次のルート
階下へ降りると、すでに
朝食のいい匂いがした。
「おう、おはようさん!
朝飯は出来てるぜ。さぁ食べてくれ。」
そう挨拶してくる店主。
朝から元気なオヤジだ。
元気な挨拶をされると、こちらも
気持ちがシャキっとする。
炊き立てのご飯に、焼き魚。
昨夜の晩飯と同じく、
あえて辛い味付けになっていないようだ。
木下も、嬉しそうに食べている。
オレたちは朝食をいただきながら、
今後のルートについて話し合った。
「ここから近い隣国というと
『レスカテ』のほうが近そうだが・・・。」
「そうですね。
近いだけじゃなく、無事に通過できそうなのは
『レスカテ』だと思います。」
木下は、母国『ハージェス公国』から
数年前に来た時に、その国を通ってきているから
安全なルートが分かっているのだろう。
「そうか。では、『イネルティア王国』だと
安全ではないってことか?」
「そんなこともないのですが・・・
あの国は、すこし好戦的な人が多いそうなので。
争い事が日常茶飯事らしいです。」
『イネルティア王国』に
強い騎士団がいるのは、オレにも聞き及んでいる。
訓練やチカラを試すような大会も多いと聞く。
それだけ『強さ』に高い関心があるわけだ。
ということは、戦いが当たり前のように
あちこちで起こっているのも容易に想像できる。
「なるほど。余計なことに
巻き込まれる可能性が高いわけだな。」
「そうでなくても、おじ様は
厄介ごとに首を突っ込まれてしまうので、
『イネルティア王国』は避けて通るべきです。」
「うぐっ・・・そうだな。」
ちくりと釘を刺されたが、
ぐうの音も出ない。
今回のクラテルの件といい、
木下の件といい、
すべて自分から首を突っ込んでしまった結果だからだ。
「『レスカテ』は、どんな国だ?
たしか宗教国家だったと記憶しているが。」
「はい。どこへ行っても、お祈りをする場所があり、
お香の匂いがして、鐘の音が聴こえてくる国です。」
木下の言葉だけを聞いていると、
煙たくて、うるさい国に聞こえるな。
「安全そう、かな?」
「そうですね。宗教には戒律が付き物ですから、
悪事を働く人は少ないと思われます。
ただ・・・。」
「なんだ?」
「食べ物は、あまり刺激的なものはないですね。
たしか・・・お酒もなかった気がします。」
「な、なんだって!?」
刺激的な食べ物というのは、この『レッサー王国』のような
辛い食べ物ばかりの食文化ではないということだろう。
しかし、酒がないとは・・・。
刺激が無さすぎるのも困りものだな。
「あー・・・酒を持ち込むとか・・・。」
「それはきっと戒律違反で没収か、懲罰が課されるかと。」
「旅の者であってもか!?」
「たぶん、そうですね。
国境の関所で、荷物を調べられて、
その場で没収されて、罰金徴収されちゃうと思いますよ。」
いろいろと刺激が多い『レッサー王国』の隣りなのに、
刺激に対して、なんて厳しいな国なんだろう。
「・・・その国のやつらは、
なにが楽しくて、そんな国に住んでいるんだろうな。」
「おじ様、
お酒が人生の全てみたいなことを言わないでください。」
全てとは言わないが、
オレにとっては唯一の楽しみだ。
それが無いのは・・・けっこうツライ。
「『レスカテ』を通過するのに必要な日数は?」
「おじ様、必死すぎます。」
どうやらオレは切羽詰まった顔になっていたらしい。
いや、けっこう切羽詰まるものがある。
「えっと、たしか・・・
『レスカテ』は、東西に長い国土なので
約1週間ぐらいかかりますね。」
「くっ・・・1週間、禁酒か・・・。」
酒がないと生きていけないとは言わないが、
ストレス発散のひとつが無くなるのは、
想像するだけでツライ気がする。
ならば・・・
「ちなみに・・・
『イネルティア王国』を通過するのに必要な日数は?」
「おじ様、そんなに禁酒が難しいのですか?」
オレが必死すぎる質問をしたため、
木下に心配されてしまった。
「いや、そういうわけじゃないんだが・・・。」
「では、ルートを変更することは無いです。
『イネルティア王国』は遠回りですので。
『レスカテ』へ向けて出発しましょう。」
木下が、これ以上の話し合いは無駄だというように
朝食を済ませて、席を立った。
「あ、あぁ・・・そうだな・・・。」
オレは力なく返事した。
オレが席を立った時に、
食器をさげにきてくれた店主のオヤジが
「国境を越える前に、
酒を飲んでいけばいいんじゃないか?」
と、慰めてくれたが
「飲酒しているのが関所でバレて
あらぬ疑いをかけられるのは困るので
それも控えてほしいですね。」
と、木下がバッサリと切り捨てたのだった。
「・・・。」
オレが、がっくり肩を落としたところを
店主のオヤジが何も言わず、
ポンポンと肩を叩いてくれた・・・。




