ポールという男
「わたくし、この『ヒトカリ』・『サセルドッテ』支店の
支店長を務めております、ポール・タナボウと申します。
おウワサは、聞いておりますよ。
『森のくまちゃん』殿。」
そう言って、目の前の男は
名前が書いてあるカードを手渡してくれた。
窓口の左側のドアをくぐって
『ヒトカリ』の事務室へ入ってみたら、
広い室内に、たくさんのテーブルが並べられていて、
そこには、たくさんの事務員たちが座って
おのおの忙しく作業していた。
オレたちは、その広い室内の
隅っこへ案内されて、
フカフカするソファに座るように指示された。
そこへ現れたのが、目の前の男であった。
年齢は、オレよりちょっと若い気がする。
オレより身長が高いが、
ひょろっとした体格で、
髪型がぴっちり七三分けで固められていて、
貴族が着ているような高そうな服装。
ヒゲの先が、やたらと曲がっている。
ポール・タナボウと名乗った、その男は
ヒゲを指でくるくるさせながら
オレたちの対面にあったソファに座った。
「あー、その・・・
『ウワサ』って、なんなんだ?
オレたちは、まだ傭兵になって日が浅いから
『ウワサ』が立つようなことは、まだ・・・。」
オレがそう言うと、
「なにをおっしゃいますか! ご謙遜を~!」
ポール・タナボウが、目を見開いて
ニタリと笑った・・・。
あ、気持ち悪い・・・。
オレは、こいつ、ちょっと苦手だな。
「わたくしたちが、あなたたちのことを
知るはずがないとでも思われましたか~?
ここだけの話ですが、わが社は
『ネンパシー』という
『魔道具』を用いた『カラクリ』を所有していて
各支店で、この『カラクリ』を用いて
世界中の情報を共有しているのですよ。
だから、あなたたちの情報は、すでに
『レッサー王国』の『王都』支店から
全支店へ流れているのです!」
木下の言っていたとおりだった。
高額である『カラクリ』を
各支店で所有していて、それを使って
全世界、全支店で、情報を共有しているわけか。
そんなモノが、本当にあるんだな。
それが全世界、誰でも使えるようになれば、
もう手紙や早馬という手段はいらなくなるな。
「す、すごい『カラクリ』だな。
そんな『カラクリ』があるとは知らなかった。」
オレは素直にそう感じた。
「いや、すごいのは、あなたたちのほうですよ!
『王都』支店からの情報によれば、
『森のくまちゃん』の『殺戮グマ』こと、
佐藤健一殿は、たった一人で100人を皆殺しにした
ツワモノだと聞き及んでおりますよ~!」
「はぁー!?」
いや、100人も殺してないぞ!?
せいぜい30人だ。
それに、なんだ、その
『森のくまちゃん』の『殺戮グマ』って!?
「その情報は間違っています。
私たちは、30人しか討伐していません。」
木下が、すかさず訂正したが・・・
「あなたの情報も届いておりますよ~?
『森のくまちゃん』の『炎の魔女』こと、木下ユンム殿は、
同じく、たった一人で100人を焼き滅ぼしたと
聞き及んでおります~!」
「えぇー!?」
冷静だった木下も、驚きの声をあげる。
とんでもない誤情報だ。
二人で200人も殺したことになってるじゃないか!
「ちょっと待ってくれ! オレたちが討伐した
『窃盗団』は、30人の騎士たちだったんだぞ?
いったい、どこから100人や200人っていう
大群を討伐したことになっているんだ!?」
「そうですよ!
30人のほとんどが、このおじ様が倒したのであって
私が倒したのは、ほんの数人程度なんです!」
慌てて二人で訂正するが、
ポールは、ヒゲを指でくるくるしながら・・・
「おやおや? そ~なのですか?
しかし、こちらの情報のほうが確かなはずですよ?
なんと言っても、この情報は、
あなたたちへ直接、討伐依頼した
『レッサー王国』からの報告書の情報なのですから。」
「なにっ!?」
・・・絶対、レーグルだ!
あのチャラチャラのバカ王子!!!
「あー、そのー・・・心当たりがあるが
その報告書が間違っているとしか言えない。」
腹立たしいことだが、ここで王子の名前を出したり、
誇張された情報について話してしまうと
『レッサー王国』の評判が悪くなるかもしれない。
「私も心当たりありますが、
今は、報告書が違っているとしか・・・。」
木下も暗い表情で、そう言い出した。
オレと同じ人物を思い浮かべているに違いない。
「おやおや~? そうなのですか~?
それが事実ならば~・・・
『レッサー王国』の中に虚偽の報告をした者が
いるということになりますねぇ・・・。」
「え・・・。」
目の前の男、ポールの目が鋭くなった。




