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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
116/502

おっさんは読解力がない




コンコンコン・・・。


「っ!!」


「おじ様?」


ドアがノックされ、木下の声で気づいた。

オレは、どうやら

うたた寝していたようだ。

時間にして、どれぐらいだろうか?

たぶん、そんなに時間は

経っていないはずだ。

すこし気が緩みすぎているとは思うが、

この旅に慣れ始めたと感じる。


「おじ様、食堂に行ってみませんか?

食事を出してくれるか、聞いてませんけど。」


「そう言えば、そうだったな。

もうそんな時間か。」


ドアを開けながら、答えた。

そんなに寝ていないつもりだったが、

外は、すっかり陽が落ちていた。


1階の受付に話を聞いてみたが、

やはり、デーアに聞いた通り、

今は『断食』の期間ということで、

普段のような食事は出せないとのこと。

それでも一応、食事を出してくれることになった。

出てきたのは、お米をスープで煮たものだった。

『ゾウスイ』という料理名らしい。


「・・・こ、これだけか・・・。」


「何も出ないよりマシだと思うしかないですね。」


あらかじめ、おかわりはないと言われた。

木下は、もともと少食らしい。

ゆっくり味わうように食べている。

オレはというと、茶碗に入った『ゾウスイ』を

一気に、口に放り込んで飲み込んだ。

おいしいけど、これだけか。

・・・これは、痩せるな。

腹が少しでも凹むのはいいかもしれないが、

病的に痩せるのは良くない。


「明日は、どうしますか?」


「ん? あぁ、明日はこの町の『ヒトカリ』へ

朝から行ってみようと思う。」


「そういえば、『レッサー王国』の依頼達成の

報酬を受け取りに行かなきゃですね。」


木下がそう言った。


「そうだったな。

しかし、どこでも報酬が

受け取れるなんて便利なものだな。」


「そうですね。でも、これは

当たり前だと思わないほうがいいですよ。」


「そうなのか?」


「えぇ、これは『王国』からの依頼だったから

特別に報酬の受け取り方法が、

どこでも自由になっているだけで、

本来は、依頼を引き受けた『ヒトカリ』の支店以外で

支払いに応じてくれることはないですから。」


「なるほど、王族の特権ってやつに

オレたちがあやかっているわけか。

しかし、オレたちのランクでは

そう安々と、王族からの依頼は受けられないからな。

たしかに、今回だけの特別なことだと

思っていたほうがよさそうだ。

さすが、ユンム。詳しいな。」


素直に木下を認め、褒めたのだが


「すべて『ヒトカリ』の契約書に書いてあることです。

おじ様、本当に、本を読むの苦手なんですね。」


と、木下にたしなめられてしまう。


「うっ・・・すまんな。

昔から文章を読むのが苦手でな。

すぐに眠くなってしまうのだ。」


苦手意識というものは、

なかなか克服できないものだ。

必要に迫られても、その時しか乗り越えられない。


「その様子だと、関所でもらった

『十戒の制約』も読んでないですね?」


「ううっ・・・。すまんな。」


図星だから謝ることしかできない。


「十個の『禁止事項』が並んでいるだけですから、

一度、ちゃんと読んでおいてくださいね。

自国では当たり前のことが、

この国では犯罪として扱われることがあるのですから。

うっかりやっちゃって、捕まるってことがないように、

お願いしますよ?」


「わ、分かった。

部屋に戻ったら読んでみることにする。」


・・・まぁ、オレにとっては、

寝る前の、ちょうどいい睡眠薬になるだろう。


「ちゃんと熟読したかどうか、

明日の朝、テストしますからね。

読み切るまで眠っちゃダメですよ?」


「そ、そこまでする必要は・・・!」


「あります。

特に、第七戒の『角がある動物の肉を食べるべからず』は

おじ様がうっかり犯しそうな事項です。

ちゃんと言葉の意味を考えて、読んでくださいね。」


まるで学校の先生のような口ぶりだ。


「言葉の意味も何も、『角がある動物の肉』を

食べなきゃいいだけだろ?」


「言葉の意味に気づいていますか?

『角がない動物』ならOKって、安易に考えてませんか?」


「えっ? 違うのか?」


「よく考えてみてください。

食用で、『角がない動物の肉』なんて

ありえないんですよ。」


「あー・・・そうか。

食べられる動物の肉は、たいてい角が生えているな。」


市場に出回っている肉は、ウシ、ヤギ、ヒツジ・・・

角がある動物ばかりだ。


「じゃぁ、この国では、肉を食べないということか?」


「いいえ、おそらく鳥肉がメインなのだと思います。」


「おぉ、そうか、鳥か。

鳥肉なら・・・焼き鳥がいいなぁ。」


俺は母国の屋台で食べた鳥肉料理を思い出していた。


「しかし、『十戒の制約』をよく見ると

第3戒に『翼のある動物をあやめるべからず』とあります。」


「えぇ!? じゃぁ、鳥もダメじゃないか?」


この国では、やっぱり肉を食べられないのか?

一瞬、鳥肉を期待してしまったのに。


「だから、ちゃんと文章を読んで

言葉の意味を考えてくださいって言ってるじゃないですか。

『あやめるべからず』だから、殺さなきゃいいんですよ。」


「???」


言葉の意味を理解しようにも、

木下の言葉を聞いてたら、余計に分からなくなっていく。


「まさか、生きた鳥をそのまま!?」


「気持ち悪いこと言わないでください。

そんなわけないでしょう。だいたい、そんなことしたら

結局、第3戒を犯してしまうのと同じです。」


「じゃぁ、やっぱり食べられないじゃないか。」


「そうじゃなくて・・・。

多分ですけど、鳥が死ぬのを待つんだと思います。」


「は!? え!? あー・・・なるほど。」


命を奪わずに自然に死ぬのを待つ・・・か。

途方もなく感じるし、生産力が需要に追い付かない

感じがするが、おそらく、

なんらかの魔法が使われるのだろう。


「それにしても、こうして木下の解説を聞いていると

『十戒』というのは、『とんち』みたいな感じがするな。

似た言葉をうまく使って、意味を変えさせるみたいな。」


「そうですよ。どの国の法律も、戒律も、

文章をよく読んで、言葉の意味をしっかり考えると

なにかしら『穴』が見つかるものです。

そう考えると、文章も面白いものですよ?」


木下が楽しそうに言うが、


「あー、そうなんだろうと思うが、

やはりオレは、言葉の意味とか

アレコレ考えるのが苦手だな。」


ウソをつくのと同じだ。

アレコレと辻褄を合わせるように言葉を考えるのは

考えている途中で、うんざりする。





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