敵の援軍到着!?
陽が傾き始めている。
そろそろ夕方か。
昼間の暑さが、少しずつ和らいできたのを感じる。
それとも、戦闘が終わったから
そう感じるのか。
トライゾンを倒してから、
ほかの村の村人たちを見つけたが、
ぜんぜん武装をしておらず、
戦闘訓練も受けていなかった。
ただただ、『窃盗団』に脅されて
一軒の広い家屋に詰め込まれて、働かされていたようだ。
戦意喪失していたので、村の自警団に
見張りを任せることにした。
オレが、ゆっくり村の入り口から出ると、
遠くで待機していた、木下とレーグルが
すぐに村の入り口まで走ってきてくれた。
二人がオレの元へ向かってくる間、
オレは、自分の腰をとんとん叩いていた。
「いててて・・・はぁ・・・歳だなぁ。」
戦闘中に、ひねってしまった腰が痛む。
体力は、もう尽きた気がする。
しばらくは、動きたくない気分だ。
・・・そういえば、昼飯を食べてないな。
どおりでクタクタなはずだ。
「おじ様!」
「佐藤さん!」
二人が、息を弾ませて駆け寄ってきた。
オレは、トライゾンの左腕を見せながら
村の中での一件を二人に話した。
「そうですか・・・。
『窃盗団』のリーダーは、
この村の出身だったのですね。」
木下がそう言う。
レーグルの手前、話せないが、
その事実だけで、木下の任務と
今回の『窃盗団』の事件は
無関係だったことが伝わったことだろう。
「さ、佐藤さん、俺、マジ感動っす!」
レーグルが、大げさに感動しているようだ。
何に感動しているのかは分からないが。
「クラテルの討伐依頼は、
本来なら、リーダーの首を持って
討伐完了となると思うが・・・。」
「そうですね・・・。
でも、それは仕方ないことだと思います。」
母親の話をしたからか、
木下は、トライゾンを討たなくていいと
感じているのだろう。
しかし、実際、トライゾンは
この国に対しての反逆罪に処されるだろう。
オレがトドメを刺さなかったとしても、
極刑は免れないだろうな・・・。
「リーダーの特徴のひとつである、
この『ドラゴン』の入れ墨が入った左腕1本で、
討伐完了と見なしてくれたらいいのだが・・・。」
オレは、クラテルからの依頼書を
布袋から取り出して、見つめた。
「いや、それは、もう討伐完了っすよ!
間違いないっす!
佐藤さんたちは、絶対、誰がなんと言おうと
討伐を成し遂げたっす!
俺が保証するっす!」
やたらと感動していたレーグルが
まだ興奮冷めやらぬ感じで、そう力説している。
いや、レーグルも騎士団だろうけど・・・
レーグルに保証されても、な。
「それ、貸してくださいっす!」
「あっ、おいおい!」
そう言って、レーグルは、
オレの手から依頼書を取り、
しゃがみこんで、なにやら書き込んでいる?
「それで、今、トライゾンは?」
木下が、そう聞いてきた。
「あぁ、今は、村人たちに
手当てをしてもらって、
母親とともに保護されている。
村を守る騎士団というのがウソだったとしても、
この村にいた間は、あいつなりに
ちゃんと騎士として、この村を
守っていたことは事実だからな。」
トライゾンは、村人たちに慕われていた。
おそらく、この期間だけじゃなく、
生まれた時から、ずっと
村人たちと交流があったからだろう。
「しかし、怪我人ではあるがトライゾンは犯罪者だ。
・・・村人に任せていて大丈夫か、
それだけが気がかりだな。」
母親の姿を見て、改心したとは言え、
一度、犯罪に手を染めた者を
このまま野放しにはしておけない。
もう剣は振れないとしても、
簡単な魔法ぐらいは使えるだろう。
逃亡してしまう可能性もある。
本来なら、さっさと騎士団に
身柄を引き渡していきたいところだが。
その騎士団の内部に、トライゾンと繋がっている
やつらがいるわけだから・・・
特に、今の騎士団長が・・・
「それなら、多分、心配いらないっす!
はい、これ!」
しゃがんでいたレーグルが
立ち上がって、クラテルの依頼書を
オレに手渡してきた。
依頼書には、『依頼達成』の文字と、
レーグルのサインが書いてある。
「えっ!?
これで、大丈夫なのか?」
心配になって聞いてみたが
「はい、これで佐藤さんたちは
依頼達成できたことを証明できるっす!」
たしかに、レーグルは騎士団ではあるが・・・
レーグルのサインに、そこまでの
効力というか、権限があるのだろうか?
・・・不安になる。
『窃盗団』のリーダーを倒したので、
一応、この件は収束したように感じる。
王都にいる騎士団、今の騎士団長のほうは
クラテルたちに任せるほかない。
王国の内部に関することだから、
オレたちが手を出せるはずもない。
もしかしたら、王都内で
ちょっとした内乱に発展する可能性もあるな。
そう考えると、クラテルのことが心配だが・・・。
「さて、これからどうするかな。
この村のことは、レーグルに任せて、
俺たちは、このまま東へ向かいたいところだが・・・。
東の方角に、ここから近い村か町はあるか?」
「ちょっと待ってください。」
木下が、自分の腰の布袋から
地図を取り出そうとしている。
その時!!
「!!」
オレは、遠くの方から聞こえてくる
音を聞いた気がした。
方角としては、西の方・・・
王都がある方角だ!
「なにか聞こえたような・・・?」
木下にも、レーグルにも
なにか聞こえたらしい。
オレと同じく、西の方角を見る。
王都から『ボルカノ』へと
繋がっている、遠くの街道に砂煙が見えた!
「まさか・・・!」
ドドドドドドドドドドドッ・・・
遠くの砂煙の中に
多くの馬や馬車の姿が見え始めた!
「まさか、王都の騎士団か!?」
「えぇっ!?」
こちらには、レーグルがいるから
大丈夫な気もするが・・・
今の騎士団長というやつが
トライゾンとともに王様への
反逆に加わっていたのだから・・・
トライゾンをそのまま『窃盗団』として捕らえて、
自分で反逆の計画を継続する可能性もある!
そうなれば・・・
オレたちはレーグルごと
口封じされてしまうかもしれない!
・・・騎士団との戦闘は免れない!
「連戦は・・・さすがにキツイな・・・。」
砂煙をあげながら
こちらに向かってきている騎士団を見て
オレは、そうつぶやいた。
遠いし、砂煙で、よく見えないが、
ざっと50人以上の騎士たちが押し寄せてきている。
あんな大群と、今の状態で戦うのは無理だろう。
今度こそ、本当に万事休すか・・・。
「あー、やっと来たみたいっすね!」
「!?」
レーグルが、嬉しそうに、そんなことを言い出した。
「え、レーグルさん、
まさか、あなたが騎士団を・・・!?」
「はいっす。
ここに来る前、
王都のモアナさん宛ての手紙とともに、
王城宛てに騎士団をこちらへ向かわせるようにって
手紙を送っておいたんす!
あれ? これ、言ってませんでしたっけ?」
ヘラヘラと笑顔で答えるレーグル。
その笑顔に、ゾッとした。
「お前・・・!」
「レーグルさん、まさか!?」
オレは、剣の柄に手をかける!
木下はレーグルから
素早く距離をとり、オレの横に来た。
迂闊だった!
今の騎士団長の命令に背きながら
『窃盗団』を探しているクラテルの
仲間だと信じきっていたから・・・
まさか、そのクラテルの仲間の中に
騎士団長と繋がってるやつが
潜んでいるという可能性を考えていなかった!
「えぇ!? ちょっ、ちょっと!
さ、佐藤さん! ユンムさん!
そんな怖い顔しないでくださいっす!
勘違いしないでほしいっす!」
「え?」
オレが臨戦態勢になったのを見て、
慌てふためくレーグル・・・?
オレたちと戦う意思がない?
そういえば、こいつなら、
油断しきっているオレたちを
いつでも背後から消すことができたはずだが・・・
「俺が手紙を送ったのは、
騎士団宛てじゃなくて、親父宛てっすよ!」
「レーグルさんのお父様って?」
「レッサー王っす。」
・・・。
・・・。
・・・。
「はぁぁぁぁぁーーー!?」
一瞬、間をおいて、
オレと木下の絶叫が響き渡ったあとに、
「あれ? これも言ってなかったすか?」
レーグルが、すっとぼけた一言を言った。




