光と闇、刹那の見切り。
外に設けられている闘技場へと辿り着く。
観客という名の野次馬が数人、俺達の試験を覗こうとしていた。
見せもんじゃないんだが……別にいいか。
「セタスの兄貴久々に見たなぁ」
「相手は誰だ? って、ただのガキと可愛い嬢ちゃんじゃねえか。セタスさんが相手とはツイてねえな」
「お前はどっちに賭ける? 俺は兄貴かな」
「バカお前、それじゃ賭けになんねえだろ」
町長の息子だけあって随分と有名人だな。
「試合は素手と素手の戦いで執り行われる。試験者は同時最大三人までの参加が可能。それ以上の場合は代表者が前に出る。今回の試験にはほとんど関係ないが、一応説明させて貰うよ」
「ありがとうございます、把握しました」
「私用の回復士と、念のため強力な回復薬を控えさせてある。お互い全力で取り組もう」
随分と便利そうなものがあるんだな、後で貰えないかな?
受付の女性が幕を持つ。
「僭越ながら今回は私が審判役を務めさせていただきます。試合、始め!」
戦いの幕が切って落とされた。
「こちらから仕掛けさせてもらう!」
是非を言わせぬまま早期決着を仕掛けるつもりだろう。
案外初見の相手には有効だったりするんだよな、下手に様子を見るよりも。
一息に距離が詰まる。
左足が踏み切られ、右足が前に繰り出される――否、それはまやかし。
僅かな体制の違和感、右手の構え。
思惑通り、その右足は同じように踏み切られ、更に勢いを増す右拳。
その結論に至るまでに己の思考が要したモノ、それは刹那。
避ける動作に必要な猶予が不足する筈もなく――その拳は空を掠める。
避けた勢いを利用し突き出された腕を抱え、拳の勢いそのまま後方へと投げ飛ばす。
そこに待ち受ける少女が一人。
飛来するそれに上薙ぎに脚を入れ、左前方へと蹴り返す。
――パァン、ミシミシィ……
乾いた鈍い音を震わせ綺麗な弧を描いた後、三回転。その後ようやく静止し――
「ゲホッ、ちょっ、待った。も、もういい、十分だ。合格!」
「しょ、勝負ありです!」
戦いの幕が閉じる。
「おい、見たか今の?」
「あのガキと嬢ちゃんバケモンか!? あのセタスの兄貴を一瞬で……」
「おっかねえ、関わらんとこ……」
周囲からは歓声が巻き起こった。
壮大な掌返しの中に混ざるあらぬ誤解。
悶え苦しむセタスさんの元へと駆け寄る。――大丈夫かな?
「大丈夫……では無さそうですね」
「やられたよ、気持ちよくな。ゲホッ、心配する必要はない、ほら」
一人の見知らぬ女性がセタスさんの元に駆け寄り手をかざす。
「さ、もう大丈夫だ。この通り」
そう言ってぶんぶんと身体を動かして見せる。
凄いな、回復なんたら。
「一瞬で元通りですね、今のは?」
「ああ。こいつはな、光属性魔力の使い手なんだよ。珍しいだろ?」
セタスさんに褒められたのが嬉しいのかその女性が照れている。
「光属性魔力ってそんな凄い事が出来るんですか」
へぇ~、と隣をちらりと見る。
どうしました? って感じで首を傾げるましろ。
……期待しない方が良さそう。
「全くあの親父は、ロクな情報も寄越さないままこんな仕事を押し付けやがって」
「何も知らされてなかったんですか」
「ああ、期待の新人二人の試験官を頼む。それだけだよ」
ひでえ。
「それはなんとも、あの町長らしいですね」
「相変わらずだよ、ウチの親父は……」
と、苦悶するような表情を浮かべる。
「それにしても君は驚くべき反応速度の持ち主だね。そちらのお嬢ちゃんもとんでもない脚力だったよ」
文字通り生きてた世界が違うからな……
「小さい頃から色々ありまして」
「一体どんな経験を積んだらそんな強くなれるんだい……俺の愚息、今丁度君と同じぐらいなんだがね、家でぐうたらする毎日さ。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだよ」
普通の人生を歩めば大抵の場合そうなるでしょうね。
「それは止めておいたほうがいいかと……」
苦笑いで返す他ない。
「君達は常人には知り得えぬ壮絶な過去を持っているようだ」
神妙な感じにさせてしまったな。
だが実際、あれが良い経験だったとはとてもじゃないが言う事はできない。
「俺みたいにはならないようにしてあげてください、息子さんをお大事に」
あぁ、益々微妙な感じに……
ある程度折り合いを付けたところで、気持ちを切り替えた様子のセタスさん。
「合格祝いだ、飯にでも連れて行ってあげよう、俺のおごりだ」
その言葉にピクりと反応するましろ。
ここで断るほど空気の読めない俺ではない。二つの意味で。
「ありがとうございます、それでは遠慮なく」
「ああ、今日は好きなだけ食べなさい。受付の嬢ちゃん! 後は任せたよ!」
「あっ、は、はい!」
困惑しながらも了承する受付の女性。
「冒険者認定証は後で届けさせる。一押しの店があるんだ、そこに案内しよう」
しっかしすっごい人が良いな、この人。
そりゃ人望も厚い訳だ。




