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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第一章 【異例の特命】
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一人の脱落者




「くわぁぁ~・・・ぁー・・・。」


朝、オレは大きなアクビをしながら、停留場で大型馬車を待っていた。

今日は王宮へ行くことが分かっているので、

昨日よりは、マシなマントを装備している。

結局、浅い眠りしかできなかった。


馬車が来た。

『城門前行き』ではなく、『王宮行き』の馬車だ。

馬車の中は、すでに座る席はなく、鎧を着たヤツらでいっぱいだった。

王宮勤めの騎士が多く、顔だけ知っているヤツらが数人乗っている。

そんな中、鎧同士が擦れ合う音をガチャガチャと立てながら

馬車の中へ乗り込んでいく。

オレの顔を見て、ヒソヒソと話しているヤツらがいる。

もうウワサは城外にもれているわけか。


王宮へ着く前に、数人が降りていった。

人数が多くて分からなかったが、

南の城外警備の小林も乗り合わせていたようだ。


「おはようございます、佐藤隊長。」


「おはよう。」


眠れたか?と聞きたかったが、ヤツの顔を見れば、

眠れていないのが分かる。オレも同じ顔だろう。


「佐藤隊長も・・・深酒されたんですね。」


「あぁ、お前もか?」


「えぇ、アルコールのニオイが、お互いにしますね。」


そう言った小林の顔は、二日酔いのせいで青ざめてはいるが

昨日と違って、どこか吹っ切れたような顔をしている。

ヤツの『答え』が決まったのだろう。

それ以上は、何も会話をせず、王宮へ辿り着いた。


2人で王宮へ入る手続きを警備室で済ませる。

志村は、休暇だそうだ。元々、休むつもりだったのか、

昨日のうちに届け出たのかは分からないが、どおりで

昨夜は時間を気にせずガバガバ飲んでいたわけだ。

王室への通路で、東の城内警備の鈴木に会う。


「おはようございます、佐藤さん、小林さん。」


挨拶を交わすが、やはり鈴木の声はどこか元気の無い声だ。

もしかしたら、まだ『答え』を決めかねているのか・・・

決まってはいるが、不安なままなのか。

いつもの鈴木なら、社交辞令の会話が続くのに、今日は無言だ。

無言のオレたちが王室の扉へ辿り着く。

衛兵が扉を開ける瞬間、オレはなぜか緊張した。

まだ王様がいるわけじゃないだろうに・・・この扉をくぐることが、

自分の人生の節目を迎えるような気分だった。


王室へ入ると、すでに、王宮警備の後藤が待機していた。


「おはようございます、後藤隊長。」


小林の挨拶に、後藤は無言で一礼だけした。

それに便乗して、オレと鈴木も無言のまま一礼した。

後藤の横に並び、王様の到着を待つ。

後藤の顔は、いつも変わらない顔だった。コイツは本当に、立派な騎士だな。

4人が並んで・・・20分は経っただろうか。

オレたちは一言も会話をしなかった。

ただ、西の遊撃隊の高橋の姿が

ずっと見えないのが気がかりだった。遅刻か?


そこへ、人事室の村上が入ってきた。

王様は来ないのか?

おいおい、高橋、本当に遅刻か。

若干、やつれた顔のオレたちに対して、今日も化粧のノリがいい村上が


「おはようございます。今から用紙を配りますので、各自の名前と

『特命』を受けるか否かの回答を記入してください。記入が終わったら、

用紙を折り曲げて、他の方に見えないように・・・」


と、淡々と説明を始めた。


「ちょっと待って下さい!」


鈴木が声をあげた。


「何か?」


「まだ高橋隊長が到着していない。彼が来てから始めたほうがいいのでは?」


鈴木はオレが言いたいことを代弁してくれた。

どうせ遅刻なのだろうが、こんな大切な日なのだから、

待ってやったほうがいいだろう。

すると、


「ふぅ・・・。」


後藤が、なにやら意味深な溜め息をついた。

続いて、村上が少し呆れた声で答えた。


「みなさんの返答を聞くまで伏せておくつもりでしたが、高橋隊長は来ません。

これは内密に処理されることが決定していますので、

他言されないでいただきたいのですが、

高橋隊長は昨夜、婦女に暴行を働いた罪で、

地下牢にて監禁、現在は取調べを受けています。」


「!!!」


開いた口が塞がらなかった。高橋・・・何、やってんだ・・・。

鈴木も小林も絶句している。どうやら後藤だけは、知っていたようだ。


「高橋隊長は・・・いや、高橋容疑者は、本日をもって脱隊していただきました。

処罰はまだ未定ですが、数年の禁固刑は免れないでしょう。」


呆れてモノも言えない。でも・・・無念の気持ちが込み上げる。

同僚の、しかも同じ『リストラ』を下された仲間の末路が、

こんなカタチだなんて・・・自業自得だろうが、少なからずショックだった。




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