おっさんの勘違い
ざわざわざわざわ・・・
木下とシホは、すぐに戻ってこなかった。
「まさか、ナニかあったのでは?
まさか、ニュシェが見つかったのでは?」と
モヤモヤしていたところ、2人が2階から降りてきた。
・・・オレは、しばらく開いた口が塞がらなかった。
3人そろったところで、ちょうど
店員が料理を運んできた。
しかし・・・
ざわざわざわざわ・・・
「なんか、見事に、見世物みたいになってるな。」
シホがそう言った。
周りの客たちの注目を浴びながら
食べている状況だ。気づかないわけがない。
「というか、誰のせいで
こうなったと思ってるんだ?」
オレがそう指摘したが
「え? 誰のせいなんだ?」
シホは分かっていない様子だ。
やれやれ・・・。
2階から降りてきたシホは・・・『女』になっていた。
いつも鼻と口を塞いでいた布を取り、
両腕の包帯も取り去って、
傭兵としての武装した格好ではなく、
少しラフな、女性の格好をしていた。
初めてシホの素顔を見たが、
木下と同じくらい美人だった。
一瞬、誰か分からなかった。
「えっと・・・初めまして?」
と、オレがおかしな挨拶を吐いてしまった時点で、
やっと、オレだけがシホを『男』だと
勘違いしていたことが発覚したのだった。
木下は、初めから気づいていたらしい。
気づいていなかったのは、オレだけだった。
いや、木下は、どうやら
初めから、オレが勘違いしていることにも
気づいていたらしい・・・。
勘違いが発覚した時の、木下の大笑いを
オレは一生忘れないだろう・・・。
おのれ・・・。
すでに『間違ったウワサ』が広まっているうえに、
こんな、むさ苦しいおっさんが、
美しい女性2人と食事する様子は、
周りから注目されて当然だろう。
「しっかし! なぁーんか、最初から
おかしいと思ったんだよなぁ! おっさんの態度!
ユンムさんには女性扱いしてるくせに、
俺に対しては、いきなり重たい槍を持たせるとかさ!」
口を開けば、やっぱりシホだった。
「いや、本当に、申し訳ございませんでした!」
オレは恥ずかしい思いをしながら、
ひたすら、勘違いしていたことを謝り続けていた。
なにも言い訳できない。
オレが謝るたびに、笑う木下・・・おのれ・・・。
しかし・・・まいったな。
こんなはずじゃなかったのに。
こいつが男だと思っていたから、
いっしょの部屋でって誘ったのに・・・
ひとつの部屋に、女が、ニュシェを入れて3人。
男はオレ1人・・・
ナニかあるはずはないが、非常に肩身が狭い。
オレは、空いている部屋はないか
料理を運んでいる最中の店主に聞いてみたが、
「おっとっと、悪いな、おっさん。
というか、あんたたちのウワサのおかげで、
昨日より客が多くなっちまってな。
宿泊部屋も満室御礼ってやつだ。
売り上げに貢献してくれて、ありがとな。」
逆にお礼を言われて、去って行かれた。
・・・というか、店主も
シホが女ということを知っていた様子だ。
それもそうか、
ここで食事している姿を見たことがあるということは、
布を取った素顔の状態を見たことがあるということだ。
まぁ、店主に限っては
木下と違って、オレの勘違いには
気づいていなかったようだが。




