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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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ケモノの耳を持つ少女・ニュシェ



黒い布の服を頭から被っている子供・・・。

中学生くらいの年齢かと思ったが、

聞けば、高校生ぐらいの年齢だった。

幼いころから貧乏な生活で、

まともな食事をしてこなかったようだ。

それとも、食事による発達の遅れではなく、

この体の小ささは『獣人族』の特徴なのだろうか?


ともあれ、こいつは未成年ということになるのだろう。


黒い長髪の頭の上に、ピンと立った獣の耳。

よくみれば、ケツのほうから

フサフサしたシッポが、服の下から見え隠れしている。

少年か少女か分からなかったが、本人は女だと言った。


少女の名前は、ニュシェと言う。


オレが昼間、食事処で握ってもらった『握り飯』を

ガツガツと食べながら、オレたちの質問に答えてくれた。

最初こそ、怯えていて、こちらに敵意むきだしの

表情を見せて、何も答えてくれなかった少女だったが、

オレたちが優しい口調で話しかけ、

『握り飯』を食べていいと言ったあたりから、

オレたちが危害を加える者たちではないと理解したようだ。


食べている様子を見ていると、

人間よりも、犬歯が大きめで鋭いことに気づいた。

これが、『獣人族』なんだなと、改めて実感して、

マジマジと観察するように見てしまう。


ビクッ!


「・・・?」


「おじ様、この子を真顔のまま見つめないでください。

顔が怖いですよ!」


どうやら、観察しすぎて、オレの顔が無表情だったようだ。

少女を怯えさせてしまった。

人間の赤ちゃんでも、無表情の大人の顔は怖く感じて

泣き出してしまうと聞いたことがある。

・・・よく子供たちを泣かせた過去を思い出す。


「すまん、『獣人族』を見るのは初めてだったから

ついつい観察してしまった。すまなかった。」


素直に謝ると、

少女はまた『握り飯』をガツガツ食べだした。

あまり観察しないようにせねば。


・・・それにしても、これはどうしたものか。


観察して、話していると

とてもじゃないが、魔物化しているとは思えない。

会話ができているあたり、

魔物化していても自我は消えていないということか?

いや、やっぱりこいつは・・・

魔物化していないと感じる。

ただの『獣人族』だ。


しかし、聖騎士も、ここの国民たちも、

この少女をひと目見ただけで

「バンパイア」だと騒ぐほどだ。

オレたちには分からない

『バンパイア』の特徴をしているのだろうか?


ビクッ!


「あ」


「おじ様ッ!」


少女が、また怯えてしまった。

考え事をしながら、また少女を

じっと見つめてしまったようだ。

木下にきつく注意を受ける。


「すまん、すまん!

考え事をしていて、つい・・・。」


「無い頭で考え事しないでください。」


今、木下にさらりとヒドイことを言われた気がするが、

深く考えないようにしよう・・・。


ジトッ・・・


今度は、少女がオレを見つめてきた。


「ど、どうした?」


「・・・ありがと。」


「!・・・どういたしまして。」


ちゃんとオレの目を見て、お礼を言われた。

ただ、それだけのことだが確信できた気がする。

この子は、ただの『獣人族』だ。

魔物ではない。


ただ、このことを

どうやって、この国のやつらに

分かってもらえばいいのだろうか?


「おじ様・・・。」


木下も困惑した表情でオレを見てくる。

こいつも、オレと同じことを考えているようだな。


「あぁ、こいつは・・・

『バンパイア』ではないよなぁ。」


「えぇ、どう見ても

普通の『獣人族』の子供ですよね・・・。」


「どうしたものか・・・。あ・・・。」


「あらあら・・・ふふっ。」


オレたちが、今後のことを考えている間に、

『握り飯』を食べ終えた少女が

ウトウトと眠りだしてしまった。

腹が満たされたから、というのもあるだろうが、

もしかしたら、

ずっと安心して眠れなかったのかもしれない。


少女を起こさないように抱え上げて、

ベッドに寝かせる。


「・・・。」


幼い寝顔だ。

こんな幼い子供一人を、国全体で追い掛け回して・・・

なんか・・・イライラするな・・・。


「おじ様、とりあえず、

この宿屋の店主に話してみたらどうでしょうか?

聖騎士のデーアさんなら、

話せば分かってもらえそうな気もしますが、

今は、この町にいないようですし・・・

ここの店主・シエンさんなら、

他国の人なので、事情を話せば伝わる気がします。」


木下が考えてくれたようだ。

たしかに、あのデーアという聖騎士なら、

なんとなく話が通じそうな感じだった。

しかし、聖騎士という立場上、

この国の決定には逆らえないだろう。

この少女が『バンパイア』ではないという証拠は、

どうやったら立証できるんだろうか・・・。

その確実なものがない限り、

この国の者に渡したら、この国の決まり事に従って

処分されてしまうだろう。

未成年だから、たしか『ある施設』に入れられて

実験に使われてしまうんだったな・・・。


『マティーズ』の3人も、

ほかの国の者で、信徒じゃないのなら

もしかしたら話を聞いてくれるかも・・・と思うが、

あいつらは、どこか頼りない・・・。


しかし、宿屋の店主なら・・・


「そうだな。ここの店主なら、

もしかしたら、うまく話が通じるかもしれないな。」


傭兵たちに向けていた、あの眼差しは

とても優しい感じがした。

なんというか、子供たちの成長を

見守るような、そんな温かい眼差しだった。

ぜんぜん話したことがないようなものだから、

それだけで相手を『良い人』と判断するのは

かなり危険な気もするが、

今、この国で、この町で、

誰かに話せるとしたら、あの店主しかいないだろう。


「どうせ、こいつの分、

宿泊料金が発生するんだし、

今のうちに、店主に話し合ってみるか。

たぶん、後片付けしていて、

まだ寝ていないだろうから、

ここへ呼んで、話し合ってみよう。」


「そうですね。」


明日になってしまうと、

ほかのやつらがいて話しかけづらい状況になる。

みんながそろそろ寝静まる頃だから、

今のうちに話し合うのが良さそうだ。


「木下は、ここで待っていてくれ。

オレが、今、下へ行って・・・。」


そう言って、オレがドアを開けた瞬間!


「もう話は聞かせてもらったよ。」


「!!!」


ドアのそばで、いきなり声がした!

部屋の外、ドアのすぐ横の壁に

寄りかかって、腕組みをしている人影が見えた!

オレは、とっさに部屋の中の方へ飛び、

ドアから距離をとって身構えた!


「おっとっと!

そう警戒しなさんな!

俺もあんたと同じで、丸腰だ。

『殺戮グマ』のあんたと

やりあおうなんて、間違っても思わねぇよ。」


部屋の外にいる人影が、そう言った。

半開きだったドアが、ゆっくりと開き、

部屋の明かりが、人影に当たると・・・

不敵な笑みを浮かべた

宿屋の店主、シエン・清春が

両手を挙げながら姿を現した。




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