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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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あやしい秘書




王宮は、混乱している様子だった。


オレ一人だけ『特命』を受けたことが、

王宮中に知れ渡ったのだろう。

人事室で、あれだけ大きな声で

村上と言い争ったのだから、仕方ないことだ。


それだけじゃなく、『特命』を受ける者がいるなんて

想定外だっただろうから、

「王様の御前で『討伐』の詳細をお伝えする」という

準備ができていなかったのだと予想する。

人事室のやつらが、大慌てで準備しているようだ。


王宮前の警備室で手続きを済ませ

王室へ向かう途中、

すれ違う衛兵たちの視線が、どこか痛々しい気がする。

忙しくなっている原因がオレだと認識しているのだろう。

恨むなら、無謀な『特命』を提案した上司を恨めよ・・・。


そんな中、オレにニコニコと笑顔で

近づいてくる人物が見えた。


「佐藤隊長、すこし宜しいですか?」


金山君と同じく、20代の女性。

上品そうな顔立ち、この国の物とは少し違う衣装に身を包む、

その女性は、何度か王室で見かけたことがある。

名前は、たしか・・・


「王様の秘書さん、だっけ?

オレは、これから王室に用があるので、

あまり時間が無いのだが・・・なにか用かな?」


とっさに名前が思い出せなかったので、

とりあえず『肩書き』を口に出すことで

失礼にならないように済ませる。


この国は小さいながらも、王国なので、

王宮に仕える者は何千人といるし、

秘書だけでも、10人ほどいる。

特に、秘書という位置は、王様に一番近い存在のため

『玉の輿』を狙ってる秘書たちが、お互いをけん制しあっていると聞く。

どの秘書も美人ぞろいで、自分磨きに余念がなく、

才色兼備とは、まさに彼女たちを指す言葉だ。

ライバルの策略にハマって辞めていく者もいれば、

メイドだった者が、いつの間にか秘書に成りあがっていたり。

とにかく出入りが激しいので、顔も名前も覚えにくい。


しかし、相手はオレより頭がいい。


「私は、木下ユンムです。

こうしてお話するのも初めてなので、

名前を覚えてもらえていないのは無理もないですが・・・」


簡単に、名前を覚えてないことを見透かされた。

しかし、覚えてない事に「無理もない」と

オレの失礼にあたる記憶力を、軽く流してくれたようだ。


「佐藤隊長は、本当にドラゴンが実在すると思っていますか?」


オレに時間が無いのが分かっているからだろう。

いきなり本題を投げかけられてる気がする。

なので、こちらも、のらりくらりと

かわすことなく、本音で答えようと思った。


「オレが直接見たわけじゃないから、

はっきり言って、実在するかどうかは分からない。

でも、実在すると信じたい気持ちはある。」


「つまり、半信半疑、ということですね。」


いるか、いないか、それが分からないのだから、

当然、どちらとも言えない。

特に『未開の大地』は、人類がまだ調査していない場所だ。

いるとも、いないとも、言いきれない。


「私も、佐藤隊長と同じ見解です。

ですが、そうなると・・・

どうして『特命』を受けられたのか・・・疑問です。」


木下は、同じ見解と言ったが、

オレとは違う見解のようだ。

オレは半信半疑ながらも、実在すると信じたいのだ。

木下は、半信半疑ながらも、実在しないと信じているのだろう。

だから、オレの行動が理解できないのだと思う。


「実在するかどうか分からないからこそ、

確かめに行くんだ。」


「そうなると、あの広大な『未開の大地』を

くまなく探すことになりませんか?

たった一人で? 無謀にも程があります。」


そりゃそうだろう。

あまりにも広大すぎるし、どの国からも

遠く離れている『未開の大地』。

だから、今まで、

誰も隅々まで調査しに行く者がいなかったのだ。


「佐藤隊長は・・・もしかして、

この国に帰ってくる気が無いのですか?」


「もちろん帰ってくる気はあるよ。

わざわざ死にに行くつもりは毛頭ない。

ただ、無事に帰ってこれるかは怪しいけどな。」


半信半疑ではあるが、それなりの覚悟はできているつもりだ。


「そうですか・・・。」


オレの言葉から、一応の覚悟があることが伝わったのだろう。

木下は、すこしの間、沈黙してしまった。


それにしても・・・誰かの差し金だろうか?

たまたまここで会ったわけではなく、

明らかに待ち伏せていた。

王様の秘書が、わざわざオレに話しかけてくるなんて・・・

王様からの指示ではないだろう。

村上か?それとも他の大臣か?

それにしても、いまいち相手の意図が見えない。

『特命』に関してのオレの本気度を探って、

なにを聞き出そうとしているのか?


木下は、なにか考えているような表情だが、

これ以上の会話が無いなら時間の無駄だ。


「んじゃ、そういうわけで、そろそろ・・・

今回の『特命』の詳細を

王室で聞くことになっているのでね。」


そう言ってオレは、この場から進もうとしたが、

木下に呼び止められる。


「あ、ちょっとお待ちを・・・。」


「まだなにか?」


「私もついていきます。」


「・・・?

あぁ、どうぞご自由に。」


王室へいっしょに行くというのか?

やはり何を考えているのか、さっぱり分からん。

今頃になって、オレが恐れをなして

逃げ出すかもしれないと思って見張っているのか?

それとも・・・王室での準備ができていないから

その時間稼ぎに来たのか?

オレが怪しんでいることを知ってか知らずか、

木下は、そのあと何も言わずに

オレのあとをついてきた。




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