ウワサの!?
オレが誤って取ってしまった依頼書について
『どっこいどっこい隊』の二人に
詳細を聞いているうちに、
『依頼掲示板』には『ランク指定』の依頼書しか
残されておらず、窓口には
傭兵たちの行列ができていた。
「仕方ない。とりあえず並ぼう。」
「そうですね。報酬をいただいて、
その依頼書を返却して、
次の町を目指しましょう。」
木下とそう言いながら、
仕方なく、窓口の行列に並ぶ。
この国では、『ヒトカリ』は
人手不足と聞いていたが、生活していくために
仕方なく傭兵をやっているやつらもいるのだろう。
行列の、ほとんどはパーティーを組んでいるため、
団体が依頼書の受付を済ませて去っていくと、
あっという間に行列がなくなっていった。
「さて、依頼主に、行方不明になった
犬の特徴を聞きに行くぞ。」
「はいはーい。」
「よし、今日は停留場の清掃だ。」
「うぃーっす。」
やる気なさそうなやつらが
次々に、ぞろぞろと出ていく。
そして、最後にオレたちの番となった。
「あら、見かけない顔ですね。
新人・・・じゃないですよね?」
窓口の若い女性が、オレの顔を見て
そう聞いてきた。
「いや、まぁ、こんな歳だが、
最近、登録したので新人みたいなものだ。」
オレは、そう答えながら
『ヒトカリ』の会員証を見せる。
オレの後ろにいた木下も同じく
会員証を見せた。
「あぁ、『レッサー王国』で登録されたんですね。
では『レッサー王国』出身の方ですか?」
「え、えーっと、いや、
オレたちは『ハージェス公国』出身で、
国へ帰る途中なんだ。」
やはり、まだ嘘をつくことに抵抗がある。
一瞬、返答が遅れてしまった。
「あぁ、旅費を稼ぎつつって感じですね。
そういう傭兵さん、けっこう多いですね。
で? 今日は、依頼を引き受けに?」
しかし、窓口の女性は気にしていない様子だった。
「そのつもりだったのだが、
うっかり間違って依頼書を取ってしまって。
コレなんだが・・・。」
一応、申し訳なさそうに
さきほどの依頼書を差し出す。
「あと、ついでに、
『レッサー王国』で達成した依頼の報酬を、
ここで受け取らせていただきたいのです。
あ、コレです。」
そう言いながら、木下が
後ろから手を伸ばして、達成した依頼書を
窓口の女性へ差し出した。
「えーっと、まずは・・・
あー、コレですか、はいはい。
そうですよね、
これはうっかり取っちゃいますよねぇ。」
オレが差し出した依頼書から確認し始めた
窓口の女性は、そう言った。
おそらく、うっかり取ってしまうやつが多いのだろう。
もう慣れたって感じだ。
「そうなんだ。
『ランク問わず』って書いてあったから
ついうっかり取ってしまって・・・。」
「ですよねぇ。この依頼、昔は、
ちゃんと『ランク指定』だったんですけどね。
私としては『ランク指定』に戻してくれたほうが
こういった間違いが減ると思うんですけど、ね。
それと・・・こっちは・・・えーっと・・・。」
そう言いながら、女性は、
木下から受け取った依頼書を確認し始めた。
「はっ!!!?」
ガタガタッ!
「え!?」
思わず、身構えそうになった。
窓口の女性が、素っ頓狂な声をあげて
突然、立ち上がったからだ。
「あ、あなたたちが『ウワサ』の!
『森のくまちゃん』なの!?」
「は!? えぇ!?」
今度は、こちらが驚く番だ。
どうして、オレたちの恥ずかしいパーティー名を・・・
いや、それは依頼書に書き込まれてあるのか。
それよりも『ウワサ』って、なんだ!?
「ちょっ、ちょっとお待ちを!!」
そう言って、窓口の女性は
慌てて窓口の奥にあるドアへ駆け込んでいった。
ざわざわざわざわ・・・
窓口の女性の慌てふためく姿を
見ていた他の傭兵たちが、ざわつき始めた。
「なんだ、アイツ? なにかやっちまったのか?」
「『ウワサ』がどうとか聞こえたぞ?」
「なんだなんだ? お尋ね者か?」
「見かけない顔だから、このへんのヤツじゃないな?」
背後から、他の傭兵たちの声が聞こえてくる。
窓口の女性が言った『ウワサ』も気になるが、
このままでは、あらぬ『ウワサ』が立ってしまう気がする。
「どういうことなんだろうな?」
オレは木下に聞いてみた。
「もしかしたら・・・『念波装置』で
すでに、私たちの情報が知れ渡っているのかもしれませんね。」
「え? ネンパソ・・・?
それって、なんだ?」
「私も詳しくは分からないのですが、
『ヒトカリ』では、すべての支店間で情報を共有する
『カラクリ』を持っているそうです。
それが、たしか『ネンパ』・・・ナントカという名前だったはずです。」
木下の言っていることが
すこし難しくて、理解が追い付かない。
「情報を共有する『カラクリ』?
そんなものがあるのか?」
少なくとも『ソール王国』では
そんな『カラクリ』の名前を聞いたことがない。
「はい、あるらしいです。
私も実物は見たことがないですけど。
そうとう高価な『カラクリ』らしく
王族や貴族でも、ごく限られた人たちしか
買えないアイテムのようです。」
「そんな高価なものを
『ヒトカリ』は持っているというのか?」
「世界中に支店を持っているぐらい
超巨大な会社ですからね。
それに、『カラクリ』の発祥地である
『ザハブアイゼン王国』とも良好な関係らしいので
手に入りやすいのかもしれません。」
なるほど、超巨大な会社か。
その資産は、おそらく
ちょっとした王国よりも多いのだろう。
大きな『財力』というチカラは、
『権力』というチカラと同じだ。
どおりで、傭兵たちが
会員証を見せただけで全国通行が可能なわけだ。
それを融通させるだけのチカラを
『ヒトカリ』が持っているということだな。
「お、お待たせしました!」
窓口の奥のドアから、さっきの女性が
息を弾ませて戻ってきた。
「報酬金のご用意ができましたので、
この窓口の左側にあるドアから入って、
こちらの事務室へ入って来てください。」
「えっ? ここじゃダメなのか?」
「はい。ちょっと金額が大きすぎるので・・・。」
そういえば、依頼書に記載されているであろう
報酬額をよく読んでいなかったが、
そんな大金なのか!?
ざわざわざわざわ・・・
「おい、聞いたか? 大金だってよ!」
「あのおっさんが!?」
「いや、あの後ろの女のほうがスゴそうだぞ!」
「初めて見たぞ! あのドア入っていくやつ!」
さっそく、後ろにいるほかの傭兵たちがざわついている。
・・・オレたちは『特命』の旅の途中だから
目立った行動はよくないのだが、目立ってしまっている。
オレたちは、注目を浴びながら
女性の言う通りに
窓口の左側にあるドアをくぐった。




