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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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鉄の槍の束




木下と2人で

宿屋『エグザイル』を出て、武器屋を目指す。


大通りを歩いていくと、

騎士たちが歩いている姿を見かけた。

聖騎士はいないみたいだ。


町民たちと挨拶している姿は見かけるが、

そのほかの、傭兵たちには挨拶どころか

目もくれない態度だった。


「そういえば、なんでここの騎士たちは

オレたちを無視するんだろうな?

傭兵たちは、じゅうぶんこの町の役に立っているだろうに。」


「『十戒の制約』ですよ。

忘れたのですか、おじ様?」


木下が、また嫌味っぽく言う。


「うぅ・・・忘れました。」


「覚えていない、の間違いでは?」


「年寄りをそれ以上、いじめるなよ。

それで、『十戒の制約』の、なにが問題なんだ?」


オレは早々に白旗を上げて、

木下に説明を促した。


「仕方ないですね。

『十戒の制約』の『第二戒』、

「異教のチカラに頼るべからず」ですよ。

この国では、騎士団こそが、この国のチカラ・・・

いや、この国の宗教のチカラという考え方で、

『ヒトカリ』などの傭兵たちは

この国にとっては他国のチカラ・・・

『異教』のチカラという考え方だそうですよ。」


「あー、つまり、

他国の助けは拒否するって考えか?」


「そういうことですね。

さきほど宿屋で、シエンさんが

客たちの気持ちを結束できたのは、

客たちが、他国からの移民だったからで。

もし、この国の信徒たちだったら、

例えシエンさんの頼みでも

だれも応えてくれなかったでしょうね。」


「なるほど、それで・・・。

しかし、他国の者に挨拶もしないのは、

宗教うんぬんの前に、人としてどうなんだろうなぁ。」


「仕方ないんじゃないですか?

それが宗教の、信じるチカラってものでしょう。」


「そういうものか、オレには分からないな。

今回の『洞窟』の件にしても、

騎士団と傭兵たちが一致団結して攻略すれば、

そんな数年もの間、

魔獣の襲撃に怯えなくて済んだだろうし。」


「数百年も前にできた『戒律』を

今も信じて疑わずに、信仰し続けているわけですから

そんな簡単に考え方が変わるとは思えないです。」


『戒律』を重んじるからこそ、

『戒律』に記されたことには

絶対服従ということか・・・。

オレには理解が難しい世界だな。


「そう考えると、最初に出会った聖騎士のデーアや

昨日の長髪の聖騎士は、ちゃんと礼儀ができていたな。」


「そうですね。ほかの騎士と違って

聖騎士ともなると、人格というか、品格というものが

違うのかもしれませんね。」


たぶん、その予想で合っていると思うが、

聖騎士となれば、この国の情勢も把握しているだろうから・・・

他国のチカラを拒否している状況ではないのかもしれないな。




武器屋へ行く途中、

倒壊した家や、建て直している家を見かけた。

町の外側に近い家ほど

大きな被害を被っているようだった。

こんな被害が、毎日のように、数年続けば

この町から離れていく者も多いだろう。

それでも、がんばって建て直している職人たちを見ると

なんとか助けてやりたいと思うものだ。


作戦を成功させねばな。

昨夜遅くまで、宿屋の店主と話し合って

ようやく形となった作戦を。


宿屋の店主の話によれば、

『スヴィシュの洞窟』は、全長約5km以上、

入り口から続く道は、『魔鉱石』を運ぶための坑道だったため、

奥までずっと同じ道幅、高さが続いているらしい。

その道の途中には、何本もの分かれ道があり、

広い空洞に通じている道もあれば、

ほかの道へ繋がっている道もある。

正確な地図がなければ、迷うことは避けられない。

『洞窟』は、その昔『魔鉱石採掘場』として、

国が管理していたため、その内部の地図は

今も国が管理している。

当然、その地図を手にすることは不可能だ。


幸いにも、宿屋の店主が、その昔・・・

魔獣たちが住みつく前の話だが、

『洞窟』に迷い込んでしまった旅人を救出する依頼を

受けたことがあり、その際に、お手製の地図を作成していた。

しかし、その地図も旅人を見つけた地点までの道しか

記されておらず、『洞窟』の全体図は分からない。


その地図によれば、

入り口から最初の分岐点までは、

まっすぐな道になっていて、約100mほどあるという。

迷路になっている洞窟内で

凶暴な魔獣たちを討伐するのは至難の業だ・・・。

そこで、オレたちは『洞窟』の外で、

魔獣たちが出てくるところを討伐することにした。




「投げやりはあるか?」


武器屋『パッロコ』は、この町でも大きい店のようで、

傭兵たちで賑わっていた。


「そこにあるぜ?

見たとこ、傭兵・・・のようだが、

あんた、その歳で槍を投げるのか?」


武器屋の店主が、オレをジロジロ見て言う。


「何に対して槍を投げるかは知らないが、

『鉄の槍』より断然軽い、『木の槍』をオススメするぜ。

殺傷能力は鉄より劣るかもしれないが、

うまく投げりゃ、野ウサギぐらいは仕留められるだろう。

腰を痛めないようにな! がははは!」


店主がバカ笑いしているが、

今の何がおもしろかったのか、よく分からない。

本当に腰を痛める可能性があるから笑えない。

オレは、店主の忠告を無視して

『鉄の槍』を見つけて、それを束ねて


ガチャガチャガチャ・・・


「これを全部くれ。」


店主がいるレジの前に置いた。


「お、おい!? 俺の話を聞いてたのか!?

こんな重たい槍・・・え・・・?」


ざわざわざわざわ・・・


その様子を見ていた傭兵たちが

オレたちに気づいたようだ。


「おい、あいつ、もしかして・・・!?」


「え、『森のくまちゃん』の『殺戮グマ』!?」


「あんな『鉄の槍』を束で、軽々と・・・。」


ひそひそ話は、普通に聞こえてくる。

やはり、この町の傭兵たちには

すでにオレたちの『間違ったウワサ』が広まっているようだ。

いや、軽々持ったわけじゃないけどな。

1本だけなら、そうでもないが束になるとなかなか重い。

これを、これから数キロ離れた

『洞窟』まで運ぶとなると、それだけで体力が

なくなりそうな予感だ。


「店主さん。」


木下が、ニコニコの作り笑顔で

店主に話しかけた。


「は、はい!」


「これだけの『鉄の槍』を

まとめて買うのだし、店主さんは

お優しい方のようですし・・・

少しは値引きしてくれるのかしら?」


そう言いだした木下の作り笑顔は、

もはや可愛いものではなく、

冷酷なものを感じさせる笑顔に見えた。


「は・・・はい・・・。」


店主は、そう答えるしかないように思えた。


「ま、毎度あり・・・。」


店主は、恐怖で引きつった表情のまま

清算を済ませた。

『鉄の槍』は、鉄製だからそれなりに高値だ。

しかし、普通の『鉄の槍』に比べて

『投げ槍』用の『鉄の槍』は

少し安い値段に設定されている。

投げて使うため、普通の槍より壊れやすく、

使い捨てみたいな用途だからだ。

それでも、束にすると、かなりの出費だ。

木下の交渉術のおかげで、少しは安く手に入った。


「よいしょっと。」


ガチャガチャガチャ・・・


オレは『鉄の槍』の束を肩に担いで、


「あ、店主。」


「は、はい!」


「たぶん明日も来る。

『鉄の槍』を用意しておいてくれ。」


「えぇ!? あ、いや、はい!」


そう言い残して、店を出た。




「旅費の半分以上を使ってしまいましたね。」


旅の資金は、ほとんど木下に預けてあるため、

木下が管理してくれている。

その木下が、不安そうな表情で、そう言った。


「あぁ、投げ捨て用の槍とはいえ、

鉄製だし、これだけの束で買えば、

それなりの値段になるな。

お前の交渉のおかげで、少しは安くなったと思うが。」


この依頼を達成できれば、それ以上のお金が

手に入るだろうが、本当に達成できるか不安だし、

達成するまでに資金が底をついてしまう可能性も出てきた。

しかし・・・


「無事に達成するには、

この作戦しか思いつかなかったんだ。

もう、やるしかないだろ。」


「はい。」


オレは、今一度、

自分の中の覚悟の気持ちを固めていた。





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