団欒、歓迎されし訪問。
「よし、飯が出来たぞ〜」
右手には野菜の付け合せ。左手には香草で煮た良質な肉。
後ほど出す予定の果物の切り身も控えている。
「わあ、美味しそうです! いただきます!」
「待て待て、食器使え食器」
そのままかぶり付きそうな勢いで料理に飛びつこうとするましろを制する。
「クロツグ様、お料理まで出来るんですね。見事な手際、出来栄えです」
「ほらほら、見てるだけじゃ腹は膨れないぞ。遠慮せず食え」
二つ余っていた椅子を一つ取り出し、煌々と目を輝かせているカミルの前に置く。
「いただきます。……! 美味しい、ほんとうに、ほんとうにおいしい……」
幸せを噛み締めるように、一口一口、食を楽しむカミル。
ましろの方は、見てる方まで腹が膨れてくるような気持ちのいい食べっぷりである。
二人がそんだけ美味そうに食ってくれたら、作った側としても甲斐があるってもんだな。
「その様子だと、まともなメシすら与えられて無かったのか」
「……はい。口に入れる事を許されていたのは、麦を伸ばして焼いただけの、ボソボソとした塊、それだけでした」
過去を憂うように眉を顰めるカミル。
「そうか。しばらくは俺達の元に居るといい、飯ぐらいは食わせてやるから」
「……クロツグ様」
解の無い問題でも与えられたかのような難しい顔で名を呼ばれる。
「ん? どうした、足りなかったか?」
「い、いえ、あの、あなたは何故、そんなに僕に優しくして下さるのですか」
「うーん、強いて言うならただの気まぐれ、なんだろうか」
「き、気まぐれ、ですか?」
尚更分からない、とでも言いたげな顔で解を聞き直すカミル。
「恩を買うのはあまり好きじゃないけど、売るのは割と進んでやる方だしな、俺」
「僕に恩を売った所で、見返りなど……」
「ま、この場合はただの自己満足だな。恩着せがましくするつもりは毛程も無いから気負う必要はない」
弱きを助け、強きを挫く。
そんな自分に、酔っているだけ。
見返り、結果はその後に付いて来たり、来なかったり。
それだけだ。
「……ありがとう、ございます」
「どうした、畏まって。手が止まってるぞ、飯が冷めちまう」
「あっ、は、はい!」
食事が終わり、片付けも丁度終わったその頃。
部屋のドアがコンコンコン、と鳴り響く。
大方、先の一件についての訪問だろうか。
「ご主人、町長です」
足音と匂いで判断したのだろう、ましろが俺に訪問者を伝える。
いくら屋敷から近いとは言え、あの人、ホイホイ出歩き過ぎでは……
屋敷の人にはどう思われてるんだろう。
ドアを開ければ、焦りを隠せない様子の町長の姿が目に入った。
「こんにちは、町長。先の一件についての訪問でしょうか」
「ああ、そうだ。いきなりで申し訳無いが、話を聞かせてもらってもいいかい?」
「勿論です。ここじゃ何ですから、どうぞ上がってください」
「ありがとう。それではお邪魔をさせて頂くよ」
ましろが調理場からお盆を持って出てきた。
「お飲み物です、どうぞ」
「気を使わせてしまってすまない。ありがとう」
客に茶出すなんて、どこで覚えたんだろうか。
後で褒めとこう。
「奴ら、恐らくはリケート絡みの連中ですよね」
「私が今、焦りを隠せない理由の一つがそれだ。この街では身寄りが明らか、乃至、名誉の功績がある者、それ以外には厳重な注意を払っているんだ」
「俺達、厳重な注意とやらを払われた記憶が無いんですが」
若干監視されていたような記憶はあれど、本当に最低限な感じだったような。
「明らかに身寄りが全く無いであろう者に関しても、基本入れる様にはしているからね。虐げられ、あの街から逃亡してきた者達に関してもそうだ」
「なるほど。貴方の情報網、とんでもないぐらい張り巡らされていますからね」
「ここまで成長させるのには、本当に苦労したよ……」
ふう、と一つため息を漏らす町長。
「それを奴等は掻い潜り、グライさん……逃亡者を追い、始末しようとした、と」
やり取りを聞く限り、そんな感じだった。
「やはり、君が持つ結論もそうか……だとすれば、自体は一刻を争う。大方、転移魔法でも完成させたのだろう」
「やはりあれは、そういう……厄介ですね。しかし、大勢の人間の魔力を要する、その上、瞬時に発動も不可、という欠点は抱えているようでしたが」
「ならば、直近で奴等が攻めてくるとは考え難い……か。とは言え、警戒の目は緩めないがね」
「賛成です。俺達も、早めにリケートにちょっかいを掛けて行こうと思います」
「その件についてなんだがね。この街からも正式にリケートの偵察依頼を君達に出そうと思うんだ」
「それは助かります。報酬、期待してますね」
「はは、大いに期待しておいて欲しい。では、これにて。健闘を祈るよ」
少し顔色の良くなった町長を出送ると、何やら叱咤の声が外から耳に入ってくる。
――旦那様! やはり此処にいらしたんですか! 勝手に飛び出して行かれたら困ります!
――すまないすまない、今戻るよ
――もう、奥様に言い付けますよ!
――それだけは勘弁して欲しい……
……あんまり周りに心配掛けないようにしてください、町長。
「あの方がこの街の町長さん、なんですね」
「最初は胡散臭いなぁとか思ってたけど、普通に良い町長だよあの人」
「あの人はお金をくれる良い人です」
茶出したのそういう事かよ。
全く、悪いトコばっか似るんだから……
「僕の事、多分気付かれていたんでしょうけど、見て見ぬ振りをして下さいました」
「あの人なりの優しさなんだろう。住人として、認められたって事でいいんじゃないか」
「そう、なんでしょうか。僕、ここに居て、いいんでしょうか」
「それは自分で決める事です。ですよね? ご主人」
「ましろの言う通りだ、あんまり難しい事を考え過ぎるな。ある程度は気軽に生きないと、どこかで壊れちまうぞ」
「二方の仰る通りです。もう……気張って生きる必要はないんですから」
「そういうこったな。これから夕飯の材料を買い出しに行こうと思うんだが、カミルは付いてくるか?」
「いえ、僕はお留守番します。少し、気持ちの整理もしたいので」
「そうか。じゃあ部屋でのんびりしててくれ。腹減ったら適当にそこらへんのもの食ってていいからな」
「ありがとうございます。それでは、行ってらっしゃいませ」
カミルに見送られながら、商店街の通りへと向かう。
歩を進める度に濃く成り行くその通り。
空は既に赤みがかっており、夜の帳が降りようとしていた。
「あの時も気まぐれ、だったんでしょうね、ご主人は」
「……そうだな。思えばあの日も俺は、気まぐれで、お前を」
「ご主人の気まぐれが無かったら、この今も、なかったんでしょうか」
「そうかもな。いつも俺の気まぐれに付き合ってくれて、感謝してる」
「ましろこそ、感謝してるんです。ご主人の気まぐれのその先には、幸せな未来が待っていますから」
「保証はしかねるがな。ま、なるようになるだろ。今までだってそう生きてきたんだ」
「ましろが保証します」
「なんだそりゃ」
……お前がそう言うなら、そうなのかもな。
顔を横に向ければ、幸せそうな笑みが目に入った。
それに気付いたましろ。
首を少し傾げ、今度は満面の笑みを浮かべる。
ああくっそ、無性に愛おしい。
衝動のまま、周りの目も憚らず、抱き寄せたくな
る。
「……今は手だけにしとこうな」
「ふふ、そうですね」




