物騒な帰宅路、帰るべき場所。
「なんかすげぇ事になってんな。どうすりゃいいんだ俺達」
街をぐるりと囲む外壁の上には対空兵器が所狭しと並べられ、そしてそれを守るように諜報兵、弓兵、魔力兵が散りばめられている。
空に赤色の煙を打ち上げられたと認識したのも束の間、直後に警笛が大きく鳴らされた。
「おー! なんかすごい歓迎されてますよ、私達」
こんな状況でもやはり動じないましろ。
冗談を言う余裕すらあるようだ。
「これは大方、俺達が出て行った直後に敵襲来の報が上がってきて、それを迎撃しようとしている。ってところだろうか」
先程叩き落として来た奴らがその敵に違いない。
「ちょっとクロさん!? 呑気に分析してる場合じゃないでしょ!」
「このまま突っ込んだら命の保証は無いだろうな〜」
まあ実際そんな事は起こり得ないと思うが。
根拠は町長の判断力と統率力である。
「いやぁ! こんどこそ落ちて死ぬんだぁ、あたしぃ……」
「流石の俺でもそんなバカな事はやらかさないぞ? ……さて、降りたいんだがどうしよう」
「キュ」
細かい意思疎通も可能な辺りはどういう理屈なんだろうか。
「ありがとう。さて、こっからはのんびり歩いて帰ろうか」
「いつもとは違ったお散歩が楽しめそうですね」
あっちも異常事態に気が付いたようだ。
兵たちが手持ち無沙汰に右往左往している。
「お、あの上に立ってるの町長じゃないか? どーもー! って、流石に届かないか」
しかし、俺達が俺達である事は視認出来たらしい。
「なんか狐に化かされたみたいな顔してない? あの……町長さん?」
「あの人、いつもご主人に化かされていますからね」
「誰が狐だよ」
そんなこんなで街の慌ただしい様子を肴にのんびりと散歩を楽しんでいると、街の門が開きその口から厳重な警護が張り付いた引き車が出てきた。
大方、しびれを切らした町長が入ってるに違いない。
――やっぱり入ってた。
「こ、こんにちは? ご機嫌宜しく――は無さそうですね」
「ク、クロツグ君? リケートのワイバーン騎兵は? そのワイバーンの子は?」
いつに無い気の抜けた声色で喋る町長。
「乗員をすべて叩き落してワイバーンは温厚だったので放してやりました。こいつは何故か群れを離れて俺達に付いてきました」
事実を正確に述べる。
「は、はあ……は? なんだって?」
「あとこれ、今回のお土産です。どうぞ」
「オ、オグスティン!?」
大袈裟に身体を仰け反らせる町長。
遂には声が裏返ってしまう。
「なんだ、お知り合いでしたか。ともかく、こいつの処遇は任せます」
「……私は眩暈がしてきたので少し休むよ……キミ、クロツグ君を手厚く」
……いつもいつもすみません。お大事にしてください。
「は、ハッ!」
「このワイバーンの子は門を通れないと思うので、上から失礼しても?」
「ハッ、承知」
この人、さっきから何かに怯えているような……って、そうか。ワイバーン? に対してか。
そんな怖いか? こう見えて結構かわいい奴なのに。
って、これを口に出そうものならまたましろに怒られてしまうな。気を付けよう。
任を継いだ兵士の人が右手を上げると、上空に青色の煙が打ち上げられた。
やはりあれは合図か何かだったのか。元の世界でも似たような道具が使われていた覚えがある。
「俺達の家のある方角は……あっちかな。角で良かった、あまり人目を気にせずに済むし。それとレイ、空はもう大丈夫だよな? ましろ、頼んだ」
「うん、もう大丈夫! ていうかクロさん達、家持ってるんだ、凄い」
すっかりテンション上がりっきりの状態となっているレイ。
結局ましろが手伝う間もないままワイバーンの背中へと器用に飛び乗った。
「大きな家ではないしまだ完成すらしてないけどな。庭ぐらいは使えるだろう」
建築の邪魔にならないといいんだけど。
「はやく見てみたい! クロさん達の住むところ!」
すっかり空中遊泳の虜となっているレイが住居を探し当てるべく、懸命に下を覗き込む。
「おうちもいいですが、辺りも静かでのんびりとしていてとっても落ち着くんですよ」
辺りは木々に囲まれている上、少し歩けば噴水もある。
のんびりとするにはこれ以上無い環境と言える。
「へぇー! なおさら楽しみになってきた!」
「壁に隠れてて見え難いが、ちょっとずつ見えてきたぞ。ほら、あそこ」
「わぁ、木がいっぱいある! ましろ、ちょっと向こうにあるあれは何?」
レイが指差したのは俺達の住居から少し街の中心へと移動した所。
そこにあるものと言えば案の定――
「あれは噴水、って言うんですよ。近くを通るととっても涼しいし綺麗なんです」
俺が説明するよりも先にましろが説明を入れた。
俺の素っ気無い回答よりも魅力を的確に伝えられたに違いない。
「へぇ……ほんと、きれいな街だね。リケートとは大違い」
その遠い目に浮かんでいるのは哀愁か、はたまた安堵か。
「俺達はまだリケートに行ったことがないから分らんが、そんなひどい有様なのか」
「うん。でもね、あたしはリケートも嫌いじゃないんだ。なんせ、自分が育った街だから」
そう、自分が育った場所というだけで、どんなに醜かろうとも愛着が湧いてしまうのだ。
「分かるぞ、その気持ちは」
「そう言えば、クロさん達はどこから来たの?」
これ以上無く直球だが、これ以上無く返答に困る問い掛けに頭を悩ませる。
「うーん、異世界かな」
結局、冗談半分に言い放つ感じで事実を伝えることにした。
「まーたクロさんは冗談を……冗談だよね?」
俺と自分自身を疑い切れていないような、そんな声色と表情で問い返される。
「さぁ、どうだろうな」
「ねぇ、ましろ?」
俺に茶化されたレイはましろに助け舟を求める。
「ふふ、どうでしょうね」
が、ましろにも茶化されてしまう。
「もー! 二人してからかって!」




