招かれざる客、隔絶されし愛。
ましろがスンスンと鼻を鳴らす。
「確かに、間違いありませんね。そして……」
「はい、ボクはヒトではありません。ネコ……型の従魔です。それはついさっきまでの話ですけど」
カミルはそう言うと、猫型の形態へと変化する。
茶色を基調とした白と黒の斑点がコントラストを描くその身体。
ましろと比べるとその体格は大分小さく感じる。
「(この通りです)」
「こりゃ驚いた。ここじゃなんだ、一旦宿に戻ってゆっくり話を聞いてもいいか?」
「はい、よろこんで」
ヒトになったりネコになったり忙しいな。
ましろがえ〜、って感じで俺に訴えかけている。
こいつにしては言葉にしないだけ偉い。
「ハラ減ってないか? 遠慮しなくてもいいぞ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。優しいんですね、クロツグ様は」
何故か自慢げなましろ。
と思った直後、カミルの腹の虫がぐるぐると鳴りだした。
「あっ……お、お構いなく」
「はは、宿に戻ったらなんか食わせてやるさ」
「す、すみません……」
「ほら、着いたぞ。さあ入った入った、遠慮は要らんから」
「はぇ〜、立派な宿ですね……本当に良いんですか? クロツグ様を襲おうとした、ボクなんかを……」
「所詮あれはニセモノの敵意だ。そんなモノはなんの意味も持たない」
「そうですか……あなたは優しい。そして何より面白い方です」
こっちに来てから偶に言われるが、そんなに俺って面白いのか? 悪い意味では無いだろうけど何とも言えない気分。
部屋に入り、荷物の整理を行う。
一区切り付いた所で、ましろが例のヒモっぽいやつを持って近寄ってきた。
「ご主人、さっそく付けてみてもいいですか?」
「おう。貸してみろ、俺が付けてやるから」
「はい、おねがいします」
……
「……ん?」
「ご主人? どうかしました?」
「いや、どうしたもこうしたも無いだろ」
「はい、どうぞ。首におねがいします」
「いやそんなん分かってるが」
「……?」
いやそんなマジで分かりませんみたいな顔されても余計困るんだが?
「その姿で? 首輪付けるのか?」
「あれ? ちがいました?」
「絶対違うと思う」
「ふふ、お二人は本当に仲が良いんですね」
「まあ長い付き合いだか「当たり前です!」」
ずいぶん食い気味だな?
「ましろとご主人はココロもカラダも繋がっています」
身体は繋がってません。
「ご主人……。う、うぅ……ご主人……ボクの、本当のご主人は……どこに、っ……」
おっと、突然泣き出されてしまったな?
そうか。本当のご主人、か。
「ご主人と生き別れたのか」
「はい……ここに来る途中に……っ」
「どうせ暇だし、今は余裕もあるし。探すのくらいは手伝えると思うぞ」
「いえ……すみません。ボクのご主人は、もうこの世にはいないのかもしれません」
「……そうか」
「ボクは、見てしまったんです……ご主人が、ボクを庇って……っ、焼かれる、姿を……」
焼かれる……? そして確か"遠いところ"から来た、と。
「ご主人」
「ましろ、お前もそう思うか。カミル、もしやお前、この世界の住人では無いな?」
「えっ! ……な、なにを」
「いや、いきなり変な事言ってすまんな。見当違いだったら忘れてくれ」
カミルは悩む素振りを見せ、決心が付いたのか口を開く。
「……はい。仰る通りです。ボクは、一度死んだんだと思います。そして、この姿に、この世界に」
「ならカミルのご主人とやらもこっちの世界の何処かでお前を探している可能性が高いな」
「そ、それは本当ですか!?」
「ああ。俺達もな、一度死んだんだよ。あっちで会った事は無いかもしれないが、恐らく、カミルと同じ世界で」
「……この世界は、もう一つのホンモノなんでしょうか」
「そうなんだろうな、多分。俺自身、夢の中なんじゃないか、もしくは死後の世界か、なんて考えも未だに捨て切れてはいないんだが」
「ご主人、この世界に居るのなら、早くボクを向かえに来て、ください……っ」
「きっと逢えるさ。信じ続けろ、お前の主人を」
「そうですね。泣いてばかりいたら、ご主人が向かえに来てくださった時に笑われてしまいます」
「ましろのご主人も、お前にはいつも笑っていて欲しい。って口癖のようにおっしゃってますからね」
あんまり惚気話を持ちかけないでくれ……
「よし。話はここらへんにして、昼飯にするか。作ってくるからちょっと待ってろ」
部屋に用意されている簡素な調理場に向かい、準備を進める。
「あなたのご主人は、どんな方なんですか?」
ましろが自分から交流を図るだなんて珍しい事もあったもんだな。
「ボクのご主人は……いつだって、ボクを一番に考えてくれました。たくさんの大切な気持ちを、下さいました」
「ましろのご主人とそっくりですね! ……ましろのご主人の方が素晴らしいですけど!」
「ボクのご主人だって負けてませんよ!」
「おたがい、いいご主人にめぐり会えたって事ですかね」
「そうですね。本当に、ボクの自慢のご主人なんですから」
「……ふふ」
「……はは、あははっ」
なんだかんだ仲良さそうにしてて安心した。
主人を持つ者同士、自然とウマも合ってくるのかもしれない。




