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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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若人の恋を見守るおっさん



店主との会話が終わったころに、

ほかの客がチラホラと食堂へ入ってきた。

ちょうど夕食の時間帯になったようだ。

オレは、一応、木下やシホが来るまでは

料理を頼まず、飲み物だけ頼んで飲んでいた。


・・・酒が飲めれば、先に食事も始めているところだが。


オレが頼んだ飲み物は、

山でとれた『ブドゥ』という果物のジュースだ。

あまり甘い物は好まないが、

さっぱりした甘さで、飲みやすい。


ほかの客は、傭兵たちが多く、

すでにオレたちのウワサを知っているやつらばかりで、

なんとなく・・・

みんな、オレを避けている感じがする。

・・・恐れられているというか。

離れたテーブルに座り、

遠巻きにオレを見て、ウワサ話をしている感じだ。

すっかり目立つ存在になり、

いろんな人に話しかけられたら、

ちゃんと一人で受け答えできるかどうかって

少し不安だったのだが、

そんな心配も意味がなかったようだ。


それはそれで、少し寂しい・・・。




そんな中、


「おーっす、おっさん! 一人か?」


シホが、少し大きめの荷物を持ってやってきた。

華奢な体より荷物が大きくて、滑稽に見える。


「あぁ、今、き、ユンムは部屋で着替え中だ。」


「そうか。じゃぁ、俺は荷物を置いてこようかな。」


シホは、そう言って

2階へ行こうとする。


「おいおい!

ユンムが着替え中だって言ってるだろ!」


オレは慌ててシホを止める。


「え? だから?」


シホが、分かっていないフリをする。

なんだ、こいつ?

もしかして、案外、女に慣れ過ぎているのか?

それとも、分からないフリをして

木下の着替えを覗こうって魂胆か?

こいつなりの冗談のつもりか?


「あのなぁ・・・

とにかく、ユンムが降りてくるまで

ここで待て。

もうそろそろ終わる頃だろうから。」


「? まぁ、そう言うなら・・・。」


シホは、まだ分かっていないフリをしている感じだ。

いや、もしかして・・・

以前のパーティーでは、みんな家族同然だったと

言っていたし、男女の着替えも

別に異性を意識しない感じだったのかもしれない。

だとすれば、そういうところから

お互いの『当たり前』を再確認していかねばならんのか。


シホが荷物を置いて、オレと対面の席に座った。


「それにしても、『教会』からの報酬金が

思ったより多くて助かったよ。」


シホは、もう話題を切り替えてしまった。

さっきのは、やはりワザとではなく、

無意識だったようだ。


それだけ、以前のパーティーの関係が良好で、

異性を意識しない、無意識になるくらい、

長い付き合いだったことがうかがえる。

その仲間たちを失った悲しみは

さぞ大きいことだろう・・・。


「そうか。馬車の護衛役と

魔獣討伐では、やはり報酬金が違うのか?」


オレは、シホとの常識の違いを指摘せず、

そのままシホの話に合わせた。


しかし、こいつは・・・

以前のパーティーには姉がいたんだよな?

姉の着替えも普通に見てたというのか?

たとえ、幼いころからいっしょだったとしても

年頃の姉の着替えは、見ないだろ?

というか、見ちゃダメだろ?


「ぜーんぜん違うよ。

馬車の護衛は、一日の食事代や宿代で消えていく程度さ。

護衛中に、魔獣や賊に襲われて討伐したら、

少しは報酬金を上乗せしてもらえるけど、

滅多に襲われることはないし。」


シホは、そう答えた。


しかし、オレはシホの常識について考えていた。

姉の着替えを刺激に感じず、

無意識レベルになっている、こいつに

どうやって、こちらの常識を伝えればいいのか?


「最初から危険だと分かっている

魔獣討伐のほうが報酬金は高いわけだな。」


「そういうわけ。

この国の魔獣は強くて、俺一人では討てないから、

今までは、馬車の護衛や雑用とか、

一人で果たせる依頼しかこなしてなかったからさ。

あんたたちと同じで、俺も金欠状態なんだ。

今回の報酬金は、本当にありがたいよ。」


シホは、目をニコニコさせながら言った。


そういえば・・・

こいつは出会った時から、鼻と口を布で覆っている。

眼しか見えていないから表情がうまく読み取れない。


素顔を・・・知らない。


少し、怖いな。

もしかしたら、以前のパーティーが全滅した際に、

こいつも顔に大きな怪我をしたのかもしれない。

両腕の包帯は、両腕を自由に動かしているあたり、

怪我じゃないようだが・・・

大きな後遺症でも残っているのか?


もしくは・・・顔がとんでもなくブサイクとか?

両腕には、消せない『入れ墨』があるとか?


まだまだ、オレたちは、

こいつをよく知らないんだな。


「お待たせしました。」


そこへ、ちょうど木下が階段を下りてきた。

新しい服に着替えたようで、

洋服屋で見せてもらった服を着ていた。

今まで見慣れていた服を着替えただけで、

女性の印象というのは、がらりと変わるものだな。


「おー、ユンムさん、ステキだね!」


「えへへ!」


あれ?

木下のやつ、自然の笑顔だな。

自分が選んだ服を褒められて、

思わず自然の笑みがこぼれたのか。

シホのやつも、自然に女性を褒めているな。

こいつは、やはり女性の扱いに慣れているのか?


「じゃぁ、俺は部屋に荷物を置いてこようかな。

もう、いいよな? おっさん?」


シホがそう言ったとき、


「あ、部屋のカギをかけてきたので、

私もいっしょに行きますよ。」


木下が、すぐにそう言った。

部屋のカギのことは本当のことだが、

たぶん、部屋にいるニュシェに

隠れるように合図するのだろう。


「あぁ、じゃぁ、いっしょに。」


そう言って、シホは大きめの荷物を担ぎ出した。


・・・このまま2人で行かせていいのだろうか?

ニュシェがいるとはいえ、

こいつと木下を2人きりにさせて大丈夫か?


「オレは、適当に料理を先に頼んでおくから、

荷物を置いたら、すぐに降りて来いよ?」


オレは、そう言って

すぐに戻ってくるように伝えた。


「あぁ、そのつもりだよ。

装備を外して着替えたら、すぐ降りて来るから、

おっさん、唐揚げを注文しといてくれよな!」


シホは、2人きりの時間を邪魔されたと

気づいていないのか、

初めからそのつもりがなかったのか、

普通の返事だった。


「あぁ。」


そうして、オレは、

木下とシホが階段を上っていくのを見送った。


・・・もしかして、オレの

取り越し苦労ってやつなのだろうか?


いや、もしかして、

オレって・・・若者たちの恋の邪魔になっている?


そうか・・・そうだよな。

別にパーティー内で恋愛禁止しているわけじゃあるまいし、

お互いに歳も近いし、独身だし・・・

よく考えれば、お似合いのカップルじゃないか。


2人とも、異性として意識していない気もするが、

気づけば、好きになっていたというパターンも、

じゅうぶん有り得る。


オレは、若者たちの恋を見守ろうと、

ひそかに心に決めたのだった。




挿絵(By みてみん)




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