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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第二章 【王国の秘密】
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獣人族のバンパイア





トンネルを抜けた時から

辺りに漂っていた『お香』の匂いが

さらに強く匂う。


カーン・・・カーン・・・


遠くから、『鐘』の音が聴こえてくる。

想像していた音より、とても静かだ。


目の前に広がっているのは

宗教国家『レスカテ』。

その国境の村『バラー』の風景。


トンネルを抜けてから気づいたが、

荷物の検査をしている男たちとは別に、

白い鎧に身を包んだ騎士たちが数人、

トンネルの出入り口付近に待機していた。

あれが、この国の騎士たちか。

けっこう警備は、しっかりしているのだな。


関所から続く大通りの両脇に、

木造のお店や民家が建ち並んでいるのは

どこの国も同じだが、

通りのあちこちに、小さな像が置いてあり、

その像の前には、辺りに漂う匂いの元である

『お香』が煙を立てている。

花や果物も供えられていて、

たまに、その像の前で

祈りを捧げている人たちに出会う。


「あまりジロジロ見ちゃ失礼ですよ、おじ様。」


「あぁ、そうだな。」


『ソール王国』では、そういう信仰というものがなく、

『お祈り』という行為も教科書でしか

習っていなかったため、とても珍しいものを

見ている気分になって、ついつい見入ってしまう。


「!?」


オレが横を見ながら歩いていた時、

左斜め前から、急速に近づいてくる気配を感じ、

それをサッと横にかわした。


「っ!!」


ドサッ!


オレが避けるとは思っていなかったのだろう。

オレにぶつかりそうになっていた気配は、

地面に転んでしまった。


見てみると、子供のような体型の者が

うつ伏せで地面に倒れている。

頭からつま先まで、スッポリと

黒い布の服に覆われているため、

子供かどうか、よく分からないが・・・


・・・『スリ』だろう。


直観的に、そう感じ、

倒れた者を助けようとはしなかった。

だが、木下は


「おじ様、なにやってるんですか!

キミ、大丈夫?」


倒れている者に、不用意に近づいて、

手を差し伸べている。


「おいおい・・・!」


旅の資金の大半は、木下に預けている。

ここで盗られるのは、よろしくない。


「気を付けろ、そいつは・・・!」


バッ!


「えっ!」


オレが注意する前に、

うつ伏せに倒れていた子供?らしき者が、

素早く立ち上がり、木下の腰にある

布袋を狙って、手を伸ばし・・・


「はっ!」


「!?」


ドサッ!


子供らしき者が、木下の布袋に

手を伸ばした瞬間、木下が、

その手を取り、関節をきめて

鮮やかに子供らしき者を地面に伏せさせた。


「ぐえっ!」


「ほぉ・・・。」


町のチンピラを撃退するぐらいの

護身術は、身に付けていると聞いていたが、

油断して近づいたわりに、

とっさの判断と身のこなしは、大したものだ。


「えっと・・・あー・・・

キミ、大丈夫?」


自分で地面に伏せさせておいて

そのセリフは、どうかと思うが・・・。


「いってててて・・・。」


子供らしき者が、ムクリと上体を起こすと、

頭から被っていた黒い布がめくれて


「えっ!?」


「おっ?」


長い黒髪の・・・少年の顔。

髪が長いから少女か?

見た目も幼く、声も幼くて、男女の区別がつきにくい。

とにかく、布の服の中身は、子供だった。

いや、それよりも何よりも

その子供の頭の上に、犬のような、猫のような、

毛で覆われた耳が付いている。

子供の動きに合わせて、微妙に動いているあたり、

本物の獣の耳だ。


「うわっ!

あいつ、『バンパイア』だ!!」


「えっ!?」


この子供とドタバタやっている間に、

通りを歩いていた村人たちが

足を止めて、この騒動を見ていたらしい。

その村人の一人が、獣の耳を持つ子供を見て

『バンパイア』だと言い出した。


「誰か! 聖騎士様に伝えろ!」


数人の村人たちが、騒ぎ始めた。


「なんだ? 『バンパイア』って?」


「っ!!」


ダッ!


座り込んでいた子供が急に立ち上がり、

猛スピードで、大通りから逸れて

路地裏へと姿を消した。


「なんだったんだ、あいつ。」


ざわざわざわざわ・・・


騒いでいる村人たちが、

さきほどより多くなってきている?

なにを騒いでいるんだ?

ただのスリの子供じゃないのか?


「何か盗られてないか?」


子供が消えた路地裏への細道を

まだ呆然として見つめている木下に、

一応、確認してみる。


「はい、大丈夫です。

それにしても、あの子・・・。」


「あぁ、珍しいな。『獣人族』の子供だな。」


獣人族じゅうじんぞく』・・・

学校の授業で習った程度の知識しかないが、

この世界には、人間以外にも

様々な種族が存在していて、

『獣人族』は、その内のひとつだ。

彼らのことを「ケモノビト」という

差別的な言葉で呼ぶ者もいるが

ちゃんと人間の言葉が喋れるから、

人間と同じくらいの知能を持つ種族・・・らしい。


差別する人間と対立し、

『獣人族』だけの国が、どこかにあると聞いた。

しかし、地図には載っていない。

・・・地図は、人間が作成したものだから、

載っていないのは当然か。

それゆえに、『獣人族』の国は

幻の国だというウワサもある。

しかし、すべての『獣人族』が

その幻の国ひとつに収まっているのかと言えば

そうではなくて。

他国で、普通に生活していると聞いたことがある。

残念ながら、わが『ソール王国』には

『獣人族』どころか、他国の人間すら

入国に厳しい国だから、

『ソール王国』では彼らを見かけたことはない。

オレは初めて見たな。


「それにしても、

スリの『獣人族』の子供相手に、

この村は、妙に騒ぎすぎだな?」


ざわざわざわざわ・・・


まだ村人たちは騒いでいる。

数人の村人たちが、『獣人族』の子供が

逃げていった細道へ追跡し始めていた。

スリの被害者たちだろうか?


「なんか『バンパイア』が

どうとか言ってましたね?」


「『バンパイア』って

人間が魔物化するっていう、

あの『バンパイア』かなぁ?」


『バンパイア』・・・

これも学校でしか聞いたことがない。

たしか、もともと人間なのに、

なにかの影響で魔物化するという話だ。

薬なのか、魔法の道具によるものなのか、

恐ろしい魔術なのか、憶測は様々だ。

これも教科書の絵でしか見たことがないが、

獣の耳を持っているという情報はなかったような?


それとも、あれが『バンパイア』なのか?

『獣人族』の『バンパイア』?


その時、


「そこの旅の者たち、

ちょっといいかな?」


背後からオレたちを呼び止める声がした。

振り返ると、そこには

騒いでいる村人たちの群れをかき分けて、

一人の騎士が立っていた。


「聖騎士様!」


村人たちに『聖騎士』と呼ばれた、

その騎士は、

ロングストレートの美しい白銀の髪で、蒼い瞳、

青白い鎧に身を包んだ・・・女の騎士だった。




第二章『王国の秘密』 完


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