施しという名の餌付け
石畳の広場に、馬車が停まっている。
ここが、この町の東側の停留場らしい。
御者に聞いて、オレたちが目指す
次の町『プロペティア』行きの馬車を探す。
しかし、まだ来てないようだ。
「あと少しで来ると思うぞ。」
そう教えてくれた御者は、馬車を操作して
発車していった。行き先は、
オレたちが当初予定していた次の町『サール』だそうだ。
何事もなければ、あれに乗っていたのになぁ。
「・・・。」
オレは、さりげなく路地裏のほうを見る。
気配があったからだ。
やはり、なにもいない。
しかし、気のせいではないようだ。
『ヒトカリ』からここまで来る間、
何者かが跡をつけてきている感じがする。
『ヒトカリ』の見張り役か?と思ったが、違う気がする。
気配が小さい・・・これは、おそらく・・・
「あ、馬車が来ましたね。」
木下に言われて、見てみれば、
東の方角から馬車がやってきた。
馬車が停まり、御者に話しかける。
間違いなく、『プロペティア』行きの馬車だった。
ほかの乗客も集まってきた。
オレは、馬車へ乗る直前、
さきほどお店で握ってもらった『握り飯』をひとつ、
布に包んで、そっと馬車の下に放り込んでおいた。
無駄になるかもしれないが・・・。
「おじ様?」
先に馬車に乗っていた木下には、
オレが何をしているか、見えなかったようだ。
オレが荷物を持って、モタモタしていたから
木下が不思議に思ったのだろう。
問いには答えず、オレは馬車に乗り込んだ。
「よっこらしょ!」
荷物から衣類の袋を取り出し、席に敷き、
そこに座る。
「おじ様、その掛け声、
おじいさんっぽいから止めてくださいよ。」
つい口から出ただけなのだが、
木下にそんなことを言われる。
「何を言うか。
オレぐらいの年齢は、もうジジィだろうが。
歳相応の掛け声じゃないか。」
「そうかもしれませんけど・・・。」
そこ、否定してくれるんじゃないのか。
まぁいいか。
「・・・!」
小さな気配が、さっそく動いた。
馬車の下に、素早く潜り込んできた。
「・・・。」
そこから動く気配がない。
やはり、なにか悪さをする気がないようだ。
改めて、馬車内を見てみると、
奥の席に、傭兵の男が一人。
布で口元を覆っている装備で
顔がよく見えないが、年齢は若そうだ。
木下と同じぐらいか。
今まで見た護衛役の傭兵たちは、だいたい
剣を携えていたが、この傭兵は
武器らしきものが見当たらない。
もしかしたら、魔法に長けている者か。
両腕に包帯を巻いている。
怪我をしているのか?
それとも、なにかを隠しているのか?
魔法に長けている者なら・・・
もしかしたら、馬車の下の
小さな客人に気づいてしまうかもしれないな。
馬車が動き出した。
乗客には、ほかの傭兵たち3人も乗っている。
あとは、商人ぽい男たち2人。
・・・と、馬車の下の小さな客人。
馬車が動き出してから、
馬車がいた場所を振り返ると
そこには何も落ちていなかった。
『握り飯』、食べてくれたようだな。
「おじ様、思い出し笑いですか?」
「ん? いや。」
しまった、思わず笑っていたのか、オレは。
「ちょっとな。」
「ニヤニヤしてると
気持ち悪く見えるので、控えてくださいね。」
「うぐっ。」
サラリとひどいことを言われた。
それにしても、これで、はっきりしたことがある。
この小さな客人は、
確実に、オレたちについてきている。
なんの目的があって、オレたちについてきているのか?
昨日、見て見ぬフリをしたからか?
行く当てがないから?
もしかして、なつかれたか?
『握り飯』という餌付けもしてしまったしな。
オレは、また余計なことに
首を突っ込んでしまったのかもしれない。
そんなつもりはなかったのが・・・
木下に、気づかれなければいいのだが。




