表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
133/501

『マティーズ』との夕食



「いや、マジでおっさんの暴走がよかったよな!」


「おい、コラ! 暴走、暴走って言うな!

恥ずかしい・・・。」


「あっはっはっはー!」


『マティーズ』たちとの夕食が始まった。

最初から、馴れ馴れしい感じだった

やつらだが、他人行儀な態度より断然いい。

酒もないのに会話が弾む。


「それにしても、初めて

大きめの『ギガントベア』と戦ったが、

あれは、まだ俺たちのレベルじゃ、倒せなかったなぁ。」


そう言ったのは、『マティーズ』のリーダー・イヴハール。

宿屋へ誘ってくれたのも、食事を誘ってくれたのも、こいつだ。

傭兵をしながら、剣士の資格を目指しているらしい。

魔獣の頭部への攻撃は、なかなか見事だったな。

茶髪の短髪で、中肉中背。

体格はオレよりもスラっとしている。

よく見ると、なかなかハンサムじゃないか。


「いつも、小さいやつで苦戦してるからな、俺たち。

やっぱり、『ギガントベア』っていうと

討伐依頼を受けられるのは『Bランク』以上って、

ランク指定されてるから、

『Cランク』の俺たちには、ちょっと荷が重すぎたな。」


そう言ったのは、『マティーズ』の男、テゾーロ。

元々は、違うパーティーにいたらしいが、

リーダーにスカウトされて、今のパーティーに入ったそうだ。

魔獣の足への2回攻撃は、いい判断だったな。

黒髪の短髪で、ちょっと体格がごつい・・・

オレと似ていて、腹がちょっと出ているな。ちょっとだけ。

顔はおいといて、性格が良さそうだ。


ふと、木下を見ると、相変わらずの作り笑顔だ。

こいつらには気を許していないということだな。

それはそれで、傭兵として、スパイとして、

正しい態度だと感じる。

ただ、本人は疲れるだろうなぁ。


「それにしても、てっきりお前たちは、

この国の信徒だと思っていたが、

こうして食べているということは違うんだな?」


「あー、ないない!

私たちが、ここの信徒だったら、

とっくに投獄されてるよ!」


そう答えたのは、『マティーズ』の女、

ナントカ・・・カトリーノ。

長ったらしい名前だったからオレは覚えられなかった。

言葉使いは悪いが、どことなく、

どこかのお嬢様のような感じがする。

明るい茶色のショートで、まぁまぁ美人顔だ。


3人とも、30歳前後で、

木下よりちょっと年上のようだが、

オレから見れば、木下と同じように若く見える。


「私も、パーティー名を

この国の神様の名前から考えたって言っていたから

てっきり地元の方々かと・・・。」


木下がそう言う。オレもそう思った。


「あはは、そりゃそう思うよな。

そこが狙いなんだけどな。」


テゾーロが笑いながら、そう答える。


「俺たちは、隣りの国『イネルティア』出身でね。

知ってるか? 『イネルティア王国』。」


「あー、たしか騎士団が強いんだよな?」


『イネルティア王国』は、この国より北に位置する。

この国『レスカテ』へ来る前に、

『レッサー王国』で木下と、今後のルートを話し合った時、

選択肢として出てきた国だ。

オレとしては、遠回りでもいいから

食事制限がない『イネルティア』の方へ行きたかったが。


「強いなんてもんじゃないぜ。

騎士団だけじゃなく、傭兵でも強いやつらがゴロゴロいるんだ。

元・騎士団だったり、世界中を旅して修行してきたヤツだったり。」


イヴハールが、興奮気味に話す。


「年に一度の『全武力総模擬戦』、月に一度の『無双交流戦』、

週に一度の『腕試し大会』っていうふうに、

有名な大会だけでも、戦う機会がじゅうぶんあるのに

『武器使用禁止の大会』やら『槍だけの大会』やら

とにかく、戦闘関連のイベントが盛りだくさんな国さ。

だから、世界中から強いやつらが

腕試しに集まって来て、そのまま住みつくんだ。」


と、テゾーロがイヴハールの話を続ける。

なるほど、それは・・・大変だな。

怪我や暴力事件が絶えなさそうだ。


「当然、強い傭兵がウジャウジャいてね。

私らのような低ランクのパーティーは、

いい仕事も取れないし、ランクも全然上がらない。

そこで、目を付けたのが、この国『レスカテ』。

ちょーっと戒律が厳しいけど、それがあるからこそ

私らみたいな他国の傭兵が住み着かないし、

地元の強い人たちは、だいたい騎士団に入るから

ライバルが少なくて、絶好のランク上げポイントってわけ。」


カトリーノが続けて話してくれる。


「母国にいたら、きっと今もまだ

『Fランク』止まりだっただろうなぁ。」


テゾーロが、しみじみとそう言う。

『Fランク』か・・・オレたちは、

まだ『ランク外』だから、

ランクがあるだけ、こいつらがうらやましいと感じる。


「この国では、長いのか?」


「あぁ、もう何年経ったかな?

けっこう長くこの国にいるよ。

拠点を構えず、傭兵の仕事をこなしながら、

あちこちの町や村を転々としてさ。

『ヒトカリ』や、この国の人たちに

俺たちの実績とパーティー名を覚えてもらって

やっと『Cランク』になったんだ。」


「そうだなぁ、このパーティー名は

この国の人たちに覚えてもらいやすかったから、

『Cランク』になったのは、他のパーティーより

けっこう早いほうだと思うぜ。

それでも、5年はかかったと思うけど。」


イヴハールとテゾーロがそう答えたら、


「えっ、もうそんなになるの!?

どお~~~りで、婚期も逃すはずだわぁ~!」


カトリーノが、なにやら意味深な言葉と

鋭い視線を、イヴハールに向けている・・・。


「うっ!

ま、まぁ、俺たちのことは置いといて!

おっさんたちは、どうなんだ?

『レッサー王国』から来たってのは聞いたけど、

その旅っていうのは、目的地はどこなんだ!?」


イヴハールが、ものすごく慌てて、

あからさまに話題をすり替えようとして

オレたちに話を振ってきた。


まだ嘘に慣れていないオレを

木下は、いつもの作り笑顔で助けてくれて、

ほとんどの質問は木下が答えていた。


オレが『ソール王国』出身者であること・・・

オレが『リストラ対象者』であること・・・

『特命』を受けて、『ドラゴン討伐』の旅をしていること・・・

木下の母国が乗っ取られていること・・・

そして、『ソウル』ナントカという

ヤバイ組織の存在・・・


それらを一切話すことなく、臭わせることもなく、

淡々と、嘘で答えていく木下・・・。


なんというか・・・

目の前のこいつらに情がわいたわけではないと思うが、

それでも、こいつらに嘘をつくことは心苦しいと感じる。

この心苦しさを言い訳にして、

いつも、オレは、ほとんど口を出さないでいる。

すべて木下に、この心苦しさを

肩代わりしてもらっているんだなと感じた。


木下に「黙っていることも嘘のコツ」と

最初に教えられた通り、実行しているが、

それだけじゃなくて。

口下手なのは直らないと思うが、

オレも、少しずつ嘘を覚えていこう。

そうすれば・・・少しでも、

木下が嘘をつく回数が減るだろう。


いつか・・・この長い旅の間に、必ず・・・

心苦しさを、半分こにできればいいと

ぼんやり思った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ