騒然たる朝、賑やかな働き口。
覚醒する意識、自由の効かない身体。
「な、なんだ?」
思わず漏れ出した焦りの声。
逃れようと必死に藻掻くも徒労に終わる。
この身を縛り付ける者の正体。――それは
「お、おい、ましろ。起きてくれ」
「うぅー、もうたべられません〜」
そんな呑気な寝言をつぶやき――その拘束は強さを増す。
密着する肌と肌。
「おいこら! さっさと起きろ! だ、誰か助け――」
朝食を目の前に、そんな今朝の顛末を思い返す。
「今朝からひどい目にあったな」
軽くましろの方をにらみつける。
「あ、あはは……ごめんなさい」
「まあいいや、今日は何をしようか」
と、疑問を投げたところで呼び出しの声が店内に響く。
「白い犬の従魔を連れた、黒い髪の少年は居るかい?」
ここに居ますね。
「明らかに俺達宛の呼び出しだな、ちょうど飯も食い終わった事だし行ってみるか」
案内された受付には見覚えのある人物が一人。
「おお、いたいた。坊主、昨日ぶりだな」
「おはようございます。本日はどのようなご用件で?」
「なんだ一日で随分と立派に喋れるようになったもんだな。町長を通じて親方から、お前らをギルドに招待してくれって頼まれてよ」
「なるほど。して、ギルドとはどのような?」
「あぁ、ギルドってのは――」
つまり雑用依頼を出せる場所って事か。
依頼はギルドを通じて"冒険者"へと紹介され、その目的を果たせば報酬が貰える――って事らしい。
なるほど、合理的な仕組みだな。
「俺達にはその冒険者とやらになってほしいという事でしょうか」
「話が早くて助かるぜ。引き受けてくれるか?」
得意分野だ、ってかそれしか出来ない。
「是非、そういう事には慣れてますから」
「そりゃ助かる。早速案内、と行きたい所だが、そっちの都合は大丈夫か?」
悲しいくらいに何もないですね。
「ええ、今からでも大丈夫です。荷物はもう纏めてあるんで」
「んじゃ今日はよろしく頼む。今日は仕事をサボれて役得だぜ、お前たちにいの一番に話しかけといてよかった、なんてな」
ニヤりと、親しみやすい笑みを浮かべるグライさん。
「っと、まだ名乗ってなかったな。俺はグライ、改めてよろしく頼む」
「よろしくお願いします。俺はクロツグ、こいつはましろです」
――この宿がある角とは逆側の道、そこをまっすぐ進んだ所にある開けた場所。
人口密度が高くて気が滅入る。
「そろそろだな。逸れない様に気を付けてくれ」
一応改めてましろに忠告しておこう。
目離すとすぐどっか行くからなコイツ。
「ちゃんと手、握ってろよ」
「はい、大丈夫です」
――中央がなにやら騒がしいな。
「てめえ! 今日こそは、このけちゃっぷの良さを思い知らせてやる!」
「なんだと!? お前こそ、まよねーずの美味さを味わいやがれ!」
随分と平和的な喧騒に、思わず吹き出しそうになってしまった。
「あいつら、またやってんのか……と、ここだな」
やれやれ、といった様子のグライさん。
そのままギルドの館内へ入ると――どこか他とは違った空気が肌を撫でる。
武装を解いてるとは言えど、一般人とは掛け離れた風貌の者がそこかしこに点在している。
そして集まる注目の目。
「女子供までこんなところに繰り出されるだなんて……この街も末だな」
冗談めかした声で呟く男が一人。
それに連なり苦笑交じりの笑いが広がる。
俺自身、ガキに見られるだとかそういうこと自体はあまり気にしてないので不快感は無い。
そっちの方が上手く世渡り出来るんだよな、大抵。最高の免罪符を捨てるのは惜しい。
それが理由で不都合が起きたり、過度な悪意を含んだ罵声を浴びせられたら、力で黙らせればいい。単純明快、至極簡単な事だ。
直接手を出されたなんて日には――
「やめとけやめとけ。例の貨車の依頼を受けてた奴によると、こいつらお前らより強いって話だぜ」
視線がとある一人の男へと集まり――圧に負け、黙って首を上下させた。
「マジかよ――確かに言われてみりゃ、俺ら甘ちゃんなんかよりよっぽど修羅場を潜り抜けてきたような貫禄があるな」
「それマジすか兄貴?」
「ああマジだ。分からないのか? お前」
なんか俺達の関与しないところで見る見るうちに話が誇大化していってるような。
「まったくあいつらは……ああ見えても悪い奴らでは無えんだ、仲良くしてやってくれ」
見た目は怖いが確かに悪い人達とは思えない。
「気の良さそうな人達ばかりですね」
皮肉交じりに聞こえるかもしれないがこれは本心だ。
「そう言ってもらえると助かる。早速だが、そこの受付で手続きを済ませて来てくれ」
えーっと、ここでいいのかな?
挙動不審になりながらも、受付と思われる場所へ向かう。




