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明かすも尚、夜明けまでは遠く。

 曙の宿前にて、静寂と薄明かりが足並みを揃え闊歩する。

 そんな美しい交通を阻害する影が三つ。


 いつもより早めに入ってきた朝飯を溶かそうと、胃袋が不満そうに働いている。

 二人も未だ目を擦っており、夢うつつと言った感じだ。


「んじゃ行ってくる、留守番頼んだ」


「はい、行ってらっしゃい。クロツグ様」


 昨日の昼飯と夕飯のおかげだろうか。

 すっかり顔色の良くなったカミルが俺達を出送

る。


 流石に敵の本拠地にホイホイ連れて行く訳には行かないからな。


 とは言えある程度隠密には長けているようだし、この街を散策するぐらいは大丈夫だろうと言う事である程度の金は持たせてやった。


「なにかおみやげを持ってきますね」


 ましろがここまで他人に善意を寄せるのはやはり珍しい。

 カミルの存在はこいつを大きく成長させているようだ。


「ほんとうですか? ありがとうございます、ましろ様」


「ですから、その様付けはもうやめてください……」


 げんなりとした様子でましろが訴える。


「あっ! す、すみません」


「俺の事もそんな畏まって呼んでくれなくてもいいんだぞ?」


「クロツグさん。……やっぱり、恐れ多くて無理です……」


 どこか余所余所しい感じのカミル。


「そ、そうか。強要はしないから好きに呼んでくれ」


 その様子を見てると若干の距離を感じざるを得ない。

 なるべく親しみ易いようにと心掛けてはいるつもりなんだが、やはり難しいな。


「僕のご主人に会ったら、お願いします。カミルが寂しがってますよ、って」


「ああ、任せとけ」


 後ろ手を振り、一度の別れを告げる。

 静まり返った街並みからは、どこか寂しいような、それでいて神秘的な。そんないつもと違った印象が景色を織り成す。


「ご主人。うで、かしてください」


 言われるがまま腕を差し出す。

 それをましろは腕を回し優しく絡め取るように固定。

 そうして、体制が整ったとでも言わんばかりに、肩から一直線にこちらの身体に軽く寄り掛かってきた。


 なんだかこうしていると、全てを預けられたような、そんな錯覚すら覚える。


「……ちょっとくっつき過ぎじゃないか?」


 こちらの顔色を伺うかのようにその顔を覗かせるましろ。


「まんざらでも無さそうなお顔です」


 至近距離でその吐息を感じたと思えば、例のいたずらっぽい視線が目に突き刺さる。


「そりゃ顔はそうかもしれんがな?」


 そこは否定しないしこの際どうしようもない。

 だが、そこに問題は無い。


 通りに人の影は見えないが、寝起きに窓を開けたら……なんて、考えたら。


「その、誰かに見られたら恥ずかしい」


 お前は恥ずかしくないのか? とでも聞いてやろうかと一瞬思ったが、返ってくるであろう答えは火を見るよりも明らかなので止めておく。


「ご主人、なんだか、お可愛らしいです」


 ましろはそう言うと、身体の密着率を更に上げ、今度は頭までゆったりとその質量を俺の肩に預けてきた。


 腕の支配権は完全に奪われ、左半身全体を柔らかい感触が祝福す……侵襲する。


 更には、ましろの艷やかな髪から漂う石鹸の油の香りが嗅覚を刺激し、前頭葉に執拗な追撃を仕掛けてくる。


「……気が済んだら離れてくれ」


 もうこれ以上何を言おうが状況は悪化していく一方だろうしな……


「ではきょう一日中このまま「それは勘弁してくれ」


 ひっつくましろにちょっかいをかけられながらも、外に繋がる門へと向かう。


 門へと一直線に繋がる道に出ると、巨大な二対の鉄の板が夜明けの音色を響かせ、左右に翼を広げようとしているのが丁度目に入った。


 ここまで来たことで人影も散見し始めるが、俺達の方を気にする素振りを見せる者は居ない。多分。


 ギルドカードを提示し、外出の許可を得る。

 どうやら一定以上のランクが無いと、この時間には出ていけないらしい。


 ……知らんかったんだが? ま、まあいいや。許可は降りたんだし。


 この方角をまっすぐ進んでいけばリケートの街に辿り着けるようだ。


 だいたいの方角さえ分かれば、あとはヒトの臭いを辿って行けば何とかなるだろう。


「ってことで例によって頼んだ」


「こんな静かな朝には、のんびりとしたお散歩を楽しみましょう」


「日が真上に昇る前に着いたらあっちでも引っ付いてていいぞ」


 思惑通り、ピクりと動くその背中。


「――! 急にやる気がでてきました」


「そうだ、試したい事があるんだがいいか?」


「はい。ご主人の全てを受け入れます」


「そこまでしろとは言ってない」


 闇の魔力に語り掛け、ましろの影と自らの影の定着率を高める。

 ましろの影とは特に親和性が高いようで、ちょっとやそっとの衝撃では剥がれる事は無いだろう。


 ましろが思いっきり駆け出そうが、身体に掛かる負担はほぼ無いといっても過言ではない。

 なんなら、このまま昼寝しても問題ないレベルですらある。


 ……ところで、さっきからましろの様子がどことなくおかしいような?



「(ご主人が、ましろの中に入ってくるような感じが、んっ……)」




 ――俺はそっと影の定着を解いた。

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