絵空事のセカイ、純白。
気付いた時には一人だった。
孤独なる世界を彷徨っていた。
自分が何なのか、この世界が何なのか、それさえも分からない。
でも、こんな私でも、一つだけ分かった事がある。
そう。私は、知っている。
生きるのは、ただ辛いだけだって。
いずれ私もこの山の一部となるのだろう。
腐臭漂うそれから口に入りそうな物を漁る。
小動物を捕らえようとするも、この手足では到底届く筈も無く。その思惑は儚くも潰える。
この場に迫る大きな気配。
恐怖に身を任せるがまま、物陰で気配を潜め、無を演じる。
見つかれば死が待つ。
本能がそう、告げて来る。
ゆらゆらと揺れる影。
ただ、息を殺す。
どれくらい、怯え続ければいいのだろう。
いつまで、隠れ続ければいいのだろう。
どこまで、逃げ続ければいいのだろう。
それを続けた先に待つ道には、どうせ、ただ辛さが転がっているだけ。
恐怖以外の感情を私は知らない。
唯一、恐怖だけが私を守ってくれる。
恐怖だけが、私の味方。
恐怖に身を任せていれば生きて行ける。
恐怖以外の感情など私には必要無い。
そう思い込み続ける事が今の私に唯一出来る事。
そんな、惨めな生き様。
今日も今日とて、いつものようにいつもの場所へと脚を運ぶ。
ここに来る度に脚が重くなるのを感じる。
カラダが誤魔化し切れないほどの悲鳴を訴え始める。
突如、身体が恐怖に縮こまる。
もう、音も聞こえない。臭いすらも感じ取れない。
本能だけが、語りかけてくる。
逃げろ、と。
脚に力を入れるが、思うように動かない。
それもその筈。その脚は、既に自分の支配下には無いのだから。
そんな事すら理解出来ない己の本能。
尚も喧しく、警告を鳴らし、喚き散らす。
うるさい、鬱陶しい。
もう、いい。
恐怖なんて、もういらない。
だって、もう、うごけないんだから。
「おいこれ見てみろ、最近この辺を荒らしまわってたのはコイツじゃねえか?」
「なんだただの痩せこけた犬じゃねえか。適当に処分しとけ」
「処分ったってお前……この様子だとほっとけばそのうち死ぬだろ」
「………ああ、確かに時間の無駄でしかないな、行くぞ」
影はおもむろにこの場を去っていく。
もう、楽にしてほしかったのに。
この苦しみから解放して欲しかったのに。
四肢の自由も、首の自由も、五感も、全てが失われようとしている。
おなか、すいたな……
さびしいよ……
さむいよ……
なんだか、ねむく……
……あぁ、やっと――
穢れた山に気高く咲き誇る一輪の花。
それは清らかに、死した後さえ色褪せず。
今も尚、純白に輝き続ける。
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地に咲く夢を見た。
瞼の先には焦がれた世界。
優しく暖かな自分だけの場所。
「」
ふふ、じまんのもふもふですから。
ましろも、ご主人にくっついているとあたたかいです。
とても、とてもあたたかいんです。
「」
ご主人も寝てらしたんですか?
ましろも、あたたかくてつい寝てしまいました。
「」
……? ご主人だけ面白そうなのはずるいです!
「」
――!? ぜんぜんおもしろくないです!
ぜったいダメですよ、ご主人? そんな勝手なことしたら。おこりますよ?
「」
ましろも、ずっとご主人だけを見ていたいです。
だから、心配しないでください。
「」
いつもほんとうに感謝しています、ご主人。
おかげで、ましろはとても幸せです。
「」
ご主人だけは逃げてください。なんて、そんな残酷なことは言いませんよ。
「」
でも、すこしだけそう思っちゃうのは許してください。
「」
ご主人のいない世界のましろは、さびしくてきれいなお花でした。
ご主人にも見せたかったです、ましろのおはな。
「」
「」
はい。ずっと、いっしょです。
ましろ、こんどはご主人のとなりで咲きたいです。
そうすれば、ずっといっしょにいられますから。
ましろ、ご主人にふさわしいお花になれるでしょうか。
ましろが枯れても、ずっとそばにいてください。
約束ですよ。