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獣の魂、人のこころ。

 肌を撫でる不穏な気配、鼻を突く獣臭。


「ご主人」


 ヒトガタと化し、鋭い声色で警戒の意を告げるましろ。


「気持ちわるっ、なんだあの生物」


 いや、あれを生き物と称するのはいささか不適切であるだろうか。あれは――化け物だ。

 それが三匹、敵意剥き出しでこちらにまっしぐら。


「あれ、どうしますか」


 声と目が冷え切り完全に臨戦態勢に突入しているましろを尻目に思考を紡ぐ。


「今のましろなら無傷で逃げるぐらい余裕だろうけど」


 ましろと目が合うがそのまま続ける。


「逃げたところでそこが安全だって保障は無いしな」


 ここでの戦闘経験も積みたい。ましろが目線で肯定の意を示す。


「それに尻尾巻いて逃げるのは俺達には似合わん、そうだな?」


 肌で感じ取れる程のピリピリとした殺気が辺りを支配する。

 発生源は化け物――ではなくましろ。


「くれぐれも無理だけはするなよ。お前を失ったその瞬間、俺も終わりなんだからな」


「(分かってます、ご主人)」


 本当に分かってるんだろうか。


 犬の姿に戻ったましろが単騎で化け物の元に駆けていく。――って。

 おいちょっと待てやっぱり分かって無かったわコイツ。

 

 止める間も無いまま事は進んでいく。


 一匹、右脇腹に潜り込み左前足を振りかぶり一閃。

 一匹、右脚を払い首を粉砕。

 一匹、後ろ回し蹴りで背骨を両断。


 俺の出番無し。――かと思われたその刹那、死した筈の三匹の影から同種の化け物が数匹這い上がる。


 上半身だけを顕にした化け物の腕がましろの脇腹へと迫る。が、間一髪でその攻撃は空を振る。しかしその体幹は大きく崩れ――


 体の奥が冷たく煮える。


 追撃の手が、ましろに――




 気付けば事の中心。

 目覚めるは獣の魂。

 全ては愛する者を守る為。


 湧き上がる衝動のまま、引き裂き、喰い千切り――


「(ましろ、まだ戦えるか!? 俺一人だと厳しい!)」


 目を見開くましろ。


「(ご、ご主人!? そのお姿は、いえ、はい、ましろはまだ戦えます!)」


 阿吽の呼吸、噴き上がる鮮血。

 轟く断末魔、積み上がる骸の山。

 立ち残るは二対のみ。


 影から湧き出ていた不穏な雰囲気が消滅した。


「(これで本当に終わった、か)」


 地に足は付いている筈だが、目線は伏したように低い。が、安堵と共にそれは元の高さへ。


「俺は――いったい?」


 自分が自分で無くなるような、そんな感覚。


「漆黒の鬣、翠の鋭い眼光。それはそれは惚れ直す程に凛々しいお姿でした」


 そうか、俺は――


 ヒトでなくなる恐怖は計り知れない。が、しかし。

 このチカラのお陰でましろを救えたのは間違いない。今は感謝しておこう。


 まあ、こいつの事だから俺無しでもなんとかなったんだろうけど。怪我の保証はしないが。


「怪我は無さそうだが大丈夫か?」


「ましろは大丈夫です。ありがとうございます、ご主人」


「相変わらず肝が据わってるなお前」


 今回の件に関しては無謀にも等しいけども。


「必ずご主人が助けに来てくださると信じていたので」


「信じていても一人で突っ走るのは止めてくれ、肝が冷える」


 そう言ってましろを睨む。


「うっかり血が騒いでしまって……ごめんなさい」


 そのうち俺もうっかりで屠られそう。


「うっかりで血は騒ぐもんじゃないが」


「以後気を付けます」


「その自信はどっから湧いてくるんだよ、全く」


「ご主人がいけないんですよ」


「俺?」


「ご主人がましろを見捨てたことなんて、ただの一度もありませんでしたから。多少の無茶も平気だって、思っちゃったんです」


「そりゃそうだけどさ」


「それに、ちょっと良いところを見せたかったんです。ご主人に。でも、今回は失敗しちゃいました」


 そんな微妙な顔で微笑まれたらもう何も言い返せねえ。

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