幸せの増幅、それぞれの居場所。
夕飯が乗せられた机を四人で囲む。
キャトル族もとい猫の姿を駆使し一撃でレイを虜にしたカミルが今回の事件の顛末を聞き出しているようだ。
「ふむふむ、クロツグ様はやはり相当なお人好しですね」
つい先程殺戮の限りを尽くしてきた畜生には少々堪えるセリフである。
「今回は偶然が重なっただけだ」
とは言え見方によっては完全に否定し切るのも難しい為、適当に誤魔化しておく他ない。
「皆がみんな偶然で人助けが出来たらあたしは幸せに暮らせてたんじゃないかなぁ?」
「ではこの街を襲おうとした賊を討伐したのも偶然と言い張るつもりなんです? あれだけ英雄扱いされておいて?」
そう、ここに来る道中、どこから漏れ、だれが広めたのかは不明だが唐突に囲まれ謝辞やら羨望やらなんやらを散々浴びせられたのだ。
ついでに色々渡され宿に着く頃には俺ましろレイの両手が完全に塞がった。
その中には食材も沢山ありその度にましろが喜んでたから別にいいんだけれども。
悪評で目立つので無ければそれ自体は嫌ではない。
「すれ違いになってたらと思うと恐ろしいな」
若干ズレた回答で再び誤魔化す。
「そういう事では無いと思うんですけども……」
よし、ましろに横槍を入れてもらおう。
夢中で飯を食ってるましろの脇腹を肘でつついてアピールを行う。
届け俺の思い。
「ご主人ご主人、このスープ美味しいです! また作ってください!」
流石、伊達に長年主従関係やってる訳じゃないな。
「おっと、一気に話しかけられても返答に困るな」
「カミル、諦めも肝心だよ? クロさんがこういう人だってのはよく分かってるでしょ、一応あたしよりは出会って日が長いんだし」
そうそうこういう人……ってどういう人だよ。
まあいいや。
「そうだそうだ、レイの言う通りだぞ」
不服と言った様子のカミルにジト目を向けられるも、そっと目を逸らし事無きを得る。
「ん? どうしたのカミル? そんな暗い顔して」
逸した目を再びカミル向けると、レイの言う通り憂うような表情を浮かべている。
俺に流されたのが原因では無さそうだが一体どうしたのだろうか。
「クロツグ様たちはお引越しをされるんですよね。僕はこれからどうすれば良いのでしょうか」
ご主人……と小さくカミルが呟く。
なるほど、また置いていかれるとでも勘違いしてるのか。
「おいおい、何の為に迎えに来たと思ってんだ」
「でも、その……僕、男ですし」
何故かもじもじとしながらそう告げるカミル。
「おう。で、それに何か問題でもあるのか?」
「……お相手とか、出来ませんし」
「なんのだよ!?」
「あれ? だって僕が寝てる間、楽しそうなお声が聞こえてきますよ?」
ちょっと待て、そんな楽しい夜を過ごした覚えは無いんだけども?
心当たりがあるとすれば――
「ましろ! お前俺が寝てる間になにしてんだ!?」
「な、なにもしてません」
嘘だ! 絶対何かしてる顔だこれ! 俺には分かる!
「……つまり、男でも構わないと、そういう事でしょうか」
何かを決意するような上目を向けるカミル。
逃げるように再び目を逸らす俺。
「おい待て、微妙どころか盛大に食い違ってるような気がするんだが?」
「あっ、クロさんやっぱりそういう……しかも……」
得たりと言った様子のレイが言葉を濁す。
「やっぱりってなんだよ! 無いから! しかもの先も無いから!」
いつの間にか三人に振り回される俺の図が完成している。これはまずい。
「でも、身を置かせて貰うんだし、ちょっとぐらいなら、いいけど」
カミルに続きもじもじとし始めるレイ。
しかしこちらに関しては明らかにからかい目的であることが見て取れる。
そして常人なら卒倒する程の殺気を俺に向けるましろ。
このパターン何回目だろう。
「うん、俺が良くない。俺の身が置けなくなる」
「そっか。クロさんはましろ一筋だもんね〜」
その言い方だと語弊があると思うのだが気のせいだろうか。
そしてそのニヤニヤ顔を向けないで。
「レイちゃん、あんまりご主人をいじめるとかわいそうですよ」
さっきの殺気はフェイクか!?
二つ並ぶニヤニヤ顔の前に崩れる俺であった。




