
シホが冷静になって、そう言い始めた。
「まぁ、今まで心強い仲間がいた日々から、
急に、女一人で生きていくことになったわけだから、な。
あえて、そうしていたのに気づくのは
昔からシホを知っている人たちだけだろうから、
おっさんが気づかなかったのも仕方ない、かもな。」
店主が、そう言って、
シホの前に飲み物を置いた。
「そんなわけで・・・
おっさん、か弱い女性のシホを守ってやってくれよな?」
店主が、オレにそう言ってきた。
「だ、誰が、か弱いって!?」
シホが気まずそうな表情で、そう言って、
目の前の料理を食べ始める。
「き、今日は、このくらいで勘弁してやる!
次に失言したら、許さないからな!」
シホは、ガツガツ食べながら、そう言った。
オレの失言を、水に流してくれるようだ。
店主に言われるまで、察することができていなかった。
シホが、か弱い女性であることを。
家族同然のパーティーに守られていた状態から、
突然、その仲間を失って、
女一人で生きていくという覚悟を、
シホは決めたんだろう。
男っぽい武装も、戦いやすいだけじゃなく、
ハイエナのように寄ってくる危険な連中から
身を守るための、護身用の服装だったのか・・・。
「・・・許してくれて、ありがとう、シホ。
これから、よろしく頼む。」
オレは、謝るだけじゃなく、
それなりの覚悟をして、パーティーに加入してくれた
シホに、素直にお礼を言い、また頭を下げた。
「分かったから! もういいから!
辛気臭いの苦手なんだよ、俺は。
早く食えよ! おっさんの分まで食っちまうぞ!」
シホは照れているのか、
好物らしい唐揚げを、口いっぱいに
ほうばっていた。




