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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
122/501

お芝居と嘘の違い




『ヒトカリ』の『サセルドッテ』支店の

支店長ポール・タナボウは、オレたちへ

改めて、依頼書を作成した。




『スヴィシェの洞窟の魔獣討伐』


ランク問わず。討伐期間は、一週間以内。

町『プロペティア』から近い

プロペティー山の奥にある

『スヴィシェの洞窟』に潜んでいる

魔獣『ギガントベア』と魔獣『ラスール』、

すべての魔獣の討伐を依頼する。

報酬金は、『レスカテ』通貨で金5000枚。

『特別条件』

なお、達成した暁には『Aランク』を授与する。

達成報告は、必ず『サセルドッテ』支店へすること。

失敗して生還した場合は、除名処分とする。




そして、それを事務室の事務員たちに

大きな声で伝えていた。

証人になってもらうためだろう。


オレたちは、ポールから依頼書を受け取り、

事務室をあとにした。


ざわわっ!!


「えっ!」


「あっ!」


『ヒトカリ』の掲示板がある広場に

傭兵たちが数人集まって、こちらを見ていた。

依頼書を求めて集まっている感じではない。


「おい、出てきたぞ!」


「お前たち、聞いたぞ! さっきの!

マジで、『スヴィシェ』へ行く気かよ!」


どうやら、ポールのバカでかい声が

事務室の外にも聞こえてしまったらしい。


「やめとけって言ったのに!

お前たち、依頼書を返却しなかったのかよ!?」


『どっこいどっこい隊』の男が

また心配して言ってくれている。


「おいおい、心配するだけ無駄だよ。

さっきの聞こえただろ?

こいつらの実力は、俺たちより上なんだ。」


「え・・・。」


『どっこいどっこい隊』の相方が

そう告げる。


「お前たち、本当にすげぇやつらなんだろ!?」


「あの洞窟は、マジでやべぇけど、

お前たちなら、なんとかしてくれるんだよな!?」


「俺たちの仲間が、たくさんやられたんだ。

お前たちの実力で終わらせてくれ!」


ほかの傭兵たちが、そう言ってくる。

どうやら、『レッサー王国』での討伐の件も

聞こえていたらしい。

何やら期待されている感じがする。


「あ、いや、その・・・。」


もう言い訳ができない。

言い訳すれば、またポールとの会話を

再現することになる。

『レッサー王国』のバカ王子の失態を

さらけだしてしまうことになる。


・・・思い出したら、腹が立ってくる!

あのバカ王子、もう一度『レッサー王国』へ行って

説教してやりたいほどだ!


「うっ! やる気じゅうぶんだな。」


オレが怖い表情になったので、

その場にいた傭兵たちが勘違いしてしまった。

傭兵たちが下がってくれたので、

オレたちは、

そのまま『ヒトカリ』の外へ出ることにした。


「がんばってくれよー!」


「死ぬなよー!」


最後に、『どっこいどっこい隊』の

野太い声援が背中を押してくれた。




外に出たオレたちは、町の東側へ向かいだした。

そこに馬車の停留場がある。

本来なら、そこから東の町『サール』へ向かう予定だったが、

予定を変更して北東の町『プロペティア』を目指す。


「はぁ、それにしても・・・あのバカ王子・・・。」


オレがため息まじりに

愚痴を言おうと思ったら、


「おじ様、それ以上、言わないで・・・。

ムカムカするので・・・。」


木下が、眉間にシワを寄せている。


「そうだな・・・。

今さら、ここで何を言っても始まらない。

今後について話し合おう。」


「はい。」


「しかし、疑問なのだが・・・。」


「なんですか?」


「オレたちが、このまま東へ逃げたら、

どうなるんだろうな?

見張り役もつけないで・・・。

約束の一週間もあれば、この国を

抜けていってしまえると思うのだが・・・。」


実際に、逃げ出そうとは思っていないが、

ほかのズル賢い傭兵ならば、

いくらでも逃げれるんじゃないかと思う。


「あぁ、それはできませんよ。」


「なぜだ?」


「『ヒトカリ』の契約書の第99条があるからです。」


うっ・・・。

オレが契約書を読んでいないことを

知っているくせに・・・。


「わざと、そういう言い方をしているな?

オレの降参だ。説明してくれ。」


「はい、仕方ないですね・・・。

契約書の第99条には、

『乙が登録した個人情報は、全国の支店で保管され、

契約違反した者、罪を犯した者等は、ただちに

討伐の対象に処す。』と書かれてあります。

つまり、依頼を受けておいて逃げた場合は、

契約違反者として、全世界の『ヒトカリ』で

討伐依頼が発行されてしまいます。」


まるで契約書の全てを暗記しているかのように、

すらすらと何も見ずに説明してくれる木下。


「ははぁ・・・つまり、このまま逃亡すれば、

世界中の傭兵たちに命を狙われるってことか。」


「そういうことです。

だからこそ、会員証だけで全国通行が可能なのです。

なにか悪さをすれば、その国の法律で裁かれる前に

『ヒトカリ』のほうで命を裁かれてしまうわけです。」


登録した傭兵の情報は、『ヒトカリ』が持っている

ナントカっていう『カラクリ』によって

全国の支店へ即座に流れてしまう。

それがあるからこそ、契約が効果を発揮できるのだな。

それで、『ヒトカリ』の会員証だけで、

なんでも済まされてしまうわけか。

『ヒトカリ』の傭兵だから信頼されているだけじゃなく、

なにか不祥事をおこせば『ヒトカリ』が

責任をもって傭兵を始末するから、どの国も安心ってことか・・・。


「登録は驚くほど簡単だったのに、何気に

ひどい条件の契約をさせられていたんだな。」


「だからこそ、サインする前に、

契約書、規約書などの内容は、

隅々まで読まなきゃダメなんですよ?」


木下に注意された。


さっきのポールってやつが、

オレたちの挑発で、逆にキレてしまっていたら・・・

全世界の傭兵を敵に回していたかもしれないわけだ。

なかなか危ない駆け引きだったな。




ザッザッザッザッザッ・・・


白い鎧を着た騎士たちが数名、たまに通りを走っている。

あの様子からすると、

まだあの子供は捕まっていないようだ。


「それにしても、おじ様も、

なかなか『お芝居』が上手になってきましたね。」


ちょっと嬉しそうに木下が言う。


「そ、そうか?

褒められた・・・と喜ぶべきだろうが、

オレとしては、『芝居』というのは

ウソをついていることと同じように感じて

素直に喜べないのだが・・・。」


「おじ様は、大真面目ですねぇ。

『お芝居』は、ウソとはちょっと違いますよ。

おじ様は、冗談を言って

他人を笑わすことがあるでしょう?

それと同じなのです。」


ちょっとズルい大人が、

言葉を知らない子供へ言葉遊びを教えるような、

そんな説明をする木下。

しかし、的を射ている。

現に、窮地を乗り切れたのだから。


「おじ様の助け舟、助かりました。」


「ん? なにか言ったか?」


木下が、嬉しそうにボソボソと喋っていたが

声が小さくて聞き取れなかった。




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