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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
145/501

無謀な作戦




オレたちは立ち止まっている時間も惜しいので

歩きながら、包帯の男の話を聞いていた。


包帯の男は、シホと言った。

なんだか、女みたいな名前だ。

口元は布で覆われているし

目しか分からないから、年齢は分からないが

声からして、木下と同じくらいの年齢だろう。

黒髪で短髪・・・ちょっと長いか。

両腕の包帯は、怪我ではないようだが・・・。


聞けば、つい最近まで

ずっと加入していたパーティーがあったが・・・

町『プロペティア』が魔獣の群れに襲われた際に、

シホを残して、パーティーが全滅したらしい。

そのパーティーの中に、姉がいたようだ。


「はぁ、はぁ、俺は

姉さんのカタキを取りたいんだ・・・はぁはぁ。」


「はぁ、はぁ、そうか・・・

しかし、たった槍2本持っただけで、

そのザマでは、なぁ・・・はぁはぁ。」


断っても断っても、

パーティーに入れてほしいと言って、

ついてくるので、オレが担いでいた槍の束から

何本か渡して、荷物持ちをしてもらったわけだが、

半分も持てないようだったので、

2本だけ運んでもらうことに。


「ぜぇぜぇ、うるさい・・・バカヂカラめ! はぁはぁ。」


しかし、その2本の槍すら持つのに苦労して

息切れしており、木下よりも足取りが遅くなっている。

魔法専門なのだろう。

昨日の戦闘でも、扱いが難しい光の魔法を使っていたから

魔法は優秀だが、体力が女子並みだ。


「だいたい、はぁはぁ、その時の魔獣は

その場で、騎士団に討伐されたんじゃないのか?」


パーティーの仲間を全滅させた魔獣たちは、

その時、助けに来た騎士団によって討伐されたという話だが。


「はぁ、はぁ、いや、群れの中から一匹だけ

逃げていった、ヤツがいるんだ・・・はぁはぁ。

そいつが、姉さんを・・・。

背中に、三日月のような模様がある・・・はぁ、はぁ。

体が、とにかく他のより巨大な・・・『ラスール』だった。

ぜぇぜぇ、おそらく、ヤツが群れのボス、のはず・・・。」


『ラスール』は、『ゴリラタイプ』の魔獣だったな。

群れをなして襲ってくるという話だ。

身内の死を目の前にして、その犯人に逃げられたとなれば、

恨みも倍増するというもの。


「はぁはぁ、それで・・・

ずっと、そのゴリラを探しているのか? はぁはぁ。」


「『ラスール』だ。はぁ、はぁ。

探しているが、俺の実力では倒せない・・・はぁ。

だから、ヤツを探しながら、仲間を探して、いたんだ。はぁ、はぁ。」


ガラン!


「お、おいおい!」


シホが槍を落とした。


「はぁはぁ、すまん。はぁ、はぁ、もう無理だ。

休憩させてくれ・・・はぁーはぁー。」


ドサッ


そう言って、シホは腰を下ろしてしまった。

鼻も口も布で覆っているから

余計に息苦しいのでは?と思うが。


「やれやれ・・・はぁ、はぁ。

慎重に歩いているわけではないから

音が出るのは仕方ないことだが、はぁ・・・

あまり大きな音を立ててしまうと、

『洞窟』に着く前に

魔獣たちに気づかれてしまうぞ。」


オレも、そう言いながら、

槍の束を、そっと足元に置いて

腰を下ろした。


「はぁはぁ、私も、休憩・・・。」


木下も、腰を下ろす。

うっそうとした山道。

辺りには、まだ魔獣の気配はないが、

今の音は確実に、周辺へ響きわたった気がする。

目的の『洞窟』は、あと少しのところにある。

ここは、もう魔獣たちの縄張りだと思っていたほうがいい。

警戒しておかなければ・・・。


ゴクゴク・・・


3人それぞれに、持ってきていた水筒で

水分を補給する。


「ぷっはー・・・いいか、シホ。

ここまでついてきた以上、もう仕方ない。

今回のオレたちの作戦を伝える。はぁ・・・。

『洞窟』へ着いたら、き・・・

そこのユンムが、『サーチ』の魔法を発動する。」


「な! なんだって!?

そんなことしたら・・・!」


シホが驚いているが、

さっさと話を進めてしまう。


「その『サーチ』の範囲にかかった

『洞窟』内の魔獣たちが、木下の魔力を感知して

『洞窟』の入り口を目指してくるだろう・・・はぁ、はぁ。

入り口から最初の分岐点までは

一直線の坑道で、約100mあるそうだ。

最初の魔獣が姿を見せたら・・・」


槍を1本持って見せる。


「こいつを投げ込む。はぁ、はぁ・・・

オレは、こう見えて、じつは竜騎士の資格を持ってる

『なんちゃって騎士』でな。

『対ドラゴン用』の技で投げ込めば・・・

オレの体がナマっていなければ、だが、

魔獣たちをまとめて貫けるはずだ。」


「竜騎士に、そ、そんなことが・・・できるのか!?

はぁ・・・。」


シホが半信半疑のようだ。


「はぁ。まぁ、貫けない場合は、

貫けるまで、ここにある槍を全部、投げ込む。

『洞窟』の入り口の広さは分からないが、

最初の魔獣たちを倒しても、後ろから

それらを乗り越えてくる魔獣どもがいるだろう。はぁはぁ。

そいつらに、全部、投げ込む・・・。ははっ。」


買い占めてきた『鉄の槍』は、全部で10本。

魔獣たちが一列に、何匹並んでくれて、

何匹、貫けるか・・・何匹、仕留められるのか。

本当に、貫けるのか?

オレの竜騎士の技は、通用するのか?


それは、やってみないと分からない。


若いころは、この技を会得するために、

連続して何十本も投げられたものだが、

今の老体で、どれだけ投げられるだろうか?

これも未知だ。


ただ、前回・・・

『レッサー王国』で『窃盗団』に放った

竜騎士の剣技は、久々だったので

かなり、リキんでしまっていた。

そのため、技は成功したが、

直後に、体中を痛めることになってしまった。

あのような失態は、今回も命取りとなるから

避けなければならない。


オレは、右肩に左手を当てながら、

右腕をぐるぐる回す。

今回の作戦は、この右肩にかかっている。


「『サーチ』で、入り口に向かってくる魔獣の数は

だいたいユンムが把握してくれるだろうから、

一応、『サーチ』にかかった魔獣は、全滅させたい。

全滅できなかった場合は・・・

まぁ、ユンムを抱えて逃げて走る体力だけは残して

この作戦を実行せねばならないだろうな。ははっ。」


オレは、冗談ぽく笑いながら、

作戦の全貌を伝えきった。


「なんて、無茶苦茶な・・・。はぁ、はぁ。」


まだ息切れさせながら

シホはオレの作戦を聞いて、飽きれていた。


「さすがに、一日に、これ以上の槍を

投げ込む体力はないから、この作戦を

また明日も実行する・・・はぁ、『洞窟』の魔獣が全滅するまで

毎日、繰り返す・・・ははっ、無茶苦茶だろ?」


冗談ぽく伝えているが、大真面目だ。

昨夜、宿屋の店主と話し合って出来た作戦だった。

まぁ、あの店主には『対ドラゴン用』の技を

使うことは話していないから、

一日に数匹しか倒せないと思われているようだったが・・・。


「たった、2人で挑むから、

いったい、どんな作戦があるのかと思えば・・・

無謀にも程があるぞ! はぁはぁ!

あの硬い体の『ギガントベア』と『ラスール』を

その投げ槍で貫く!? は、はぁ、はぁ!

有り得ない! バカげてる!」


まだ息切れしているシホが

少し怒り気味に、オレたちの作戦を非難した。


「なんか、宿屋にいた客から聞いた話によれば、

あんたたちには策があると聞いていたのに、はぁ、

なんなんだ、それは!

ついてきた俺までもが無駄死にするじゃないか!

こんなことなら、町のみんなで討伐隊を編成して

みんなで討伐に来たほうがよかったじゃないか!」


シホは、作戦が失敗すると思っているらしい。

みんなで力を合わせて討伐・・・それは出来ない。

あの『ウワサ』のせいで、もう目立ってしまっているが、

これ以上、オレたちは目立ちたくない。

オレの実力を大勢に知られたくないのだ。

はっきり言えば、このシホにも

オレたちの討伐している姿を見せたくないのだ。

ここまでついて来られたから、仕方ないが。


それに・・・竜騎士の技は、

かなり威力が大きい。

周りに大勢の人がいれば、誰かを巻き込みかねない。


「町の戦力を割いてしまうと、

町を守るチカラが削がれてしまう。

いつ襲われるか分からない町だからな。

それは得策ではない。」


オレは、そう答えておいた。

実際、正論だ。


オレのほうは、もう息が整った。


「ちなみに、シホ、

お前は、オレとユンムを担いで逃げられるか?

それが出来れば、心置きなく

この全部の槍を全力で投げ込めるんだが・・・。」


「無理だ!」


即答だった。

まぁ、槍2本担ぐだけでヘトヘトなのだから、

当然だろうな。

オレよりも断然細い腕をしている。

もしかして、普通の男よりも細い体じゃないだろうか。

何とも頼りない体つきの男だ。


オレは立ち上がり、

シホに任せていた2本の槍を取り、

自分が持っていた槍の束に入れて、まとめて担いだ。


ガシャッン


「よいしょっと!」


担ぐだけでも、足腰にくるものがある。

痛みはないが、疲れる・・・。


「オレたちを担いで逃げれないなら、

オレたちが逃げ出した時、

せいぜい逃げ遅れないように、しっかりついてこいよ。

さてと・・・時間が惜しいし、

ここは『洞窟』から近い。すでに魔獣たちの縄張りのはずだ。

のんびりしていられない。行くぞ!」


「・・・はぁ。

こっそり後をつけて、本当の実力を見たかっただけなのに。

とんでもないのに、ついてきてしまった・・・。」


シホが、がっくりと肩を落としながら

そうつぶやいた。




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