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爾今、巨木の揺り籠。

 頬を紅潮させゆく澄み切った蒼。


「俺達これからどうすりゃいいんだろうな」


 命を全うするまでこのまま暮らすか?


「ましろがご主人を養って差し上げましょうか? 今度はましろがお返しする番です」


 飼い犬にお世話される主人とは一体。

 プライドもクソもあったもんじゃないな。


「お前の手にかかれば一生安泰だな。でもそれは俺が動けなくなった時に頼む」


「ましろが動けなくなった時、ご主人はご飯を分けてくれました。あの時の事は本当に感謝してるんです」


「あん時は食いモンとも呼べないシロモノしか分けてやれなくて、お前には辛い思いをさせたな」


「辛いわけ無いです、何時だってご主人が側に居て下さいましたから」


「俺が側に居ようが腹は膨れないだろ」


「いいえ。それだけで、ましろは満たされていたんです」


 やけに頑なだな、あの時の不安を悟られていたんだろうか。

 ご主人失格だ、俺は。


「お前のご主人に相応くあれるよう努めるさ」


「何があろうとご主人はましろのご主人です」


「ま、死んでも尚こうしてお前のご主人やってるぐらいだからな」


 冷たい空気が肌を刺激する。


「ちょっと冷えるな、近くに水場でもあるのかな」


「あっちの方から水のせせらぐ音が聞こえてきます」


 相変わらず頼りになる耳である。


「よし、じゃあ姿を変えてこっから一直線に向かうか」


 力むも、感覚を研ぎ澄ますも、何も起こらない。

 さっきはどうやったんだっけ。


「お前はどうやって姿を変化させてるんだ?」


 息をするかのように変身してるが。


「ましろにも正確には分かりません。体の奥から伸びる何かを掴むのがコツです」


 なるほど。ここをこうして――って、出来ねえよ!


「よし、移動はしばらくお前に任せる事になる。頼りにしてるぞ」


「(お安いご用です)」


「その前にこいつらどうしようか」


 11匹の巨怪を指差す。


「これ肉が臭すぎます。こんなの食べたくないです」


「確かにクッサいなコイツら。俺も無理」


 かと言って丸ごと捨てるのも勿体無い。


「皮だけでも有効活用しようか。骨は武器になり得るだろうけど自前の武器の方が業物だし今は要らんかな」


「流石にこのままでは重いですね。ちょっと待っててくださいご主人」


 おー、見事な手際だな。

 あっという間に肉と臓物、骨が取り除かれていく。


「流石だな、お背中失礼しますよ」


 よいしょ、っと。


「お前の背中、慣れたら柔らかくてクセになりそう」


「(気持ち悪いんで止めてください)」


 唐突な辛辣が心を抉る。




 たどり着いたは浅くも深き蒼。

 滋養を分け与え賜う川。

 それに寄り添うように溢れる生命。


「随分長くて立派な川だな〜」


「ご主人、水浴びしましょう! 水浴び!」


 あらまぁあんなに可愛くはしゃいじゃって、お前は犬か。

 犬だったわ。


「浅いとは言え気を付けろよ〜油断したらこの深さでも溺れるからな」


 それにしても水浴びなんて贅沢、いつぶりだろう。テンション上がるな。


 さてさて、遊ぶのもいいが日が暮れる前にこいつの処理を終わらせないと。


 手頃な石を選別し、その平らな石の上で作業を始め――


 ――日が暮れる頃。


「よし、こんなもんでいいか」


 石の下に伸された皮……革?


 何もしないよりはいいだろう、多分。


 ふと空を仰げば――もうすっかり夕方だな。


 ましろは遊び疲れて横でぶっ倒れている。


 このまま休みたいのは山々だが川の周りは危険が入り込んでくるリスクが高いからなぁ。

 作業中もちょっかいを出されたし。材料が増えただけだったけれども。


 いずれにしろ、ましろを起こして場所を改めるのが懸命と言えるだろう。


「お〜い起きろ〜場所を変えるぞ」


 気怠そうに体を起こすましろ。


「ご主人……おはようございます」


「寝ぼけてないでさっさと寝られそうな場所を探すぞ」


「ましろはご主人の腕の中で寝ます」


「それだと俺が寝られないんだが」


「うーん……あ! あのおっきい木なんてどうですか?」


「お、ホントだ、良さそう。作業に夢中で全然気が付かなかった」


「あそこが今日のましろとご主人の寝床です」




 悠久の時を感じさせるような、見事な大樹が荘厳なる威儀を正す。


「気温も丁度いいし風も止んでるから思ったよりは快適に寝られそうだな」


 洞窟の地べたで寝そべるよりは数倍マシだ。


 しっかし本当に高いな――見上げたら頭がクラクラしてきた。


「見上げたら頭がくらくらしてしてきました……」


 シンクロすなシンクロ。


「バカなことやってないでさっさと登るぞ」


 身長の30倍程の高さの地点まで登ったところで、俺達二人が丁度すっぽり収まりそうな窪みを見つける。


「少し狭いが及第点だろ。ちょっと早いけど明日に向けて寝ようか、今日は疲れた」


 だがここに来る以前の生活の方が、何倍も疲労し死んだように眠る毎日だったってのは、なんとも皮肉なもんだな。


 そんな事を考えながら就寝の準備を整える。


「ましろはもう限界です、おやすみなさい」


「ああ、お疲れ。おやすみ」



 この世界では、こいつを本当の意味で幸せにしてやりたい。

 元の姿に戻り既に熟睡している様子のましろを抱き寄せ、眠りにつく。



「愛してる」



 そう、呟く。



「(ましろもです、ご主人)」



 ……寝たフリとは姑息な。

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