面接の方法
「ところで、あんたたち、
新しい仲間が増えたのか?」
「えっ?」
一瞬、店主が何を言っているのか分からなかったが、
すっかり忘れていた存在がいたような・・・。
「そういえば、シホさんが!」
「あ」
「食堂で、あんたたちの仲間だって言いふらして、
ずっとあんたたちの武勇伝を傭兵たちに聞かせてたぞ?」
本当に、すっかり忘れていた・・・。
せっかく『ヒトカリ』から流れた『間違ったウワサ』を
訂正したのに、あいつのせいで、
また『間違ったウワサ』が流されている気がする。
「あー、あいつか・・・。」
オレは、店主に、
午前中にあったことを話した。
シホという傭兵が、パーティーに入りたがって
無理やり、ついてきた話を。
「まぁ、あいつもこの店をよく利用してくれる客だが、
魔法を使う傭兵としては、かなり手練れの傭兵だ。
たしか、ランクは『マティーズ』たちと同じCだったかな。
もう知っていると思うが、あいつのパーティーは
ここ最近・・・1ヵ月前ぐらいに、全滅しててな。
元々、お喋りなやつだったが、パーティーを失ってからは
ほとんど声を聴いたことがなかった。
あいつの生き生きした声を聴いたのは久しぶりだ・・・。
ほかの国の出身者だったはずだから、
この国に執着もないだろうし。
つれていって、損はないんじゃないか?」
オレの話を聞き終えた店主が、
そんなことを言う。
「うーん、オレとしては、
あまり自分たちの旅に、誰かを巻き込むのは、
ちょっと、なぁ・・・。」
チラリとニュシェを見る。
ニュシェはオレの視線に気づいていない。
ニュシェの手前、
「これ以上、やっかいごとを増やしたくない」とは言えない。
「おっさん、そうは言うが、
なにか訳ありの旅なんだろ?
だとしたら、人手は多いに越したことはないと思うぜ。
もちろん、ただの人数合わせじゃなく、
信頼できる仲間がどれだけいるかってことだが。」
店主がそう言いながら、
オレが見ていたニュシェを見る。
「俺も、その昔、
パーティーの仲間に、たくさん助けられた。
あんたも、そのうち分かるだろうさ。
俺とあんたは、年齢的に近いと思うが、
これは、傭兵の先輩としての忠告ってやつかな。」
店主は、そう言ってイスから立ち上がる。
「とりあえず、作戦はうまくいかなかったようだが、
あんたらが無事に帰ってこれてよかった。」
店主は、そう言い残して部屋を出ていった。
信頼できる仲間・・・か。
実際、この先、旅を続けていくうえで、
仲間は必要かもしれない。
ただ・・・信頼できる仲間ということは・・・
オレは、ちらりと木下を見る。
木下も、あまりいい表情ではない。
オレと同じことを考えているのかもしれない。
・・・シホをこのまま仲間にしていいのか?
仲間となるからには、オレたちの素性を・・・
オレたちの旅の目的をすべて話しておかねばならないのだ。
そうしなければ、きっと店主が言っていた
信頼できる仲間とは呼べないだろう。
「あらら・・・。ふふふっ。」
木下の後ろで、ウトウトしていたニュシェが
本格的に寝てしまったので、ベッドへ運ぶ。
獣の耳が、ピクピク動いていて、
ちょっとかわいいと感じてしまう。
「木下は、どう思う?」
「『ユンム』です、おじ様。」
「うっ・・・。」
いかん、うっかりすると、
どうしても「木下」と言ってしまう。
「はぁ・・・。午前中の戦闘でも
シホさんの前で、私のことを『木下』と呼びましたよね?
『ソール王国』から、ずっと「ユンム」と呼ぶようにって
注意しているおじ様ですら、この状態ですからねぇ・・・。
もし、あのシホさんが、おじ様と同じような方だったらと
想像するだけで疲れます・・・。」
溜め息をつかれてしまった。
たしかに、オレのせいで、これまでも
多くの場面で、木下の話術に助けられたから何も言えない。
さらに、ニュシェ、シホと、
ウソが下手なやつらが仲間入りするとなったら、
木下の苦労はさらに増えることになる。
いや、オレたちの『特命』の内容や、
木下の国の『乗っ取り』の話も、
明るみに出る危険性が増してしまうだろう。
やはり仲間は増やさないほうが得策か?
「シホが、秘密を厳守できる人間か、
ウソがつける人間か・・・
それによる、ということか?」
「でも、それって判断が難しいですよね。
というか、それを面と向かって聞くと
私たちの秘密としていることを話す流れになりそうですし。」
パーティーに入れるための『面接』が必要だが、
その『面接』の仕方が難しいな。
その『面接』を始めたが最後、
不採用というわけにはいかなくなってしまうだろう。
「こういうのは、『スパイの養成学校』で
そういう試験とかあるんじゃないのか?
ウソをつくような試験とか?
その試験の方法をマネれば、
シホがウソをつけるかどうか分かるとか?」
「たしかに、ウソをつく試験はありますが、
それは『上手なウソをつかせる試験』であって、
その試験を受けるってことは、
受験者は、ウソをつくことを前提で
試験に挑んでますからね。」
「そ、それもそうか。
『スパイの学校』に挑んでいる時点で
前提が違うわけだな。」
うまい方法があるかと思ったが、八方塞がりだな。
「だいたい、ウソが上手かったら、
それはそれで仲間として信頼できませんけどね。」
「そ、そうだな・・・。
ウソが上手いやつに「秘密を厳守します」って言われても
それは信頼できないわなぁ・・・。」
本来、信頼できるからこそ
真実を話すものだが、正直者では困るし、
ウソが上手くても、結局は信頼できないから困る。
「私から提案があるのですが、いいですか?」
「お、いい案が閃いたか?」
「いい案かは分かりませんが、
おじ様さえよければ、通る案かと。
そして、今後もずっと使える案です。」
「ほほぅ・・・。」
そうして、木下は、
木下なりの『良案』を提示してくれた。




