1人だけ間違ったおっさん
「ただちに、怪我をした者たちを
中央病院へ搬送しろ! 急げ!」
「はっ!!」
オレたちが魔獣を倒したあと、
すぐに、別の騎士団が町の中から出てきた。
その中には、ほかの騎士たちとは違う装備の騎士がいる。
あの青白い鎧・・・
国境の村で出会った、デーアや
『サセルドッテ』の教会前で出会った騎士と同じ装備だ。
黒髪で、長髪で、
髪を後ろで縛っているが、細長い顔の男だ。
その男は、ここに到着早々、
騎士たちに、キビキビと命令し始め、
騎士たちはバタバタと動き始めた。
魔獣の攻撃で倒れた騎士たちは、
どうやら命があったようだ。
運ばれていく姿を見て、すこし安心する。
そして、その長髪の騎士がこちらへ近づいてきた。
「傭兵の諸君、今回の魔獣討伐、
まことに助かった! 感謝する!」
男はオレたちに深々と頭を下げた。
「あ、いえ!
傭兵なら魔獣を討伐するのは当然のこと!
聖騎士様、どうぞ顔を上げてください。」
両手包帯の男が、恐縮した様子で答える。
なるほど。
どうやら、青白い装備の騎士たちは
普通の騎士ではなく、『聖騎士』らしい。
デーアがそうだったな。
たしか、大司教ってやつに選ばれるんだっけ?
『ソール王国』で言えば、『隊長格』にあたるのだろうか。
「ちょうど、町の東に魔獣が現れて
私たちがその討伐をしている時だったのだ。
まさか町の入り口にも現れるとは・・・。
諸君らがいなければ、今頃は
もっと大きな被害になっていただろう。
本当に、感謝する!」
聖騎士と呼ばれた男は、また深々と頭を下げた。
「あぁ、いやいや、俺たちなんて、そんな・・・!」
両手包帯の男や『マティーズ』たちも
恐縮して、ペコペコしているところを見ると
聖騎士と呼ばれる者は、それなりの地位があるようだ。
「それもこれも、このおっさんのおかげなんだ!」
「あぁ、的確な指示だった!」
「あんな魔法の使い方、初めてだったよ!」
傭兵たちが急にオレを褒めだす。
「えっ!?」
いきなり話をふられたから、ドキっとした。
目立たないように立ち振る舞ったつもりだったが、
最終的には、オレが指示してたような・・・
出過ぎたマネをしたか。
「ほほぅ・・・。」
長髪の聖騎士が、オレをじろじろと見る。
「いや、オレはお前たちの活躍を
後ろで見てただけだぞ。
お前たちのおかげで、命拾いした。はははっ」
笑ってごまかしておく。
「とにかく、本来は討伐依頼を出して
諸君らに報酬金を払わねばならないところだ。
依頼関係なく、町を救ってくれたことに感謝したい。
町の教会で、今回の
魔獣討伐の報酬金を用意しておく。
諸君らのことを団員たちに話しておくから、
ぜひ立ち寄って、受け取ってくれたらいい。」
「おぉ!」
長髪の聖騎士が、気前の良いことを言う。
少しでも旅の資金になるなら、ありがたい。
「ディーオ様!
破壊された家の中から住人を見つけました!」
そこへ、他の騎士がなにか報告しに来た。
ディーオと呼ばれた長髪の聖騎士が返事をする。
「おぉ、住人は無事か!?」
「はっ! ただ大きな怪我を負っています!」
「分かった、今行く!
そういうわけで、私はこれで失礼させてもらう。
諸君らに、神の配慮があらんことを!」
長髪の聖騎士は、早口でそう告げると、
町の入り口へと走っていった。
ほかの騎士たちも、町へと入っていく。
オレたちも、そろそろ町へ入るか。
「それにしても・・・
あんた、もしかして違う魔法を発動させなかったか?」
「え?」
両手包帯の男が、よく分からないことを言う。
しかし、心当たりもある・・・。
ものすごく久々の魔法だったから
もしかしたら、魔法の詠唱を間違えたかもしれない。
「そ、そうだったか!?
じつは、オレは魔法が不得意でな。
自分でアイディアを出しておきながら、
魔法は失敗したのかもしれん。すまなかった!」
ものすごく恥ずかしい気持ちになり、
オレは素直に謝った。
「でも、結果として倒せたのだから、
よかったな! はははっ」
恥ずかしいやら、申し訳ないやらで、
また笑ってごまかそうとしたが・・・
「いや、逆だよ! 逆!
あんたの魔法だけ、初級魔法じゃなかった気がするんだ。
いくら、4人分の魔法であっても、この威力は異常だ。
そして、あんたの消費魔力だけ大きく感じたんだ。」
「はっ!?」
「おじ様・・・。」
木下が、オレの腕を引っ張ったので
振り向くと、真剣な目でオレを見ていた。
そこで、ふと気づいた!
・・・そういえば、『レッサー王国』で野宿した時、
木下と魔法の話をして・・・。
その時に、『ソール王国』の初級魔法と
木下の母国『ハージェス公国』で習う初級魔法が
違っていたことを思い出した!
「あ・・・。」
「あんた、いったい・・・。」
両手包帯の男が、そう言ったとき、
「ごめんなさい、みなさん。
おじ様は、魔法が不得意ゆえに、
魔力のコントロールも不安定で
たまに暴走してしまうのです。」
木下がそんなことを言う。
「ぼ、暴走!?」
その場にいた全員が驚く。
ついでに、オレも驚いた。
魔法は、詠唱中に魔力を高め、
その魔法に必要な魔力をコントロールする必要がある。
初心者の中でも、不得意なやつは、コントロールできず
魔法を暴走・暴発させるという失敗をしてしまいがちだ。
つまり・・・オレは今、初心者の中でも
落ちこぼれの部類に近いと言われたも同然なのだ。
しかし、木下は、オレをけなしているのではなく、
オレが『ソール王国』出身者であることを
隠すために、ウソをついてくれているのだと分かっている。
だから、反論も訂正もしない。
「面目ない・・・。」
オレは、申し訳なさそうに、みんなに謝った。
「ま、まぁ、うまく魔獣を倒せたのなら
よかったじゃないか?」
「あぁ、暴走して倒せたのなら
結果オーライだよ!」
『マティーズ』の男たちが
そう言って、うまく助けてくれる。
「いや、しかし! さっきのは暴走ってレベルでは・・・!」
両手包帯の男は、まだオレを疑っているようだが、
「おーい! お前たち! 無事かー!?」
町の入り口から、
ぞろぞろと傭兵らしき男たちが出てきて、
『マティーズ』たちに話しかけてきた。
「おぉ、お前たちこそ、無事か!」
「あぁ、こっちの魔獣は、
ほとんど騎士団のおかげっていうか、
聖騎士様のおかげだったからな!」
傭兵たちの会話からすると、
町の東側に現れた魔獣のほうは、
あの長髪の聖騎士のおかげで討伐できたらしい。
一人で倒したのだろうか?
だとすれば、かなりの実力だな。




