剣より強し
「うっぐぅぅぅぅ・・・うぐぐぐっ!」
尻もちをついて
痛がっているトライゾン。
もう剣は持てないから、あとは蹴り技や
魔法に気を付けつつ、
やつの目の前に剣を突き付ける。
タッ タッ タッ ・・・
「!?」
「ト、トライゾン!!」
そこへ、家の入り口で
勝敗を見守っていたトライゾンの母親が
ヨロヨロと歩いて出てきて、
トライゾンとオレの間へ割って入り・・・
「か、・・・母ちゃん!」
「はぁ、はぁ・・・傭兵のかた・・・!
お、お待ちください!」
オレの剣の前で、土下座をし始めた。
「な、なにを・・・!?」
「さきほどは、息子を討ってほしいと、
頼んでしまいましたが・・・はぁはぁ・・・!」
土下座しながらも、母親は震えている。
「か、母ちゃん!」
「この子が、
大変な罪を犯してしまったのは分かっております!
討たれて当然なのも、重々承知しております!
ゴホゴホッ、ですが! ですが・・・!」
母親は土下座したまま顔を上げない。
ガタガタ震えながら、
地面に向かって、オレに訴えかけている。
「それでも、この子は・・・私の息子なのです!
はぁ・・・はぁ・・・こ、この通りです!
どうか、命だけは!
命だけは、助けてください! はぁ・・・はぁ・・・!」
「母ちゃん・・・。」
母親の下の地面に、ポタポタと涙が落ちている。
「はぁはぁ・・・
これでも、お許しいただけないなら・・・
はぁ、はぁ・・・
息子ともども、私も殺してください!!」
「!!」
母親が地面に頭をこすりつけ、
涙声で、必死に
息子の命を乞うている。
「あぁ・・・、やっ、やめてくれ!!
やめてくれぇ! もう俺はどうなってもいい!
頼む! 母ちゃんだけは、やめてくれ!!
ぐぁぁ・・・!!」
トライゾンは左腕を失った激痛に
顔を歪めながら、泣き声をあげ、
もぞもぞと動き出し、
土下座している母親をかばおうとしている。
見た目も、プライドも、なにもない・・・
ただただ、懸命に自分の母親を守ろうとしている。
『母は剣より強し』だな。
どんな最強の剣をもってしても、
この男の憎悪や野望を砕くことはできなかった。
母親のこの姿が、涙が、
この男の憎悪も野望も霧散させたのだ。
オレは、剣を振りかざし・・・
「や、やめてくれぇぇぇ!!!」
ビュン! ビシァッ!
剣に付いた血を
自分の後方に振り払った。
「!?」
キョトンとしているトライゾン。
オレは、腰の布袋から
布切れを取り出して、剣の血を拭き取り、
キィン!
剣を鞘に収めた。
「!!」
母親が顔を上げた。
そして、トライゾンから切り落とした
左腕を拾い上げる。
やはり、腕の入れ墨は『ドラゴン』だった。
それを確認してから、
「ふぅぅぅぅーーー・・・。」
深い溜め息をついた。
「お、お前・・・。」
「あぁ、オレは『竜騎士』の資格をもつ
『なんちゃって騎士』なのでな。
ドラゴンの討伐がメインで、
人間を狩るのは、オレの仕事じゃない。」
そう告げると、母親は
また頭を地面にこすりつけ、土下座した。
・・・ほかの『窃盗団』を容赦なく
あやめておいて、言うセリフじゃないが・・・。
「あ、あ、ありがとう、ございます・・・!
ありがとうぅございます・・・!ごほごほっ!」
母親は涙でむせながら、感謝している様子だ。
トライゾンのほうも頭を下げ始めた。
表情は見えなかったが、
「うぅぅぅ・・・うぅーーー!!」
地面が男の涙で濡れていた。




