友人との最期の約束
「話せば分かってくれるって、甘い考えだった。
検問官も、騎士団たちも、まるで聞く耳を持ってくれず・・・。
関所は越えちまってたから、元の国に戻れず、
戦いながら、この国中を逃げ回ることになってしまってな。
まぁまぁ俺たちのパーティーは強いほうだったが、
騎士団のほうが圧倒的に人数が多くて・・・。
逃げているうちに、パーティーはバラバラになってしまった。
騎士団の目的が『獣人族』の友人を討伐することだったから、
パーティーから抜けてしまえば、
仲間たちは助かるわけで・・・。
だから、俺はバラバラになった仲間たちを見捨てて、
友人たちと逃げ回っていった・・・。」
おそらく、そのパーティーのリーダーは、
この店主だったのだろう。
仲間を思えばこその判断だったと思うが、
きっとバラバラに逃げてしまった傭兵たちは、
リーダーに見捨てられたと感じてしまうだろうな。
リーダー役の損な部分だ。
「普通の騎士たちは、そんなに強く感じなかったが、
青白い鎧を装備した聖騎士たちの強さは別格でな。
こっちは逃げ回るって言っても、移動手段はこの足しかないし、
どんどん聖騎士たちに追い詰められていった。
そして・・・友人の婚約者が
囮になって、俺と友人を逃がしてくれたんだ・・・。
囮となったそいつは、聖騎士に殺されてしまった。
それで正気を失った友人が、聖騎士とやりあってしまい、
俺が止めに入った時には、致命傷を負ってしまっていた・・・。」
「・・・。」
・・・なんとも、悲しい出来事だな。
木下は、ついに泣き出してしまった。
「その友人の最期の言葉が、
「生き延びて『獣人族』を助けて」って。
なんとも無責任な頼み事をしやがるもんだ・・・。」
その無責任な頼み事を、
律義に、この店主は、ずっと守り続けているわけか。
ひょっとしたら・・・
その『獣人族』は女性で・・・店主は・・・。
まぁ、これは無粋な憶測だな。
「それで、ずっとこの国で?」
「そうだ。
まぁ、俺が世界一バカな男って話さ。」
本物のバカならば、約束など守らないだろう。
「それにしても、この国の戒律はひどいな。
なぜ、『獣人族』を『バンパイア』に
仕立ててしまっているんだ?」
たしか、聖騎士デーアは、
大昔からある戒律だと言っていたが。
「あぁ、それに関して、俺も疑問だったんで
ある聖騎士に聞いてみたんだ。
・・・友人が亡くなった時、
俺もまだ若かったから、怒りで我を失って・・・
追ってきた聖騎士と一対一の戦いを挑んでしまって。
でも、お互い力尽きて、引き分けになったんだ。
そこで、お互い体が動けない間に、
その聖騎士に、この国の戒律について
根掘り葉掘り聞いてみたんだ・・・。」
別格の強さの聖騎士と互角かよ。
どんだけ強いんだ、この店主は・・・。
「そしたら、その聖騎士が
この国の戒律の真実を教えてくれたんだ。
この国ができる数百年前、
本当に『バンパイア』がいたことは、たしかだった。
しかし、長い年月の間の、ある時期に、
この国の何代目かの大司教が・・・
あ、大司教ってのは、ほかの国で言えば王様だな。
その時期の大司教が、とある『獣人族』と仲良くなったらしい。
ともに『バンパイア』を討伐したり、交流を深めていたとか。
しかし、『バンパイア』が嫌う『お香』は
『獣人族』のやつらが嫌いな匂いだったらしいんだ。
『獣人族』は、もともと人間よりも鼻がきくんだ。
ニオイに敏感だし、強いニオイを嫌がる。
俺の友人がそうだったからな。
それで・・・まぁ、大昔の当時のことは詳しくは知らないが、
たった、それだけの理由で
仲が良かった者同士のケンカが始まり・・・
完全に決別し・・・それ以来、『お香』を嫌う
『獣人族』も『バンパイア』として対処する
戒律ができたんだとよ。」
「ひどい・・・。」
木下が、涙目のままつぶやく。
しかし、どこの国の法律も似たようなもので、
権力を持つ者にとって、
不都合なことを排除するように
法律や決まり事は作られるものだ。
それは宗教も同じことなのだろう。
それにしても、本当につまらない理由だ。
『事実は小説よりも奇なり』、か。
「店主は
よく、この国で店をかまえていられるな。
この国の騎士団とやりあったのだから
国を追われてしまうか、捕まるか・・・
オレだったら、そうならないうちに
早々に、この国から去ってしまうと思うが・・・。」
「まぁ、俺も最初はさっさと去りたかったんだがな。
・・・命を守ってやれなかった友人との
最期の約束ぐらい、守らなきゃいけない気がして。
幸い、あれだけ暴れて逃げ回ってた俺を、
その時の聖騎士は見逃してくれて・・・。
やつらにとっては『獣人族』さえ
討てればよかったのだろうな。
お咎めがないなら、ここにいてもいいかと思ってな。」
剣を交えて、聖騎士と心を通わせたのだろうな。
そして・・・たぶん、この土地に
その友人や仲間たちの墓があるのではないだろうか。
この店主は、その墓守りをしながら、
友人の約束を守り続けている・・・そんな気がした。




