飛来する影、穿ち叩き伏す。
腐海を抜ければ生命の息吹は紡がれ編まれ。
視界めいっぱいに末広がる緑の絨毯。
頭上で輝く紅鏡に身を翳せば、風のそよぎを尊び微笑む。
「この世界って、こんなに綺麗だったんだ」
俯く事を忘れた翠の瞳が輝く。
「どうした、唐突に」
「醜く、汚く、大切なものなんて直ぐに失われていく。あたしに見えてたのは、そんな景色だけだったからさ」
「足を止めたその一歩先に光が差していたなんてよくある話だからな。要は心の持ちようってこった」
「(ましろとご主人も、そんな感じでしたからね)」
「そっか、そうだよね。……あたしにとっての光はクロさんとましろ、だったのかな」
そんな気恥ずかしい事を言われても困る。
「ましろはそうだと思うが俺に関してはどうだかな。どっちかと言えば闇じゃないか」
「あははっ、ずいぶんと明るい闇もあったもんだね」
「ましろが明る過ぎるから反射してそう見えるだけだろ」
「ましろが明るいのはそうだけどさぁ、自覚無いんだね。クロさん」
自覚……自覚か。ほんとに気まぐれの自己満足に過ぎないからなんとも言えん。
「(ふふ、ご主人はそういうお方ですから)」
「そういう方ってどういう方だよ。……ん、何か――こっちに? 上か?」
平穏なる世界を叩き壊すかのように、不穏な空気が押し寄せてくる。
そして、間もなく後方に顕現した。
この距離では巨大な両翼とそれに似合う大柄な図体を持つ生き物で、恐らく上に人が乗っているであろう、という事ぐらいしか分からない。
だが、飛来してきた方角はリケート。向かう先は俺達の街。その情報、事実だけで十分。
即ち、容赦は無用。
「な、何? ちょ、え、あれ、めっちゃ怖いんだけど!?」
謎の飛来生物に対しビビりまくるレイ。
そんな世界の終わりみたいな顔せんでも。
「(すみませんご主人。風向きが悪く気づくのが遅れてしまいました)」
「あの様子だと俺達を追ってきてるって感じじゃ無さそうだな。目的地に関してはどうやら俺達と同じらしいが」
そういや、あの町ってまだ名前が無いそうだ。
道理で街の名前の聞かないわけだ。
住人からはレスト、と、呼ばれる事が多いらしいが。
って、今はそんな事を考えてる場合じゃ無かった。
「通したら面倒そうだし俺達でなんとかするしかない、か」
随分と物騒な殺気を纏っているからな、アレ。
脅しの類いで無い事は明らか。野放しにすれば俺の、俺達の大切なものが沢山壊されるだろう。
俺達を優しく迎え入れてくれた人が、俺達の様に愛し合う者が、そしてあの場所自身が。
それは困る。故に全て叩き潰す、奪われるなら奪うまで。
葛藤など無い。綺麗事を抜かす余裕も意味も、価値も須く無い。
「クロさん本気!? あんなのと戦ったら死んじゃうって! そしたらあたしは!?」
必死に訴えすぎるが余りちょいちょい声を裏返している。
「おーおーさっきまで死ぬとか言ってた奴が随分と生に執着するようになったもんだな?」
「そうしたのはクロさんとましろでしょ! だから死なないで! あたしも死にたくない!」
「死にゃーせんだろ、あれぐらいじゃ」
「(ご主人を伏すなら世界燃やすぐらいはしませんと)」
それは言い過ぎだが、ちょっと前にあれより倍以上デカいバケモンと戦ったことあるしな。
もう飛んでる程度の敵に怖じけたりはしない。
「よっしゃ、じゃあいっちょ不届き者に一発ブチかましてやるとするか。いくぞ、ましろ」
「(がってんです、ご主人!)」
「いやあぁぁあぁあぁ! せめてここに置いてってえぇぇ」
じたばた藻掻くレイを無理矢理影で縛り付ける。
「バカ言え、ここより安全な場所なんて無い」
「嘘! ぜったいウソ!」
「(ご主人はウソなんて付きませんよ、たまにしか)」
うん。うん?
「あっちもこっちに気が付いたみたいだが、どうやら警戒すらされてないっぽいな。ま、そりゃそうか」
「(はい! はい! ご主人! ましろ、試してみたいことがあります!)」
「ああ、分かった。レイ、降りるぞ」
「えっ!? なんで!? 嫌だって! ――ひゃっ!」
全身硬直状態のレイを抱え一息で飛び降りる。
「っ、っと。衝撃は殺したつもりだが、大丈夫か?」
見た感じ、顔面蒼白なのを除けば元気そう。
「あ、あたし、死んだ……」
「いや死んでねぇよ。冗談言う余裕あるなら大丈夫そうだな」
ましろの方から、めらっ、とした殺気が漂い――速やかにレイを地面に降ろす俺。
危うく標的になるところだった。
「(そいっ! やった、きれいに飛びましたよ! ほら、みてください!)」
その光は導かれるように一点へと収束。
輝く矢に穿たれ、そこを軸にくるくると回転するように巨体が落下していく。
光魔力は火力が低いとか聞いた記憶があるが……これは如何に。
「え、えぇ!? なにいまの!? どこからだしたの!?」
「おう、見事だな。んじゃ俺も」
内なる魔力に語り掛け、狙い澄ますは地上の影。
それを一息で押さえつけるように手の甲で地面を叩き付く。
「今度はなに!? いきなり止まったけど!? って、落ちてくるっ!?」
日の当たらぬ面と地上の影を軸にして八つの巨体が弧を描き――地を打ち轟音の波を打ち立てた。
「どわあああぁぁぁぁぁ!? ゆれてる! ゆれてるって! あわ……いたっ!」
体幹を失ったレイが軽い尻もちを付く。
「ご主人ずるいですー! ましろ、三つしか落とせませんでした……」
「わり、勢い余った。……上の人間、生きてるかな」
拉げてないといいんだが。余計な手間が増える。
「お、終わっちゃった、の?」
オーバーリアクションの連続で体力を消耗したレイが肩で息をしている。
「どうだろうな、何はともあれ近付いて確認してみるか」
「確認するまでも無い……よね?」
「獲物の確認は基本です」
「え、獲物って……」




