緊急事態
小さな森林の中で、小さな川を渡った。
パッカ、パッカ、パッカ・・・
木の橋を渡る馬車の音を聞き、
馬車の中で揺られていると、
そのまま眠ってしまいそうになる。
『お香』の匂いが薄まっていて、空気がとてもおいしい。
カーーーン・・・
カーーーン・・・
オレの眠気をかき消すように、
鐘の音が聞こえてきた。
馬車は、うっそうとした森林を抜け、
広い草原に出てみれば、そこに町が見えた。
時間的には夕方だ。キレイな夕日が見える。
カーーーン・・・
カーーーン・・・
いつもより多めに鐘の音が聞こえてくる?
カーン・・・カーン・・・
町が近づくにつれ、
その鐘の音の間隔が短いことに気づく。
「・・・! き、ユンム!
すぐに戦うことになるかもしれんぞ!」
「えっ!?」
オレが緊張した声を出したので、
木下だけじゃなく、
話しかけてこなくなった他の傭兵たちも
緊張した表情になった。
馬車から乗り出すようにして、
町の様子を、よく見ると・・・
ドゴォーーーン!
「!!」
轟音とともに、
町の入り口で砂煙が立ちのぼった!
「なんだ!?」
奥に座っていた、
両手に包帯している傭兵が叫ぶ。
カン! カン! カン!
町に近づくほどに、
鐘の音がけたたましく鳴り響いているのが分かる。
どこの国も『警鐘』の鳴らし方は同じなのだな。
あれは『敵襲』を知らせる緊急の鐘の音だ。
ボォン!
「!!」
町の入り口で、爆発が見えた!
おそらく魔法による爆発だ!
立ち込める煙で、何がそこにいるのか、よく見えない。
とにかく、誰かが、何かと戦っている!
「なにかいるぞ!
近づくな! 馬車を止めろ!」
オレは、とっさに御者へそう叫んでいた。
「おやっさん、早く止めたほうがいい!」
奥に座っていた両手包帯の傭兵も
町の異変に気づいて、慌てて御者に
馬車の停止を告げていた。
ガタガタガタッ!
町から、100mほど離れている場所で
馬車が停まる。
奥にいた両手包帯の傭兵が、すぐに馬車から降りた。
他の傭兵たちや、オレたちも
その傭兵に続いて降りる。
「こ、こえぇ・・・。」
ほかの乗客である商人らしき男たちは、
馬車の中で縮こまっている。
「おっさんたちは、ランク外の新人だろ?
あんまり無理すんなよ!」
『マティーズ』の茶髪の男が話しかけてきた。
「あぁ、お前たちに任せるからな!」
「おうよ!」
さっきまでは、なぜか気まずくて話しかけてこなかった
『マティーズ』だったが、戦闘前に
同じ傭兵同士で、意気投合できた気がした。
両手包帯の傭兵と、『マティーズ』の3人、
そして、オレと木下。
この戦力で、足りるのか分からないが、
6人は町の入り口へ向かって走り出した。
オレは彼らより先に行かないように走る。
町の入り口は、もはや戦争が起こったかのように
家が破壊され、火の手が上がっている。
ボォン! ボォン!
また爆発が起こった!
煙がまた一段と濃くなり、
『敵』の姿が、よく見えない!
「グオォォォーーー!」
「!!」
『敵』の雄たけびが聞こえてきた!
近づくにつれ、
煙の中にいる『敵』の影が見えてきて、
ブォン!
『敵』が、剛腕で煙を振り払い、
その姿を現した!
「グオォォォーーー!!」
「『ギガントベア』!
かなり大物だぞ!」
『マティーズ』の黒髪の男が叫んだ。
巨大なクマ・・・あれが『ギガントベア』か!
余裕で、5m以上ある!
火の魔法をくらっているらしいが、
青黒い体毛は、全然焼けておらず、
ただ煙だけが上がっている。
「絶対、町に入れさせるな!
魔法を撃ちこめーーー!」
騎士団らしき男たち数人が、
魔法を唱え始めていた。
いや、町に入れさせたくないなら、
魔法は逆効果だ!
魔獣は魔力に反応して、襲ってくる!
魔法を撃つなら、
町の外へ出てからじゃないと!
「木下、『火柱』を撃て!
やつを町の外へおびきだす!」
「はぁ、はぁ・・・
もう、息切れ、して、それど、ころでは・・・はぁはぁ。」
しまった、木下にとっては
100mは距離がありすぎたか!
息切れしていて魔法の詠唱どころではないようだ。
前方を走っている4人に向かって、
慌てて、オレの作戦を伝えてみる!
「魔獣は、魔力に反応するから、
こっちから魔法を撃って、
あの魔獣を町の外へおびきだせないか!?」
「はぁ、それは名案だな! 俺に任せろ!」
一番前を走っていた
両腕包帯の傭兵が、応えてくれた!
「わが魔力をもって、閃光の矢と成し、遠くの敵を射抜け!
ライトニング・アローーー!!」
『光』の属性魔法か!
なかなか扱いが難しい魔法を、
しかも、素早く発動させるとは!
男の両腕の包帯が光りだし、
弓矢を射る姿勢をとり、魔法の『光の矢』を放った!!
ピュン!
「グォォォ!!」
ただ、走りながら魔法詠唱したためか、
魔獣の左腕をかすった程度だった。
命中したとは言い難い。
しかし、
「ゴフッ! ガルァッ!」
鼻息を鳴らしながら、
魔獣の意識が、こちらに向いた!
「おぉ、傭兵たちか! 助かる!」
騎士団たちも、こちらに気づいたようだ。
オレたちは、すでに魔獣から
10mほどの距離まで詰め寄っている!
「グオォォォ!!」
オレの狙い通り、魔獣は
こちらに向きを変え、咆哮し、
四足を使って走ってきた!
なかなかの移動力じゃないか!
「わが魔力をもって、風の盾と成し、われらが前に顕現せよ!」
両手包帯の傭兵が、また魔法を発動しようとしている!
間に合うか!?
「来た!来た!来たー!」
「分かってる!!」
『マティーズ』の男2人が、剣を抜いて構える!
その後ろにいる女が
「わが魔力をもって、剣の硬度を最大限まで高めよ!
クリティカル・ソード!!」
男2人の剣に、なにか補助の魔法をかけたようだ!
2人の剣が魔力で輝きだした。
なかなか連携がとれている。
「シルフ・シールドォー!!」
その間に、両手包帯の傭兵の魔法が発動し、
目の前に大きな『緑色に光る壁』みたいなものが現れた!
ドォーーーン!!
「っ!」
魔獣の巨体が、その『光る壁』に衝突した!
「おぉ、魔獣の突進攻撃を防いだ!」
「ぐっぅ!」
バキン!
しかし、『光る壁』が一瞬にして砕け散り、
両手包帯の傭兵が、衝撃で後方へ吹っ飛んだ!
「おっと!」
ガシィ!
ちょうど後方にいたオレが包帯の男を抱き止めた。
「す、すまない!
な、なんて怪力だ、あいつ!!」
両手包帯の傭兵は、焦っているようだ。
けっこう強めの魔法だったらしい。
それを破壊されてしまうほどの魔獣の怪力!
「やつに弱点はあるのか?」
オレは、馬車の中で『マティーズ』に
聞きそびれたことを両手包帯の傭兵へ質問してみた。
「ない! あるとすれば、頭だ!
しかし、あの巨体の頭には剣が届かないだろう!」
「なるほど!」
まぁ、予想通りの返答だった。
ケモノの弱点なんて、だいたい人間と同じだ。
頭を割るか、首をはねるか、心臓を貫くか。
しかし、目の前の魔獣は
首がどこにあるのか分からないくらい太い。
そして青黒い体毛に覆われていて
心臓の位置が分かりづらい。
たぶん、胸の筋肉も硬くて、分厚いから、
槍ぐらいの長さがないと心臓は貫けないだろう。
そうなると、残るは・・・
「うぉりゃぁぁぁ!!」
「おらぁ!!」
『マティーズ』の男2人が、
同時に魔獣に向かっていった!
黒髪の男が、魔獣の足元を狙った!
ガンッ!
「いっ!!」
たしかに魔獣の足にヒットしたのに、
音が、生き物に当たった音じゃない!?
なにか重たい石を殴ったような音がした!
「かってぇーーー! 腕がいてぇ!」
攻撃をしかけた男のほうが
剣を持つ手を痛がっている。
「グオォォォ!」
「やべっ!」
ドシーン!
魔獣が上から振りおろした剛腕の一撃を
足元にいた黒髪の男が、間一髪で避けた!
地響きが、オレのところにまで伝わってくる!
魔獣は、剛腕を地面にめりこませている!
当然、頭の位置が下がっている!
「うっしゃぁぁぁ!!」
もう一人の茶髪の男が、すかさず高くジャンプして、
魔獣の頭を目掛けて、剣を振り下ろす!




