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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
124/501

おっさんは周りを気にしない





陽がてっぺんにいる。お昼だ。

・・・だというのに、この町の

どこへ行っても、食べ物の匂いがしてこない。

それどころか、ずっと

あの『お香』のニオイがしていて

いい加減、鼻がバカになりそうだ。


「この店は、食べ物を出せるか?」


「あー、すまないね。

今、『断食中』で、食材を仕入れてないんだよ。」


「そ、そうか。」


これで、何軒目だろうか。

さっきから飲食店ぽいお店へ入っては、

同じ質問をして、同じ返答で断られている。


こんなことなら、『ヒトカリ』で

ほかの傭兵に、パーティー名なんか聞かず

この時期でも食べられるお店を

聞いたほうがよかったなぁ。

この町に住んでいるなら、きっと知っていただろう。


「今日は、お昼を抜いて、

もう次の町へ向かいますか?」


木下がそんなことを言う。

こいつは昼飯ぐらい抜いても

平気かもしれないが、

オレは食べないとチカラが抜ける気がする。


「宗教に入ったわけじゃないのに、

強制的に『断食』をさせられるとはな。

こんなのが、毎年あったら、

他国の傭兵が住み着かないのも納得だな。」


「そうですかね?

この国の生活に慣れてしまえば、

案外、この行事も慣れてしまう

気がしますけどね。」


空腹を感じていないような表情の木下。

たぶん、こいつなら慣れるのかもしれない。

慣れたら、そのまま宗教に入りそうだな。


「・・・!」


まただ・・・。

また近くに小さな気配を感じたが、

そっちを見た時には、もう何もいない。

いや、初めから何もいないのか。

どうやら『お香』のせいなのか、

鼻がきかなくなってきて、

いろんな感覚が麻痺しかかっている気がする。


「どうかしましたか?」


木下に不思議そうな目で見られたが


「いや、何も。早く店を探そう。

目が回りそうだ。」


そう答えた。




オレたちは、

7軒目にして、ようやく食事にありつけた。

6軒目のお店で、失礼を承知で

食べさせてくれる店を紹介してもらったのだった。

意外と、嫌な顔をされずに

すんなり教えてもらえた。

こんなことなら、もっと早く

そうすればよかった。


その7軒目のお店『フースーマー』は、

今の時期、スープ料理しか出せないらしいが、

お米が大量に入っているスープは

かなり嬉しかった。

昨夜の宿屋でも出された『ゾウスイ』という料理だ。

しかし、小さな茶碗ではなく、大きな皿で出してくれた。

たくさん食べられるうえに、胃に優しい味がする。

しかも、おかわりも受け付けているとのこと。

もちろん、おかわりした。


店内には、ほかの傭兵たちの姿もあった。

ちょうど『スヴィシェの洞窟』についての情報が

欲しかったところだったので、思い切って話しかけてみたが、

この国の者ではなく、

違う国を目指して旅をしている者たちだった。

オレたちと似たようなものだな。

つまり、『スヴィシェの洞窟』についての

情報は得られなかった。




「ふーーーっ、久々に腹いっぱい食べたなぁ。

ここで『スヴィシェ』について聞くよりも、

次の町のほうが目的地に近いから、たぶん

ここより情報が手に入るだろう。

次を目指すか。」


オレは店を出て、木下にそう言ったが、

木下は顔を赤くして、


「それよりも、さっきのはなんなんですか!?

恥ずかしかったです!」


「あ? なんのことだ?」


「メニューにない料理を強引に頼むなんて!」


「あー・・・。」


オレは、店を出る前に、

店主に頼んで、持ち帰り用の『握り飯』を作ってもらった。

通常の価格よりも高く買うと言って、強引に頼み込んだのだった。


「いや、米が入ったスープを作れるなら、

たぶん『握り飯』も作れると思ってな。

この先の町で、また食事が出る店を

探し当てられるとも限らんし、

せめて今夜の夜食分を買っておいただけだ。」


「メニューにない料理を頼むことが

すでに恥ずかしいんですよ!?

ほかの傭兵たちにも白い目で見られてたんですから!

もうやめてくださいね!

おじ様、マイナス100点!」


またオレへの評価が下がってしまった。

そんなに恥ずかしいことだったのか?

木下は、かなりプリプリ怒っている。


「そうは言っても、き、ユンム。

食事問題は深刻だぞ?

このままでは、オレたちは戦いの時に

チカラを発揮できないかもしれないぞ?」


本当に、空腹すぎるとチカラが入らなくなってしまうのは

オレだけじゃなく木下も同じだと思う。


「そ、それは困りますけど~・・・。」


「もし、今夜の晩飯が食べられなかったら、

魔獣を狩って食べるしかなくなるんだぞ?」


「うっ・・・それは絶対イヤです・・・。」


木下が、青ざめた顔でシュンと下を向く。

血生臭い魔獣の肉を思い出したのかもしれない。

オレは、この際、魔獣を狩って

食べてもいい気がしている。

この国の『制約』に触れず、

空腹を満たすには、それもやむを得ない。


「ということで、メニューにないものを

頼んでしまったのは許してくれ。

『備えあれば憂いなし』、だ。」


「・・・分かりました。」


木下はしぶしぶ分かってくれたようだった。




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