『森のくまちゃん』の告白
階段を降りる途中から、すでに
朝食の美味しそうな匂いがしていた。
「おはよう、お2人さん。」
店主が、朝食を運びながら挨拶してきた。
ちょっと眠そうだ。
遅くまで作戦会議に付き合ってくれていたし、
早朝から朝食の仕込みなどがあるだろうし、
寝不足なのかもしれない。
食堂は朝から、なかなか賑わっている。
やはりこの国が『断食』期間中だから
ほかの店では食事ができないだろうし、
食材を買うことも難しいのだろうな。
朝食は、魚料理だった。
焼いてある魚の香ばしさに、
いい塩梅の塩味が最高に美味しい。
店主は、あちこちの国へ傭兵をしながら
旅をしたのだろうから、
美味しい物もよく知っているわけだな。
オレたちが食べ始めたタイミングで、
階段のほうがガヤガヤと騒がしくなり、
『マティーズ』の3人が降りてきた。
「おー、おはよう! お2人さん!」
イヴハールが大きな声で挨拶してきた。
朝から元気なやつだな。
「昨夜は、寝る前だけ、どこかうるさかったよな。
どこの部屋だったのか知らないけど。」
テゾーロがそう言ったので、
少しドキッとした。
「ネズミでも出たのかもねぇ。」
カトリーノがそんなことを言っていると、
「おいおい、失敬だな、お前たち。
朝食抜きにされたいのか?」
後ろから、店主が怖い笑顔で
朝食を運んできていた。
「俺らは、何も言ってないですよ!」
イヴハールが、すかさず誤解を解こうとする。
「ウソです! 冗談です! 清春様~!」
すぐにカトリーノが甘えた声を出す。
分かりやすい女だな。
オレたちは、昨夜と同じように
同じテーブルで朝食をいただいた。
食事中に、テゾーロが
オレたちのことを「森のくまちゃん」と呼んだ時、
周辺の客たちが、少しザワザワしていた。
・・・本当に『ヒトカリ』での情報は、
あっという間に広まるのだな。
おそらく、オレたちの『間違ったウワサ』が
すでに傭兵たちへ伝わって、広まっているのだろう。
「なんか、騒がしい・・・な?」
イヴハールが、周りの騒音に気づいたようだ。
この3人だけは、まだオレたちの『間違ったウワサ』を知らない。
しかし、こいつらは、朝食が済んだら、
『ヒトカリ』で依頼を探すと言っていたし・・・
遅かれ早かれ、伝わってしまうのなら、
目の前にいる時に、直接伝えておいたほうがいいな。
昨日初めて出会ったわけだが、
もう知らない仲というわけじゃないから。
「あんたたちは、今日はどうするんだ?
なにか依頼を受けているのか?」
ちょうど、テゾーロが
オレたちの今後の予定を聞きたがっていたので、
「あぁ・・・。そのことで、
じつは、お前たちに話しておきたいことがある。」
「おじ様・・・。」
木下が心配そうな表情だったが、
オレと目が合うと、小さくうなづいた。
木下も、こいつらに黙っておくことは
心苦しいと思ったのかもしれない。
「な、なんだよ? 改まられると怖いぜ・・・。」
テゾーロが、少し怯えている。
「別に、怖い話をしようってわけじゃない。
ただ、落ち着いて聞いてくれ。
たぶん、お前たちの耳にも
のちのち聞き及ぶと思うが・・・
お前たちには、真実を話しておく。」
「なんだい? なにか隠し事があったのかい?」
カトリーノが
興味津々みたいな声で聞いてくる。
「いや、隠していたわけじゃないんだが、
ちょっと今まで言いそびれていた。
オレたちは、今日、
『スヴィシェの洞窟』へ行く予定だ。」
「あぁ、なんだ、『スヴィシェの・・・
なにぃっ!!!?」
イヴハールが、大声をあげる。
「じょ、冗談だよな?
だって、あんた・・・ランク外の新人で・・・。」
テゾーロが、冗談だと思っているらしい。
しかし、声が震えている。
オレの真剣な目を見て、冗談ではないことが
分かっているようだ。
「ちょっ・・・ウソでしょ!?」
カトリーノが悲鳴に似た声をあげる。
3人の動揺している声を聞き、
周りの客たちの注目も浴び始めた。
まぁ、どうせ、人の耳に戸は立てられない。
ウワサがウワサを呼んでしまうよりも、
ここでオレたちの『真実』を伝えておいたほうがいいだろう。
木下が、腰の布袋から
例の依頼書を取り出して見せる。
「!!」
「・・・マジか・・・。」
「・・・!!」
ざわざわざわっ!
『マティーズ』の3人と
その他大勢の客たちが、目を丸くして
ざわめいている。
こうなれば、この3人相手に
真実を伝えるよりも、大勢に向かって
真実を述べたほうがいいと感じて、
オレは、少し声を大きくして
オレたちの『真実』を話し始めた。




