お出迎え
「やはり、あのウワサは本当だった!
いや、ウワサのほうが優しかったほどだ!
あんたは、なんなんだ!?
本当に、人間なのか!?」
オレたちは、下山しながら話していた。
登りよりも体はラクに感じるが、
下り坂は、スピードが出ないように
無意識に踏ん張りながら歩くから、
結局は、じわじわと体力が奪われる。
「おいおい、危機は去ったとはいえ、
ここはまだ魔獣たちがうろつく山の中だ。
少し声を抑えろ。はぁ、はぁ・・・。」
オレの実力を目の前で確認したシホは、
まだ興奮冷めやらぬと言った感じで
少し大きな声で話しかけてきた。
「俺は落ち着いている!
俺は正常だ!
しかし、あんたは、なんなんだ!?
あの槍は、ただの『鉄の槍』じゃなかったのか!?」
全然、落ち着いてくれない。
こいつ、鼻と口を布で覆っているから
もっと冷静で無口なタイプだと思っていたが、
よく喋るなぁ・・・。
「あー・・・はぁ。
すまないが、疲れている・・・。
説明するのが、めんどくさい・・・はぁ。」
「はぁ、はぁ、おじ様・・・シホさん・・・
とにかく今は、町についてから
ゆっくり、はぁ、話されたらいかがですか?」
木下も、かなり疲れている様子だ。
オレも、『洞窟』まで歩いただけでも
かなり体力を消耗した気がする。
「!」
「あの技は、いったい、なんなん・・・!」
サッ
オレは、急に立ち止まり、
左手を上げて、シホの会話を止めた。
シホも、オレの空気を察して、すぐに黙ってくれた。
木下も、黙って、立ち止まっている。
「・・・。」
まだ、うっそうとした森林に囲まれている山道。
あの『洞窟』からは、
そこそこ離れたが、町までは、まだ遠い。
この先に・・・いくつかの気配を感じる。
距離は、30mほど。
もし、あの体長5m越えの魔獣ならば
こんな距離、すぐに走りつくほどだ。
・・・槍を1本でも持ってこればよかったと
今さらながら後悔した。
しかし、もう遅い。
魔獣ならば、剣で相手するしかないか。
ザッ ザッ ザッ・・・
こちらへ近づいてきている・・・。
山道がくねくねと
右往左往、起伏していて、まだ相手の姿が見えない。
「?」
しかし、聞こえてくる音が、
なんとなく『軽い』気がした。
そして、気配は、山道をゆっくり登ってくる感じ・・・
もしかして、人間か?
一応、剣の柄に手を置いておく。
こんな魔獣が出る山の中で、
出会う人間が、善良な人間とは限らないからだ。
あと20mという距離で、
気配の主たちの姿が見えた。
「あ!」
「おぅ、無事だったようだな。」
「はぁはぁ、おっさんたち、無事か!?」
思わず、拍子抜けした。
そこに現れたのは、
『マティーズ』の3人と、宿屋の店主だったからだ。
オレたちは、
『マティーズ』たちと宿屋の店主と合流して
いっしょに町まで戻ることになった。
ただし、のんびり歩いて帰るのではなく、
走って帰ることになった。
店主の都合だが・・・。
「お疲れのところ、すまねぇな。はぁ、はぁ。
しかし、あんたのせいでもあるんだからな。」
話を聞けば、宿屋の料理用の食材が
足りないほど、客が押し寄せてきたらしい。
オレたちの話が、あっという間に
傭兵たちに伝わり、決起した傭兵たちが
宿屋の食堂に集まって、飲み食いしているとか。
それで、急遽、『マティーズ』の3人を連れて
この山へ食材を探しに来たという・・・。
早く戻らねばならないわけだ。
「はぁ、はぁ、いや、まぁ・・・
それは、なんだか申し訳ないような・・・。」
しかし、傭兵たちを決起させたのは、
オレたちじゃなく、店主の『お願い』のせいなのでは?
と思えなくもない。
よく見れば、店主も
『マティーズ』の3人も、小さな荷物を抱えている。
食材なのだろう。山菜かな?
想像するだけで、ハラが減ってくる。
「はぁ、はぁ、そう言いながらも、
清春さんは、おっさんたちのことが、
心配だったんですよねっ。はぁ、はぁ。」
『マティーズ』のカトリーノが、
息を切らしながら、そう言った。
「え?」
「な、なにをバカなことを・・・!」
図星だったのか、今まで冷静だった店主が
照れている感じがした。
「はぁ、はぁ、おいおい、カトリーノ、
それは分かってても、言わないでおくものだぜ?」
『マティーズ』のイヴハールが
息を弾ませながら、そう言う。
「はぁ、はぁ、そうそう・・・。
いくら食材探しとはいえ、はぁ、
こんなに町から離れて探すなんて、
普通に考えて、ありえないからな。ははっ。」
『マティーズ』のテゾーロが
追撃とばかりに、そう言った。
みるみると店主の顔が赤くなっていく。
「うるせぇぞ、お前ら! はぁ、はぁ!」
「はははっ!」
オレは、つい笑ってしまった。
陽が頭上にある。もうすぐ昼時だろう。
たとえ傭兵たちで店が大盛況していても、
食材を探しに行く時間ではないだろう。
むしろ、そんな時間帯に
ほかの店員たちに店を任せて
店主が外出するとは考えにくい。
それに、食材探しなら、町の周辺か、
山の麓で、店主一人でじゅうぶんだろう。
わざわざ『マティーズ』を連れてきたのは・・・
最悪の場合、傷ついたオレたちを
助けながら逃げ帰ることを想定してのことだ。
「はぁ、はぁ・・・。」
きっと店主は、オレたちと作戦を立てたことで
少し責任を感じていたのかもしれない。
なんとも、世話好きなジジィだな・・・。
・・・人のことは言えないか。
「はぁはぁ、ありがとう! お前たち!」
オレは素直にお礼を言いたくなったので、
走りながら言った。
「ふん・・・。」
「はぁ、はぁ、はははっ!」
「おっさんたち、マジで『スヴィシェ』へ
行ってきたのかよ!はぁ、はぁ!
本当に無事でよかったぜ。」
「はぁはぁ、あそこから生きて帰ってきたやつ、
数年ぶりに見たぞ! あとで話を聞かせてくれよ!」
迎えに来てくれた4人が、笑顔を見せた。
振り返れば、木下もシホも
疲れた顔をしながらも、笑顔だった。
オレたちは助かったんだ・・・。
こうして、
オレたちは、心強い傭兵たちに守られながら、
無事に町へと帰ることができたのだった。
カーーーン・・・
カーーーン・・・
町に着くと、警鐘ではなく、
ちょうど昼を知らせる静かな鐘の音が響いてきていた。




