尾行する者
・・・覚悟してはいたんだが・・・
町を出て、一時間後・・・
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」
オレたちが目指す『スヴィシェの洞窟』は
町『プロペティア』の
北にそびえている『プロペティー山』にある。
山の中腹あたり、森の奥にある『洞窟』までは
歩いて登山するしかない。
幸い、この山道は、そこまで急な勾配ではない。
最初こそ、町の中の『お香』の匂いがなくなり、
山の大自然の美味しい空気を満喫していたが・・・
進んでいくと、
少しずつ少しずつ勾配がきつくなってきた。
「おい、木下。遅れているぞ。
オレから離れるなよ・・・ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・。」
「はぁ、はぁ、も、ヤです~~~!
おうちにかえり、たいです~~~・・・はぁ、はぁ。」
お前の家は、ここより遥か遠い『ハージェス公国』だろ。
正直、オレも帰りたい。
だいたい、手ぶらで歩いているだけのくせに。
「そ、そんなこと言ってると、
この『槍』で、そのでかいケツを刺すぞ。はぁ、はぁ。」
「はぁ、はぁ・・・おじさま・・・ぜぇぜぇ・・・
それ・・・パワハラとセクハラの、合わせ技です・・・はぁはぁ。
訴えます、よ・・・ぜぇ、ぜぇ。」
それだけ、うまく言葉を返せるのなら、
まだ元気な証拠か。
「・・・!」
オレは、足を止めて、耳を澄ませた。
・・・なにか聞こえたような気がする。
周りを見渡してみるが、
まだ広い山道、両脇はうっそうとした森林が広がっている。
気配は感じられない。
なにかいるとしても、まだ遠いのだろう。
いや? 気配が・・・
「・・・。」
音は、前方から聞こえた気がするが、
後ろに気配を感じて、振り返ってみる。
おそらく人の気配だ。
魔獣と違って、まったく動いていない。
オレたちが登ってきた山道には、誰もいない。
森林の中にいるのか?
あまり騒いで、魔獣を呼び寄せたら困るが、
仕方ない・・・ちょっとカマをかけてみるか。
「そこにいるのは誰だ!」
「えぇっ!?」
木下に説明もなしに、オレが大声をあげたので
木下がびっくりしている。
・・・返事がない。動きもない。
しかし、気配は感じる。
「ここで騒ぎを起こすと
魔獣たちに囲まれてしまうから、
できれば、手荒な真似はしたくないんだがな!」
オレは、そう言い放ち、
担いでいた槍の束を置き、そこから槍を1本、
ブンッ
抜き取って、投げる構えをとった。
すると、
「待ってくれ! 降参だ!」
オレたちから数十m離れた森林から
何者かが姿を見せた。
ガサガサッ
「あなたは!?」
「なんだ、あんたか・・・。
オレたちに、何か用か?」
木下が驚いている。
オレも少し驚いたが、相手に敵意がないのを感じるので
構えていた槍を下におろした。
森林から出てきたのは、
昨日の馬車に乗っていた護衛役の傭兵だった。
顔の鼻と口は布で覆われていて
相変わらず、顔は眼しか見えず、
両腕に包帯を巻いていて、
何も武器を持っていないスタイルだ。
その両手を挙げた、降伏の姿勢のまま
包帯の男は、ゆっくり歩いて近づいてきた。
「はぁ、参ったな。
俺の尾行を見破るなんて・・・
さすがウワサ通りの『殺戮グマ』だな。」
男が、ため息混じりに、そう言った。
例の『間違ったウワサ』を知っているようだ。
「オレたちのことを知っていたのか?」
「いや、昨日の、あのあと『ヒトカリ』に
馬車護衛の依頼達成を報告しに行って、
あんたたちのウワサを聞いたんだ。」
「言っておくが、ウワサは・・・。」
「ウワサが本当かどうかは、
昨日の戦闘で分かっている。
あんたは、ウワサどおりの男だ。」
あー、こいつは、
思い切り勘違いしてしまっている。
「いや、だから、ウワサは間違いで!」
「もちろん、ウワサというのは
誰かの憶測や推測が混じって流されるものだと分かっている。
でも、俺は昨日の『ギガントベア』討伐で直に感じたんだ。
あんたの本当の強さを!」
包帯の男は、オレと木下の前に立ち、
「あんたたちのパーティーに入れてくれないか!?
いや、パーティーに入れてください!
お願いします!」
そう言い放ち、深々と頭を下げだした!?




