溢れる浪漫、空中散歩道。
「わぁ、とってもいい眺めです!」
堂々と突っ立ち下を見下げるましろ。
影で固定されてるとは言え大した胆力だなと惚れ惚れする。
そしてそれとは正反対の反応を示しているレイに声を掛ける。
「ほら、レイもいつまでも俯いてないで顔上げろ」
「やだ、こわい」
小さな頭が左右にフルフルと振れる。
頑固な奴には仕置が必要だな?
「ましろ、やれ」
「えいっ!」
――グキッ
「っったぁ!? 今! 首から! 変な音がしたんだけど!?」
うん、完全に逝ったよね今。
でも割と元気そうだから大丈夫っぽくも見える。
「一瞬で治したので大丈夫です」
……やはり一瞬は逝ってたらしい。
「ちょっとぉ!? 大丈夫なのあたしの首!?」
伏していたのも忘れ、必死に自分の首の安否を確かめるレイ。
やはり先入観で高所を怖いと思い込んでいるだけのようだ。
「ちゃんと前、見られるじゃないですか」
「ひいっ!? あ、……こわ、く、ない、かも」
「ほら、よく見てください。ね? とてもきれいです」
「うん、きれい――こんな景色を食わず嫌いするのは確かにもったい無かったかも」
今度こそしっかりと、目の前の景色に正面から向かい目を輝かせている。
「自分の背丈より高い位置から見下げるのは恐怖もあるが、同時に今まで見えなかった物も見えるようになるからな」
下を見て立ち止まるぐらいなら、上を見て転んだ方がマシだ。
「確かにそうだね。あたしは今まで見ようとしなかった、見られなかった景色をたくさん見たい」
「とは言っても生き急ぐ必要はないけどな。気まぐれにのんびり過ごすぐらいが丁度いい」
「クロさん達ののんびりは、あたしにとっては命懸けだよ……」
「はは、そうかもな。……ん? なんか向こうの上の方に影が見えないか?」
決して小さくない何かが、浮いている?
不思議が連続するこの世界に慣れてしまった今では、これぐらいの事ではもう驚かなくなってしまった自分がいる。
「えっ、どこどこ? う、うーん? 雲に隠れて何も見えない」
「ご主人は目が利きますからね、ましろにも分かりませんでした」
可愛らしく必死に顔を覗かせる彼女らに気を取られる内に――
「あー、もう見えなくなっちまった。なんだったんだろ」
ただの気のせい……いや、そんな筈はない。
後で町長辺りに聞いてみるか。
あの人が知らないなら多分この辺じゃ誰も知らないだろうし。
「後で見に行ってみたいです! でも、今はレイちゃんを送るのが先です」
「レ、レイちゃん? ってあたし?」
「レイちゃんはレイちゃんです」
「レイちゃんかぁ……なんか照れちゃうかも」
それは、魔が差したとでも言うべきか。
「レイちゃん」
「クロさんは呼び捨てでいいから! 流石にやめて!?」
「ご主人……きもちわるいです」
これは素直に俺に非がある……が。
歪んだ愛をぶつけられるのはセーフ、これはアウト。
「お前の気持ち悪いご主人像がいまいちつかめない」
「クロさんって見た目ちょっとこわいけどユーモアあるよね」
「見た目に関しては育ちが悪いのが大体の原因だから大目に見てくれ」
「そ、そういうつもりで言ったわけじゃないのに」
少々項垂れてしまった様子のレイ。
俺がフォローを入れる前にましろが励ましに入った。
「レイちゃん、ご主人は案外繊細なお人なんです。だからこそ、たまにからかうと面白いんですけど」
「ん? 聞き捨てならん発言が聞こえたような?」
「ましろのご主人はすばらしいって言ったんですよ」
「よーしわかった、ここから叩き落してやる」
「お手やわらかにお願いします」
手を広げ無防備に微笑むましろを見てるだけで癒やされてしまう。
やはり俺はチョロいのかもしれない。
いや、互いが互いにチョロいのだろうか。
「二人は本当に仲いいよねぇ。あたしにも出来るかな、そんな人」
どこか遠い目を文字通り遠くに向けるレイ。
「レイは可愛いからな、すぐにでも出来るだろうさ」
「か、かわいい、のかな、あたしって」
――一点集中された殺意が突き刺さる。
発信地は言うまでもない。
「おおおおおおっとぉ、レイも可愛いがましろの方が可愛いぞ! 勿論!」
「あはは……ましろと比べられちゃったら敵わないかな……」
俺のうっかりで困り顔にさせてしまった。
ましろにも釘を刺しておかなければ。
「おい、少しは自重しろ」
ヒソヒソとましろに耳打ちをする。
「ご主人はましろがほかのオスにかっこいいとか言ったらどうします?」
そりゃあもう嫉妬に狂って――
「うん、俺が悪かった」
「そういうことです」
完膚無きまでに論破された上、逆に釘を刺し返されてしまった。
「もー、また二人だけでなんか喋ってる……」




