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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第三章 【聖騎士とバンパイア】
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小さな乗客者



オレたちは、その飲食店の前で別れた。

ちょうど、デーアを村人が呼びに来たからだ。


「こちらにいらっしゃいましたか、聖騎士様!

早く来てください!

あっちのほうに『バンパイア』が!」


「分かった、すぐ行く!」


デーアは、村人にそう告げてから、

オレたちに向かって


「それでは、これで失礼するよ。

引き留めて悪かったね。

お二人の旅に、神の配慮があらんことを!」


手短に、挨拶をして、

村人とともに大通りを、関所の方向へ走っていった。

『バンパイア』というのは、

たぶん、さっきの子供だろう。


「おじ様・・・みんなのためには

『バンパイア』は捕まったほうがいいんでしょうね。

でも、あの子は・・・まだ幼いのに・・・。」


気の優しい木下は、

やはり子供のほうに同情しているようだ。


「さぁ、どうだろうな。」


オレは、木下の問いに答えられない。

子供には同情するが、あの子が原因で

多くの人たちが『魔物化』したら・・・。

そう思うと、あの子を捕まえることが

この国の平和だと感じる。


しかし・・・そもそも、『バンパイア』なら

オレたちの荷物を狙うだろうか?


おっと・・・

余計なことに首を突っ込んではいけない。

これ以上、考えないようにしなければ。


オレたちは、デーアが向かった方向と

逆のほうへ歩き出した。


「・・・。」


木下は、どこか浮かない顔をして歩いていた。

まだ子供のことが気になっている様子だ。

人には、甘いだの、余計なことに首を突っ込むなだの

言っていたが、木下もじゅうぶん甘い。

オレたちは、似た者同士だな。


「それにしても、入国して、いきなり

トラブルに巻き込まれたかと思ったが、

なにも起きなかった・・・と思っていいのかな。」


オレは、少しおどけた口調で言ってみた。

足止めはくらったが、

結果的に、何事もなく解放されたわけだから

喜ぶべきか。


「そうですね。おじ様が

また、引き寄せたのかと思いました。」


木下が、いつもの憎まれ口をたたく。


「おいおい、引き寄せやすいのは

オレだけじゃないだろう。」


「いいえ、私は、おじ様のそばにいただけですからね。

いっしょにしないでください。」


そう言いながら、木下は

ふふっと笑った。




村の出入り口付近、

さっきまでいた飲食店の目の前に

馬車の停留場がある。

そこから、次の町『サセルドッテ』へ向かう。

幸い、停留場で少し待っただけで、

すぐに馬車が来てくれた。


馬車の中には、護衛役の傭兵が一人。

装備を見る限りでは、この国の騎士ではなく、

『ヒトカリ』の傭兵っぽい。

そこそこ若い男のようで、

体格も細く、すこし頼りない気がする。

気軽に話しかけて、

この国での傭兵の仕事具合を聞いてみたいところだが、

余計なことになったら困るので、

ぐっと我慢する。


乗客は、オレたちのほかに、

2人の商人らしき男女と

年老いた男が乗ってきた。

その年老いた男は、柄にもなく

たくさんの白い花を抱えている。

花屋・・・というわけではなさそうだ。

もしかして、『サセルドッテ』へ

お祈りをしに行くのだろうか?


「おや、今日は、お前が護衛かい?」


年老いた男が、奥に座っている傭兵に話しかけた。


「あぁ、じいさん、久しぶりだな。」


年老いた男は、そのまま、

傭兵の隣へ座った。


ガタガタガタガタッ、ゴトゴトゴトゴト・・・


ほどなくして馬車が動き出した。

村から離れれば、もう『お香』の匂いはしないと

思っていたが、よく見れば

御者の横に、小さな『お香』が置かれていて、

周辺が森林の風景になっても、

ずーっと村の中にいた時と変わらない匂いがする。


「・・・。」


かすかな気配を感じる。

この馬車が走り出す直前に、

この馬車の下に、なにか・・・。


「どうかしましたか? おじ様?

うつむいて、怖い顔して。」


「いや、ちょっと考え事だ。」


木下は気づいていないか。

今のところ、気配は身動きしていない。

変な騒動にならないようなら、

気にする必要もないか。


これだけ小さな気配は、

犬か猫みたいな小動物の気配に似ているが、

馬車が動き出したのに、まだ気配が残っている。

ということは、気配の主は

馬車の下に張り付いている状態ということだ。

オレには心当たりがある。


これは、『不正乗車』だ。


城門警備していた頃に、たまに

こういう手段で城内に侵入しようとするやつらがいた。

犯人のほとんどは、悪い商人で、

取り扱いが危険なアイテムを持ち込むために

こういう手段を使う。気配ですぐにバレるわけだが。


ふと、護衛役の傭兵のほうを

ちらりと見てみたが、あの傭兵も

馬車の下の気配に気づいていないようだった。


「じいさんが花を持って馬車に乗ってるってことは、

まだ、ばあさんは?」


「あぁ、まだ退院できなくてな。

まぁ、歳も歳だし・・・難しいんだろうな。」


「おいおい・・・大丈夫だって。

あのばあさんなら、きっと治るよ。」


「・・・あぁ、そうだといいな。」


傭兵と年老いた男の会話が聞こえてくる。

年老いた男の奥さんが

町の病院に入院しているらしい。

花束は、お見舞いのためか。


「あの魔獣たちは、

まだ、すべて討伐されてないのか?」


「あー、そうらしいな。

騎士団が数体を討伐したって話だったのに

先日、また同じ魔獣出没の被害が出てたからな。

『ヒトカリ』にも討伐依頼が、また出てたはずだ。」


「この国の騎士団たちは、がんばっておるようだが、

お前さんたち傭兵が、がんばってないからじゃないのか?」


「おいおい、無茶を言うなよ、じいさん。

この国の騎士団でも、討伐しきれないぐらいの

強い魔獣たちを、俺たちが狩れるわけないだろ。」


「なにを弱気なことを!

ワシが、もう少し若ければ、

女房の仇がとれるものを・・・!」


「いや、ばあさん、まだ生きてるだろ!

それに、ばあさんを怪我させた

魔獣は、もう騎士団が討伐したんだから、

それでいいだろ?

すべての魔獣たちを全滅させるなんて

無理なんだからさ。」


聞こえてくる会話では、

年老いた男の奥さんは、

魔獣に怪我を負わされたらしい。

怪我の程度は分からないが

歳をとってからの怪我は、なかなか治らないものだ。


しかし、強い魔獣たちか・・・。

どれだけ強いのか。少し興味がある。

それは、いつかドラゴンと戦うときに

役立つ経験になるかもしれないからだ。




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